第83話 パーティーは地上へ戻った
無事に転移陣も現れ、あとは核を回収して帰るだけとノクスが狼の死骸に目を向けると、血だまりの中に核が落ちていることに気付いた。水の魔術で地面ごと洗い流すと、オレンジ色の球体が現れた。
「前に見たものとは色が違いますね」
拾い上げた核に興味を示すナーナを見て、手に載せてやる。ガラクシアの迷宮から出たものはちょうどラノとノクスそれぞれの目の色に似ていたが、今回のものは明るい琥珀のような色合いだった。
「規則性は特にないんだって。七色集めると願いが叶うなんて言ってる人もいたな」
実際のところはただの伝説で、それだけいろいろな迷宮に潜れる腕があるなら七色集まる頃には大概の願いは叶っているだろうという、流れ星に願掛けするような話だった。
「報酬も渡したことだし、帰るか」
「あの、その前に一ついいですか」
ノクスは転移陣を踏もうとしていたグレアムたちを引き留める。
「事情を話すって約束したので、ここで伝えておきます。外では話しづらいことですし」
不審な自分たちを受け入れて信用してくれた彼らには、誠実に向き合うべきだと思った。ナーナとも目配せして、帽子を取る。今まで輪郭すらぼんやりとしていた二人の顔がはっきりわかるようになり、やはりそれも魔術だったかと、グレアムたちは納得した。そして
「……ラノ殿下?」
真っ先に気付いたのは、やはり貴族出身のネイトだった。
「言われてみれば、新聞で見たことある顔!」
「ラノ……殿下って、ガラクシアの? 金髪じゃなかったか?」
モリーはぽかんと口を開けて行儀悪く指を差し、グレアムは色合いの違いに首を傾げた。
「ラノは弟です。……騙していてすみません」
「弟……ってことは、ノクス、王族!?」
今までの数々の無礼がモリーの脳裏を過った。
「伯爵が連れてきたからには貴族に関わりのある方だとは思っていましたが……。この期に及んでまだ驚く要素があるとは思いませんでした。そちらはナーナリカ様ですよね。サースロッソ公爵家の」
「ええ!?」
ネイトが指摘し、ナーナは静かに頭を下げた。グレアムとモリーからどういうことだと視線を向けられた伯爵が二人を連れてきた理由をようやく説明すると、
「そりゃ隠すか。知ってたら絶対に連れていかないもんね」
理解と諦めが早いモリーは、はあ、とため息をついた。
「アイギア所長と知り合いなのも本当なので、『術具研のノクスとナーナ』で構いません。呼び方も話し方も今まで通りでお願いします」
「……わかった。俺たちも畏まるのは苦手だしな」
それからノクスの呪いのこと、ノクスとナーナが知り合いであることは非公開なので伏せていてほしいことを説明すると、難しい話が苦手なグレアムとモリーは頭が痛そうな顔をしていたが、とりあえず了承した。
「聞いたことは全部忘れることにするよ。あたしらの仕事に関係あるのは、ノクスが強くて役に立つことと、ナーナの作る飯が美味いことだけだ」
「助かります」
無事に地上に戻り、まずは伯爵を先に屋敷に送り届けると、ノクスとナーナはグレアムたちと共に、パーティーの盾役を務めるギュンターが入院しているという診療所を訪れた。盾役に相応しい重量感のある筋肉質な男性は、簡単な自己紹介をした後にいきなり一瞬で全身の傷が消える治癒魔術を掛けられて困惑していた。
「この際ですから、グレアムたちの怪我も治しますよ」
「……」
治癒魔術は使用する魔力が多い魔術の一つとして知られている。迷宮の中でも散々魔術を使ったというのに、ギュンターの全身の刺し傷や切り傷、骨折を完治させてもけろりとしているノクスには、さすがにネイトも半笑いだった。
「もう驚かないよあたしは」
そう言いながら、モリーも何か言いたげだった。
「既に完治してる傷跡は消えないんですけどね」
治癒魔術はあくまでも今悪い部分を治す魔術だ。ギュンターの全身にある古い傷跡や、例のモリーの傷跡は消すことができない。
「いいよ、これはこれで思い出みたいなもんだし」
モリーは自分の腕を撫で、グレアムは居心地が悪そうに顔を逸らした。
***
冒険者組合では魔晶や魔物の素材同様に核の買取も行っている都合上、その効果をチェック項目に沿って確認し、希少性や需要に応じて適正な値段を付けてくれる。滅多に使わない緑の依頼専用の窓口から鑑定のために奥へ運ばれていくオレンジ色の核を見送り待っていると、手続きを終えたグレアムたちがやってきた。ギュンターは突然完治したことが信じられない病院によって念のため検査されることになり、明日退院予定だという。
「世話になったな」
「こちらこそ。楽しかったです」
グレアムに握手を求められ、ノクスは大きく硬い手を握り返す。続けてネイトも手を差し出した。
「今度は我々がサースロッソに行きますから、その時にはまた面白い魔術を見せてください」
「いいですよ」
ネイトなら、術具研の職員たちとも話が盛り上がりそうだ。
そして最後にモリー。
「また縁があったら組もうよ。あんたがいると楽だし」
「ノクスは冒険者じゃないだろ」
「あはは……」
洗いざらい正直に話したがさすがにアストラの活動のことまでは言えず、笑って誤魔化した。
「お待たせしました。鑑定結果が出ましたよ」
和やかに話しているうちに声がかかり、ノクスを中心に上からグレアム、両側からモリーとネイトが結果の紙を覗き込む。火の魔術の威力上昇効果が認められたと書いてあった。
「ナーナに良さそうだ。術具研で身につけられるように加工してもらおうか」
「ご随意に」
ナーナにはその調査結果の良し悪しがよくわからなかったが、ノクスが嬉しそうなので何でも良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます