第8話

次の日、事件はおきた。




角や顔は布で隠し、屋敷を出発してコトちゃんのいる村までいざ向かう時までは順調に進んでいた。


この屋敷に来た時は彼の風に乗って来たから分からなかったけど、けっこう深い森、山奥で道は険しかった。


方向の分からない私に白蛇たちが道案内をしてくれようやく私が自分で歩いてきたところまでたどり着いた。

山をおりたのだ。




後一歩で森から出る、という時だった。

すぐ後ろに彼女の殺意を感じた。


いつもならすぐに感じ取れるが今日は体をほとんど布で覆っていたので感覚が鈍くなり、気づくのが遅れたのだろう。


急いで振り向くと彼女は何か鋭利な光り物をこちらに向けて襲ってきた。

私は間一髪のところで、するりとかわすことが出来たがすぐに身を次の一手がきた。


避けようとしたが角が枝に引っ掛かり間に合わず、私は彼女の鋭利なものを胸で受け止めてしまった。


当然のごとく私の胸からは鮮やかな血が吹き出、膝から崩れ落ちた。




そう、彼女は私が一人になるのを、彼から離れ屋敷を出るのをずっと待っていたのだ。

私を殺すために。


彼女は私が倒れるのを見届けると何処かに行ってしまった。



吹き出てくる血の中から、杉の、彼と初めて会った時の匂いがかすかに感じられた。

己を突き刺すこのナイフからだった。

きっとこのナイフで彼も傷付けたんだ。


息も絶え絶えになりながらも私は彼と約束したことを胸に、彫刻刀に伝えた。


「お願い、私の目を切り取ってコトちゃんに届けて、」


へたりこんだ私は最後の力を振り絞り声をだした。


私は仰向けになり眩しい空を見上げた。


私は終わるのに世界は変わらず終わらない。

世界からすれば何でもないことなのにね。

でもそれが怖いわけじゃない。

最後まで自由に彼と生きていきたかった。ただそれだけ。


私の腕は力なく放り出されたあと、彫刻刀は私の目に刃を差し込んだ。



暑く、暗い世界の中、風を肌に感じた。










私の体は大地と絡まり栄養を蓄える。

動かそうと思えば動かせる手。


片目になった目を開け、上をみた。

私の背、はるか上空には立派な杉の木があった。

きっと彼だ。


あの時、私は死んではいなかったものの、かなり弱っていたらしい。

普通の人間ならば死んでいたしこの延命も出来なかっただろう。



あの後、彼を呼びに行ってくれた白蛇はかなり心配したと怒っていた。

私は彼に抱き抱えられ彼と一緒になった。

"一緒"と言うのは言葉の通り、彼の体となる木と私の体は一つになり、私の胸の傷口は彼の根で塞がった。

故に私は生きながらえた。

私の体からも根を張り大地に寄り添う。

彼と同じように。


鳥が鳴き、沢が流れ虫がともる。


私が彼と一つになり、目が覚めるまで40年かかったらしい。





杉の木の花嫁になり、

私はやっと自由になったのだ。

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