第5話
『ありゃりゃ』
ん?
私は昨日からこの屋敷に住まわせて貰っている。
普通の人間のお客さんのように扱ってくれている彼。
だが私はまだ彼のことを全然知らなかった。
朝はヤモリの声で目が覚めた。
『ありゃりゃ、あんた、足はどうしたのよ』
「ん~」
私は伸びをしてヤモリに言われたとおり自身の足を見た。
正直ギョッとした。
まあ、病室にいた時のあの感覚を思い出しただけなのだが。
私の足は、するすると鱗が広がりまるで魚の尾びれのように変わっていた。
その事実がわかるや否や、私は何だか息が苦しいような肌がピリピリとしてきたので一応水を求めることにした。
慌てることなく私は地を這って、先導してくれるヤモリの後に続いた。
このまま魚になったら彼はどうするのだろう。
お風呂場?に案内したヤモリは私を心配しているかのような素振りを見せた。
尾に水をかけるとピリピリとしてきた感覚は無くなっていった。
とりあえず深く考えるのは止めよう、しんどい。
そういや私、彼の名前も知らないや。
ガコンッ
角が床や壁にぶつかる。
私はお風呂場で寝転がりうとうとし始めた。
『ありゃ、寝ちゃった。そういや花嫁を這わせてしまったわ』
ヤモリは一人、反省を始めた。
それと同時刻、彼と白蛇は花嫁から続く小さな無数のキラキラしたものを見つけ、あとをおってきていた。
「このキラキラしているもの見覚えがありますね」
『確かに…』
蛇はニョロニョロっとキラキラを見ていた。
「鱗じゃないかい?少し大きいようだけど」
『鱗…ね、いいじゃないか』
白蛇は好奇心を募らせ、鱗が続く道を急いだ。
二人がお風呂場に到着した。
ぐったりしている花嫁に、ブツブツと何かを言っているヤモリ。この現場はかなりカオスと言うものだ。
私の体を見て彼は羽織っていたものを私の尾にかけてくれた。
するとその時、
「杉様~!」
パタパタと駆け寄ってきた女性は彼の腕に抱きつくと
「こんなところにいらしたの?
私てっきりお仕事かと、あら?この子は誰ですの?」
とギラリとした目付きで私を見下ろし彼にすり寄った。
嫌な女だ。
直感的に私の女の勘がそう言う。ただ私よりは綺麗な人のように思えた、
杉…様?彼のことだろうか。
私は上体を起こし、壁に寄りかかりながら彼らを見ていた。
するり、と白蛇は私の角にのぼってきた。
「そんなことより、私、今日嫁ぎに参りましたの!今日という日をどんな思いでいたか!私達やっと一つになれますわね」
「いや、そのことなんだが。
前にも言ったとおり君とは結婚しない。僕は彼女を選んだんだ」
彼は女性を引き剥がし距離をとると、私のところまでやってきて私を抱き抱えた。
『修羅場だね』
『誰が来てもこうなるよね』
窓からみえる景色の中、病室でよく見ていた魚たちが泳いでいった。
あの魚たちは私にしか見えないのかな。
なんて考えていると…。
「ひっ、この子、」
ズルンッ
彼が抱えたことにより私の尾は力なく放り出され女性が悲鳴を上げた。
女性は私の全身をなめ回すように品定めすると、
「こんな子、杉様にふさわしくないわ!種族も何もない化け物じゃないの!」
見ず知らずの女性に言われた"化け物"という言葉に一瞬反応したが、まあ、当たり前の反応か。
見た感じいいところのお嬢さんなんだーなー。
なんて他人事に思っていた私だったが、彼の顔が怒りに満ちているのが見えた。
「出ていけ、貴様とはもう何も今後一切関係ない、」
地を震わすような彼の腹の底からの声はとても怖かった。
それは目の前の女性も同じだったようで、すぐさまピューと女性は去っていった。
「すまないね、彼女は親同士のやつで…」
私は何も言わずうつろな目で彼の瞳を見ていた。
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