第5話 荷解きと謎解き

「うまくじいちゃんを丸め込んだな」

 おやつを食べ終えて大輝が部屋で荷解きしていた時、陽太がニンマリとして入ってきて冷やかしてきた。

「怪談の調査だったら止められるに決まってるじゃん。大人は社会問題や勉強に関することは甘いから」

「ちゃっかりしてるな」

「ママの影響だね。ご機嫌取りの方法はだいたいママに通じれば他の大人にも通じる。でも、学校の宿題も兼ねてるからある程度社会問題として調べるけど。でも、光る家なんて怖いね。幽霊がいるのかな」

「呪いの石かも。ホープダイヤって知ってるか?」

「宝石の名前は聞いたことあるけど、何だっけ?」

「持ち主が次々と破産したり、殺されたりと不幸に見舞われた青いダイヤ。今はアメリカのスミソニアン博物館に展示されてる。そんな類かもな」

「その博物館は祟られてないの? 潰れないの?」

「さあ? とりあえず大丈夫みたい。案外、人間の私利私欲に対して呪ってて、博物館みたいな知見を広める良い場所には祟らないのかもな」

「陽太兄ちゃん。話を戻すけど、さっきの光る家はまだあるとおばあちゃんが言ってたけど、光る部屋は見られるの?」

「いいや、親戚らしい人が時々掃除に来るけど普段は雨戸をしっかり閉めてあるから今は見られないよ」

「そっか。って、親戚が掃除に来るってまだ新しい話なの? てっきり十年か二十年前くらいの話で荒れ放題の家なのかと思ってた」

「確か、四、五年前の話だな。事故物件で売りにくいけど、荒れるとますます気味悪がられるから親戚の人が草むしりや掃除に時々来てるよ」

「四、五年前なら、近所の人も覚えているだろうし、聞き込みできそう」

「父さん達の子供の頃はこういう怖い話あると、肝試しとか言って空き家に入って探検したと言ってたな。今は条例の関係で空き家になるとすぐ更地になる。取り壊さないのは中の家財も触りたくないのかもな。ある意味、高梁さん家は貴重だ」

「肝試し、廃墟探検の動画で見たことある。やってみたいけど、ちょっと怖い」

「今は不法侵入で通報されるから止めとけ。なんならこの町の消防団が肝試しを毎年やってるぞ。それじゃだめか?」

「うーん、怖いだろうけど、作り物のお化けだもんなあ」

「大輝はめんどくさいやつだな。消防団の肝試しも寺の中を一周するんだぞ。お化け役の人だけではなく、本物が出て来て襲ってきたらどうするんだ」

「とりあえず逃げる」

キョトンと大輝が答えると陽太は呆れ顔になってため息をついた。

「お前なあ。幽霊の怖さを知らないな。時速数十キロのバイクと並走する老婆の幽霊の話なんて有名だろ」

「そのお婆さん、生前にオリンピック出たら良かったのに。世界記録更新できたよね」

「それって、この幽霊話を知らないのか? それともボケで言ってるのか? まあ、いい。欲しがると思ったから、噂の高梁さんの家の地図とロードビューの写真をお前のスマホに送ったから」

「サンキュー、陽太兄ちゃん」

 大輝はスマホを操作して陽太からのデータを見ながらまずは現地へ行ってみようと思った。この家から二、三百メートルも離れていないからすぐ行けそうだ。

 写真の高梁家はよくある二階建ての家で雨戸は全て閉まっており、ベランダも無人で生活感はなかったが、手入れ直後らしく庭はきれいに草刈りされていた。カーポートは空だし、何も知らずに見れば留守中の家にも見える。この家で不可解なことが起きたとは思えない。

「『光る家』か。亡くなったのが祟りなのか、自業自得の貧困なのか、光る物の正体と、わからないことだらけだ。

 だから皆恐れてるのだよな。もし、真相や問題点が分かれば恐くなくなるのかな」

「逆に知らなければ良かった、となったりしてな。ご近所も『寝た子を起こすな』と言って口が固くなるかも」

 大輝はポツリと言ったが、陽太が意地悪く返した。

「そこは純粋に『周りの人達は良かったと思うのです。役場のケアに問題が無かったのか調べたいのです』と言い切る。自分のせいかもと思われると警戒されるけど、役所のせいにすれば少しは話すよ」

「お前、結構あざといな」

「父さんが愚痴ってるのを聞いたことあるから。『何でも役所の対応で遅れてるとか進まないというと相手もなぜか納得する』って」

「子どもにそんな話するとは宏明おじさんは相当だな」

「僕は両方の愚痴聞き役だから」

「え……、あ。そっ、そっか。荷解きの邪魔になるからこの辺にしておくぜ」

 しまったという陽太の顔をして部屋を出ていったことで自分は家庭の事情を話しすぎたと気づき、大輝は荷解きを再開した。

 陽太と入れ違いに今度はヨシ子が部屋に来た。

「自由研究がだめだった時用に陽太達が使ってた植物図鑑や昆虫図鑑など持ってきたよ。何か採集して標本にすればいいかと思って。鉱石図鑑は直接友梨佳から聞くのが早いから持ってこなかったよ」

「ありがとう、おばあちゃん」

 既に電子辞書の中に入っているが、ガッカリさせては悪いなと思い、大輝は受け取った。

 思えばこうして周りの様子をうかがってばかりいる。でも、父母よりも祖父母たちは自分を気にかけて心配してくれる。それだけでも大輝には救いだった。

 早くあの家から抜け出すにはやはり全寮制の高校へ行くしかないと改めて思った。







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