第8話 推理の破綻

「時間によって光るものかあ」

「大抵は夜の闇に光るものだよな。なんかホラーだかミステリーみたいだなあ」

 タブレットばかりだと疲れるので、大輝は紙のメモを取り出して書き出した。母から手書きを時々しないと字を忘れるし汚くなると言われているためだ。実際、テストの時に思った漢字が出てこない時もある。

『夜に光って見える物、光る物

 ・スマホの画面やライト

 ・懐中電灯

 ・ペンライト

 ・キャンドル

 ・たき火

 ・人魂

 ・街灯

 ・蚊取り線香

 ・花火

 ・虫取り灯』

 虫取り灯はこちらにきて初めて見た時は驚いたものだ。店の先にバチンバチンと派手な音を立てている紫色の街灯らしいものがある。

 父から「あれは紫外線で虫をおびき寄せて退治する虫取り灯だ」と教わった。音の正体は虫が感電して燃える音と知って怖くなったものだ。

 あと、ノートには植物としてツキヨノタケとヒカリゴケ、蛍は夜に光ると思い出して書き足した。

 意外と光る物は自然にも多いことに大輝は思った。幽霊なのか、あの家は元はお墓やお寺だったらわかりやすいが、中山のおじさんの話からして違うようだ。床下に実は……なんて事件だとしたら皆変死というのも祟りとなって納得できる。ただ、そうなると埋まっているのが逃げたはずのお嫁さんとなる。

「侵入して床下を掘るのは現代建築では至難の業だな。そもそもお嫁さん生きてるよ、ね?」

 大輝が独り言を言ってると友梨佳が慌ててすっ飛んできた。

「無い無い、それは無い。お嫁さん生きてるからっ!」

 独り言を聞かれたしまったようだ。

 まずい、また石トークが始まると構えたが、さっきので懲りたのかノートをのぞき込んで話しかけてきた。

「なにこれ? 例の家の光る物の推理? それでお嫁さんが埋まってると思ったの? それにしては幽霊が欠けてない?」

「まずは実在するものからだよ。中山のおじさんから聞いたけど、例の家は近所付き合いは微妙だったんだね」

「人魂があって、幽霊がないの? お嫁さんがどうのって疑ってたのに? 変な子。

 ま、いっか。さっきの光る家だけど、田舎あるあるとでも言うのかな、隣の家との距離が遠いせいか、大声とか音楽の音大きくても普通は聞こえないけど、あそこはたまーに隣の上田さんの家まで怒鳴り声届いてたから。しかも真夜中の三時とかに」

「相当な大声だね。それに、非常識だね。そんなに怒らせてるって何をしたの?」

「くだらないことばかりよ。上田さんが言ってたのはご飯が我が家の味ではないやら、働いてるからって家事を怠けるなって。家族が病気になる前からみんなニートか専業主婦だったのに、フルタイム勤務のお嫁さんに家事全般押し付けてたらしいよ」

 「うへ。それ、平成の話だよね? 昭和や明治じゃないよね? しかもそんな細かく聞こえるってお姑さんオペラ歌手か舞台俳優?」

「平成よ。しかも後期」

「えーっと、ヤバい家だねとしか」

「うん、嫁姑問題はありがちな話だけど、怒鳴り声の大きさと時間が普通じゃないから、皆は挨拶はしていたけど、微妙に距離取ってたの」

 中山のおじさんの話と同じだ。ここは町という名ばかりの狭い村社会だ。それは距離を置かれる。

「三時って言ってたけど真夜中に怒鳴ってたの? さすがに近所迷惑じゃない?」

「それもあるけど一回の説教が長いんだよ。上田さんは途切れ途切れに聞こえる怒鳴り声で『うわ、まだ続いている』と時計見たら最初の怒鳴り声から二時間が過ぎてたって。実際はもっと長かったのじゃないかな」

「それだけのエネルギーを家事に回さなくて嫁いびりにするんだ。じゃあ、お嫁さんが相当いびられてたから床下に……」

 拓真が恐る恐る訪ねると友梨佳は笑いながら否定した。

「だから、無いってば。離婚して荷物引き上げの際に親戚らしい人を大勢連れて手伝って貰ってたよ。それは私も見たもん。暴力振るう人って大勢の前だと大人しいのよね。あんたが不法侵入しそうなこと言ってるからさ、犯罪者になる前に忠告しにきたの」

「うーん、一番わかりやすい答えだと思ったけどなあ」

「オカルト漫画や小説の読みすぎ!」

 そう言って友梨佳は自分の部屋に引っ込んだ。汚れたエプロンしていたから拾った石の手入れに戻ったのだろう。石トーク責めは免れたが、仮説が否定されたことに悩んでしまった。

「化けて祟っているがわかりやすかったのになあ。あとは光る物の正体とか緒形さんって人から聞き込むしかないのかな。やっぱり家の中のものをなんとか見られないか。明日は役場の人にダメもとで聞き込みに行くか」

大輝はノートをめくり、質問事項を次のページに書き込み始めた。

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