第7話 アーケード
放課後、ぼくはあえなく史音に捕まった。ぼくは史音、そして不幸にも校門で史音に待ち伏せされ、ぼく同様に囚われの身となった靖菜と共にアーケード商店街を歩く。
仙台駅から東北大学近辺。そして市役所付近まで伸びる仙台のアーケード商店街は全長1.4キロに及ぶ。深夜、早朝、元旦を除いて、常に人で賑わう場所だ。今も主婦やサラリーマン、ぼくたちのような学生たちが忙しなく行きかっている。先頭を切る史音が言う。
「アーケードから少しそれたところにね、おしゃれなハンバーガーショップが新しくできたんだって。今日はそこで作戦会議をするよ!」
うしろをダラダラついてく、不満げなぼくと靖菜を振り向いて見てもなお、史音は楽しそうだった。
「絶対にあたしたちで萩野先生殺しの犯人を……フェイスマンを捕まえようね!」
ぼくはため息と一緒に言う。
「犯人がフェイスマンだって決まったわけじゃないし、仮にそうだとしても、ぼくらがどうこうできる相手じゃないよ」
似たような声音がもうひとつ聞こえる。靖菜だ。
「嫌だけど同感。クラスの連中でヒーロー気取りのやつが何人も、八木山さんと同じこと言ってた。もう聞き飽きたんだけど」
史音はくるりとぼくたちに向き直ると、腰に手を当て仁王立ちで表情を険しくした。
「もう二人とも。考えてもみてよ! フェイスマンがあんなに街で好き勝手できたのは、あたしたちと同じドラマフリー能力があったからだとか思わないの?」
その可能性は大いにある。というか、フェイスマンの存在を知った時にその考えはあった。当時は身近に自分以外の能力者がいなかったから、最終的に力が強くて頭のおかしい奴がやっているんだと思うことにした。今は自分以外の能力者もいるし、やはりフェイスマンも何某かの能力をもっているのではないか、という考えが自分の中では強い。だからこそ、
「だからこそ、ぼくたちじゃどうにもできないよ。ぼくたちは能力が弱すぎる」
「そんなの、戦ってみなきゃ分かんないじゃん」
「戦わなくても分かる。ぼくは朝起きた時にしか能力を発揮できないし、戦えるような能力じゃない。史音だって、明かりをつけるだけで、光がレーザーとかになるわけじゃないだろ」
「うぅぅ。でも靖菜ちゃんは未来予知できるんでしょ? なら敵の攻撃とか予測して――」
「無理。彼と一緒で私も朝起きた時にしか未来予知はできない。あと前に言った通り『次回予告風』にしか視えないから、気の利いた予知はできない」
史音はぼくをねめるける。恐らく『あらすじ』で犯人の正体を探れないのかと聞きたいのだろう。
「自分の身近な人とか、ぼくと繋がりがある人の過去しか見られないよ。あきらめて欲しい」
史音はぐぬぬぬ、と唸ってから、
「やだ!」
と叫ぶ。行きかう人の目がぼくらに注がれる。ぼくと靖菜はうんざりというように同時にため息を吐く。文字通り息ぴったりだと、ぼくが内心苦笑していると、史音は少し先を指さす。そこにはアーケードの各入り口に設置された大型モニターがあり、以前『あらすじ』で見た時のように、フェイスマン対策としての『路上でのヘルメット、マスク非着用』の注意喚起の映像を映していた。
「二人とも見て! 本当はこのモニター、商店街のお店のCMとか、青葉まつりの告知とか、観光の案内とか出すところなのに、こんなつまらないもの流してる!」
史音の言う通り、アーケードの大型モニターは本来はもっと明るい用途で設置されたものだ。だが今は禁止事項を頭上から、文字通り頭ごなしに聞かせてくるディストピアの街宣メカと言った具合だ。それだけじゃない。アーケードを見渡すと街が安全だというアピールを目的としたポスターがいたるところに貼られている。観光客離れを防ぐための施策だが、物々しい雰囲気が出てしまい逆効果になっている。
「先生のことだけじゃない。みんなが困ってる。フェイスマンも能力者なら、対抗できるのは同じドラマフリー能力者のあたしたちだけ。あたしたちでフェイスマンをやっつけるの!」
これが映画のクライマックス付近だったら盛り上がる演説だったろう。でもぼくらは映画の登場人物などではなく、場所も地方都市のアーケード商店街の老舗時計店の前だ。ただ、周りの注目を引くだけ。ぼくと靖菜は同じ考えに至ったようだ。
「わかった、わかったよ」
「そんな大声出さないで欲しいんだけど」
ぼくと靖菜は自分たちの正体が露呈しないよう、二人がかりで史音をなだめる。その態度を同意を捉えたのか、史音は満面の笑みを見せた。
「よし、じゃあ全員の団結が固まったところで
史音はどんどん先へ進んでいく。隙だらけに見えるが、ここで逃げ出せば翌日、翌々日、さらにそれ以降も、彼女により強くつきまとわれることだろう。ぼくと靖菜は互いの疲れ切った顔を一瞬見あったあと、トボトボと史音の後をついていく。だが、
「あ……」
アーケードから目的地のバーガーショップのある路地に出ようとした瞬間、靖菜が小さく声を漏らして足を止めたのだった。
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