第6話
彼はあの後私が先ほどまで眠っていた部屋まで運んでくれ、私を静に下ろした。
「足はそのうちもとに戻るよ、しばらくおやすみ」
私は静寂に瞳を閉じた。
蛇やイモリは私を心配そうに身をよせあっていた。
夕刻頃、目を覚ました私は驚いた。
本当に足は元通りになっていた。
私は急いで部屋を飛び出して彼の元へ向かう。
『どこに行くの?』
角にいた蛇は言った。
「彼のところよ」
『このまま行ってもいいけど、あんたが呼んだほうが速いし、あいつも喜ぶんじゃない?』
ヤモリは肩に掴まっていた。
「確かに、私は彼が何処にいるかしらないし」
広い屋敷にポツリと立ち止まった。
「やぁ、もう元気になれたんだね」
「!?」
気づけば彼は後ろにいた。
「あの、私、貴方の名前を知りたいの!」
彼はキョトンとしたようだったが初めて会ったときのような優しい表情をした。
「君は、誰に嫁ぐか姿も名前も知らない奴のところに嫁いできたんだね。そりゃあ芯が強い訳だ」
「?」
広い庭が見えるところに二人腰を下ろし、お互いを知る。
「僕は杉だ。
勿論名前もそうだけど、木なんだ。
僕の祖母は木で祖父は人間。違う種族にもかかわらず二人は恋に落ちた。
本来はそれで終わる物語だったんだけれど、二人には子供が出来た。不思議だよね。
今まで色んな娘が僕の元に来たけど皆結局は気味悪がって去って行ってしまったよ。
説明にはなってないと思うけど、…君と初めて会う時は本来の姿を見てほしかったんだ。
だから僕から君を迎えに行くことはしなかったし出来なかったんだよ」
「木、ですか。
けれど貴方の容姿は普通の人間のように見えます。私とは程遠い、姿。
もう何も感じないんです。実感がないんです。私はこんなにも醜い姿で可愛らしい女の子とは比べ物にさえなれない。
こうなってしまっては私は人間でもなければ鹿でも鯨でもない。どこに行っても異常な存在…」
「でも君は、僕と初めて会った時に感じたんじゃない?いい匂い、って。それは生きていくうえでとても大事なことだよ」
「私じゃなくてもあの女性でも良かったんじゃないですか?かなり好かれているように見えましたよ」
「彼女は僕じゃなく、僕の立場が好きなんだよ」
彼女は私のように角も生えてないし眼球がいつ押し出されるか心配する必要もない。
正直かなり羨ましい。
それでも彼は何故彼女より私を選んだのか解らなかった。
「これからは良い日々にしよう」
彼は私の気持ちを知ってか知らずか分からないけれど、そう言った。
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