第5話 家具まで揃える

 家具を売っているコーナーで、最初に見るのはベッドだった。

 俺とお姉さんの部屋に置く分はもちろん、玲奈と二人で寝るときに使う大きめのベッドも見ておかないと。

 個人用のものは収納とコンセントが付随したベッドでさっさと決めて、二人のベッドを選ぶことに時間を費やす。

 というわけで、適当に気に入ったベッドの札を籠に入れて玲奈とのベッドを見て回るんだけど……。


「マジでクイーンベッド買うの?」

「もちろんっ! 隼人は、私と一緒に寝るのはいや?」

「そういうわけじゃないけど、もっと小さくて安くてもいいんじゃないかなって」

「だめ! 一番大事なんだから妥協はしません!」


 でっかいクイーンベッドを買うつもりらしく、色とかデザインとかを選ぶことになっている。

 これが入る寝室の大きさに驚くけど、値段にも驚いてどうしても確認してしまう自分がいた。お姉さんがお金を出してくれると言っても、やっぱり、ね。

 ただ、俺としても広々としたベッドでゆったりと眠れるのは万々歳だし、玲奈がこれと決めたらそれに従って実際の寝心地とかで決めたいなと思う。

 試しにシーツを触って弾性とかも確認していたら、にこやかな笑顔の店員さんが近付いてきた。


「お客様。よろしければ実際に横になって寝心地を試してみませんか?」

「え、いいんですか?」

「もちろんでございます。やはりベッドは体に馴染むものが一番ですからね」


 店員さんから許可をもらい、玲奈が靴を脱いでベッドに飛び込んだ。そして、俺の手を引くから俺もすぐに靴を脱いでベッドに横になる。

 ふわっと包むような質感。寝返りが打ちやすそうな反発力。

 高級ホテルのベッドを彷彿とさせるような豪華な夜の時間が体感できそうないいベッドだった。高級ホテルに泊まったことないから知らんけど。

 そのまま寝心地を堪能していると、顔を回したときに玲奈の顔がすぐそこにあった。

 ふっくらとした唇から細かな吐息が漏れて鼻先をくすぐる。


「ふふっ、こうして顔を合わせて眠るのって幸せ」


 手を繋いで一緒に眠る姿を想像すると頬が熱を帯びた。

 至近距離で顔と顔が向き合って、可愛い寝顔がすぐそこにあって。ただ寝るだけじゃなくて、恋人同士ということはきっと夜とか朝にそういうこともするかもしれなくて……。


「隼人?」


 気づけば、玲奈の手が額に触れていた。

 ひんやりとした感触が気持ちよく感じる。

 けれど、それ以上に恥ずかしい気持ちが勝ってしまって、俺は慌ててベッドから飛び降りた。


「こ、これ寝心地いいんじゃないかな!? 体に馴染むって多分こういうことだし!」

「うーん……でも、そうだね。これがいいかも」

「ありがとうございます。では、こちらが購入の札になりまして……他にご入り用のものがありましたらご案内させていただきますよ。新婚ですと何かと必要になると思いますので」

「「しんっ!?」」


 俺も玲奈も店員さんの言葉に驚いてしまう。

 まだ同棲段階で新婚に間違われるのか。あぁいや、もしや普通のカップルは同棲の時に一緒のベッドを買わないのか?

 ネット記事では同棲中から一緒に寝るって見た気がしたんだけど。

 ただ、何が変わるわけでもないけど誤解は解いておこう。


「まだ同棲なんですよ」

「でも、早く結婚したいなぁ~。なーんて」


 上目遣いでそんなことを言ってくるけど、さすがにそれは反則すぎる。可愛い……。

 思わず玲奈の頭を撫でてしまうと、彼女も甘えるように頭を擦り付けてきて、もうさっきから心臓の音がやばいです。


「うぉっほん! 失礼しました。さて、同棲に必要なものになりますと大きめのソファや食器棚、テーブルや椅子、タンスにテレビボード辺りでしょうかね。足りないものを仰っていただけましたらご案内いたしますよ」

「よろしくお願いします!」


 何が足りないのかは俺よりも玲奈の方が詳しいし、そこら辺は任せよう。

 その後、足りない分でテーブルと椅子、それから棚なんかをいろいろと選んでレジへと持っていった。

 あの店員さんはとても親切に対応してくれて、頼んでないのに勝手に値引き交渉までしてくれて挙句の果てに新生活応援キャンペーンとかなんとかでカタログギフトまでいただいてしまった。ただ、この新生活応援キャンペーンって期限を見る限り先週までみたいなんだが大丈夫なのだろうか?

 優しい店員さんが店長さんに怒られないことを祈りつつ、配送サービスを頼んで店員さんにもお礼を言って店を後にする。お客様ご意見箱にあの店員さんを褒めちぎる内容の意見書も投入しとこ。


「ふぅ~。買った買った」

「こんだけ大金使うと気持ちよくなってくるな」

「だねー。高いものをこうばんっと買う感覚クセになりそう」

「さすがに控えないと破産するけどな」

「お姉ちゃんなら高いものしか買わなさそう」


 マジか、と驚いて玲奈と顔を見合わせ笑う。

 この時期はまだまだ昼の時間は長いけど、遠くの空が夕焼けに染まりつつあった。


「もうこんな時間か。ごめんね隼人。今日、外食か何か買って帰るのでもいい?」

「もちろん。っと、あそこにちょうどピザ屋があるじゃん。俺が出すから好きなの選んでいいよ」

「ほんと!? ありがとう隼人!」


 今晩のご飯を買いに、ピザ屋に入る。

 そこで定番のピザを小さなサイズで四枚、それとポテトやらチキンやら買った。

 ちょっと買いすぎかとも思ったけど、まぁ問題なし。これから帰って美味しくいただこう。

 やっぱり、ご飯は好きな人と食べるのが一番美味しいと思うんだ。

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