第4話 家電を買いに行こう
荷物を適当に整理し、お昼をカップ麺で簡単に済ませると、新生活のために家具や家電を揃えようと近くの家電量販店に出かけることにした。
家電量販店とは言うけど、家具とか生活用品もしっかり揃えている暮らしの総合ショップみたいな店舗が近くにあるというのだから、本当に玲奈の家は立地的に恵まれていると思う。
家を出て十分ほど歩くと、もう建物が見えてきた。
自動ドアを抜け、消毒をして早速売り場に向かおうと考える。が、大変なことを思い出してしまった。
「なぁ玲奈……近くにATMとかある?」
「え?」
「お金下ろすの完全に忘れてた……」
そう、手持ちがないのだ。
今回買うのは主に俺の部屋や共用の家具家電類だし、住まわせてもらっている立場かつ生活費は玲奈が多く負担するのだからこういうものくらいは俺が払わないと筋が通らない。
それなのに手持ちのお金がないとはかなりの問題だった。一応クレジットカードは持っているけど、上限額は十万だし既にサブスクとか諸々で使っている分もある。リボ払いに変更する方法は簡単だし会社からもちょくちょく案内は届くけど、それだけは絶対にやりたくない。
そういうわけでATMを求めて困っていたら、玲奈が笑いながら鞄に手を入れて分厚い封筒を取り出す。
「じゃーん! 三百万円があります!」
「え、なんで!?」
思わず封筒の中身を確認してしまうと、たしかにそこには帯が付いた札束が三つも並んでいる。こんな大金は見たことないから普通にビビる……。
「心強いスポンサーが出してくれたの! だからお金は気にしないで!」
「三百万円をポンと出すスポンサーとは一体……」
「お姉ちゃんなんだ。もちろん、条件付きだけど」
玲奈曰く、俺が荷物を整理しているうちに玲奈が俺との同棲が決まったことをお姉さんに報告したら、秒で駆けつけてこの札束を置いていったらしい。少しの時間玄関が騒がしくなったときがあったと思ったけど、なるほどそういう理由か。
それで、三百万の条件というのが、お姉さんも同居するから部屋の準備も一緒に進めておくことらしい。
なんでも、玲奈のお姉さんというのが少し変わった部類のシスコンらしくて、玲奈の幸せそうな顔を見るのがこの上なく好きなんだとか。
俺と同棲を始める玲奈は毎日幸せそうにするんだろうと思って、その顔を常に近くで見たいと同居を頼み込んできたらしい。今契約してるタワマンの契約更新時期に引っ越してきたいんだとか。
三百万をポンと出したり、タワマン住みだったりと聞くだけでもハイスペックなお姉さん。どうしてそんなにお金持ちなのかというと、投資とかそういうのでめっちゃ増やしたらしい。
生活費も出すし絶対に二人の邪魔もしないからと言われて、玲奈も同居を了承したって教えてくれた。
「そういうわけの三百万円だよ」
「一式揃えても余りそうな大金だな……」
「余ったら旅行に行くなり美味しいものを食べるなりして楽しそうにしている写真を見せてほしいって」
「そこは一緒に行こうよ」
なんで自分は写真を楽しむ立場なんだお姉さん。あなたのお金なんだから一緒に行きましょうよ。
まぁそんなこんなで、お金の心配は消えたからいよいよ売り場へと入っていく。
まず最初は俺の部屋に必要な家電から見て回ることになった。
照明器具と音楽プレーヤーはもうあるから、とりあえずエアコンと扇風機、加湿器辺りを用意した方がいいかなと思ってそれらが置かれているコーナーを巡る。
けど、玲奈はそれ以外にもテレビとか小型の冷蔵庫とかゲーム機とかなんでもかんでも用意する勢いで購入札を籠に放り込んでいく。
「さすがに豪華すぎないか?」
「普通だよ普通! 隼人には少しでもいい環境で過ごしてほしいから」
「待遇良すぎて引くんだけど」
最早ホテルの一室みたいになりそうで怖い。というか既に下手なビジホよりも豪華な部屋になると思うんだが。
他には、と悩み始めた玲奈を説得して早々にお姉さんの部屋に必要な家電を見ることにする。
お姉さんの部屋にもエアコンとかだけじゃなくてテレビやらその他諸々の家電が設置されることになり、ホテルの部屋第二号になりそうだった。
「玲奈の部屋の分くらいなら俺のクレジットで少しは払えるから、この際豪華にしよう」
「え、そんなの悪いよ」
「いいから。俺も玲奈には快適に過ごしてほしいし」
「隼人……っ」
同じような家電を別会計で籠に入れる。
個人の部屋はこれで充分だから、次は共用の家電かな。
「今使ってるものじゃやっぱりダメなの?」
「洗濯機も冷蔵庫も少し小さいかなって」
「まぁ、一人暮らしから急に二人も増えたら必要なものも多くなるもんな」
食材とか増えるし、洗濯物も増える。
あまり使ってないならもったいない気もするけど、この店は家電を下取りに出すと、後日その査定額だけ返金してくれるからお財布的問題は少ない。
エアコンは今ので問題ないとして、リビングに置いてあるテレビや熱カーペットや掃除機扇風機、そして洗面所の洗濯機に台所の冷蔵庫や電子レンジにトースターと買うものは多い。レンジとかトースターは買い換えなくてもいいかなとは思うんだけどね。
「これで粗方終わったな」
「え、まだだけど?」
「え?」
「ほら、私たち二人の部屋に必要なものがまだでしょ」
「二人の部屋?」
「え、同棲するんだから、個人の部屋もあるけど私たち二人の部屋もあるよね?」
それって夫婦の寝室的な……。
想像したら頬がものすごい熱を帯びた。言われてみたらそういうのもあるよね。
玲奈と二人で過ごす部屋で、大きなベッドがあってそこで……。
「隼人大丈夫? すごい熱だけど……」
我に返れば、玲奈が心配そうに俺の顔を覗き込みながら額に手を当ててくれていた。
「あ、うん! 大丈夫!」
「そう? 疲れているのなら言ってね? すぐに帰るから」
改めて大丈夫だと伝えて買い物を続ける。
基本的には個人用の部屋に置かれている家電を追加で買うけど、それに加えて自動掃除機とか布団クリーナーとか、睡眠の質を向上させるが売りのアルファ波とやらを出す音楽プレーヤー、果てはどこの家電量販店にもあるであろうマッサージ機も大きなものを購入することになった。大きなマッサージ機とか実際に買うことがあるなんて思わなかった。
「こんなものが入る部屋ってあったっけ? ベッドとかも置くんだよな?」
「三階に使ってない大きな部屋があるから、そこになら全然余裕もあるし入るよ」
やっぱ玲奈の家は大きい……。
購入することになった家電と家を思い浮かべながらレジへと持っていく。
お店の人も軽く驚いているような顔をして商品を通しているけど、気持ちは分かる。俺も驚くもん。
自宅までの配送サービスも頼んでお金を払い、封筒を確認するとまだ半分近く残っている。
三百万円とお姉さんの偉大さに感謝しつつ、次に家具を求めてフロアを移動する。
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