広嗣の怨霊(12)
穢れとは、目に見えぬものであり、時に人を死へと
外界の穢れ。それは西の
穢れの正体。それは人を苦しめ、時に死へと至らしめる
疫病は、時に外界からやってくる怨霊の仕業と考えられる事もあった。特に朝廷の上役である
穢れが
そんな羅城門であるが、ひと月ほど前に落雷があり、屋根の部分が破損していた。幸いなことに失火となることはなかったが、派手に壊れた屋根の部分は骨組みが見えてしまっている状態となっており、そこから雨漏りがしてしまう状態となっていた。
この門の修繕については、
朝廷は羅城門に金を使うというつもりはなく、公卿たちは穢れから自分たちを守ってくれている羅城門のことなど、無関心なのである。
解状が通らなかったという話を
そして、あの新月の夜に起きた出来事は、篁の口から語られることはなかった。
話したところで、誰も信じまい。
あの夜の出来事について、篁は口を噤んだままであった。
誰が、九〇年前に処刑された
そういったこともあり、篁が朝廷に報告したのは、二度の落雷があり、羅城門の屋根の一部が破損したという事実だけだった。
※
その夜は、雲の隙間から三日月の姿が見えていた。
闇の中を松明も持たずに歩く篁の姿は、珍しく白の
六道辻の井戸より冥府へと向かった篁は、冥府の入口である門扉の前に佇んだ。
いつもであれば、いるはずの
ただ、人がひとり通れるくらいに門扉は開いていた。
妙だ。
そう思いながら、篁は冥府の門を潜り抜け、閻魔大王のいる冥府裁判所へと歩みを進めた。
その様子を物陰で見守っていた者たちがいた。牛頭馬頭のふたりである。
「おい、なんで隠れなきゃいけないんだよ、
「いいから黙ってろ、牛頭。これは上からの命令なんだよ」
「上って誰だよ?」
不満そうな
「知らないよ。俺だって、
「そうなのか。我々の上って、誰のことだ。
「どうだろうな。もしかしたら、閻魔大王直々の命令かもしれんぞ」
「そうか。じゃあ、従おう」
急に素直になった牛頭は、物陰に身をひそめたまま、篁が門を通って行く姿を見送った。
牛頭馬頭の目から見ても、篁の様子はどこか違っているように見えた。
何が違っているのかはわからない。ただ、何か篁がとてつもないものを背負っているようにも見えていた。
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