獣か、魚か、

月寧烝

第4話

「やあ、こんにちは。

行けなくて…、一人にしてごめんね」


「?」


目の前には、今まで見たことのない"人種"が立っていた。


「あっ」

もしかしから、彼は人間ではないかも。

私は直感的にそう思った。


その考えを見抜いてか、彼は、

「君を生け贄として呼んだ訳じゃないよ!」

と近づいてきた。


すんと香る彼の匂いはまるで先ほどの木のように、落ち着く、暖かみのある何処か懐かしい匂いだった。


"化け物"の生け贄と聞いていた私は拍子抜けした。

彼は、私何かよりも人間のような見た目をしていたし、ずっと綺麗だった。


「…」


彼は私を観察するような目付きで私を見ていた。


彼はきっと私を好かないだろう。

化け物は私の方だったという訳だ。


私が俯いた時だった。

「やっぱり、乙女は白無垢が似合うね」

彼はそう言ったのだ。

この時の私に、言葉の意味は分からなかったけれど彼の笑顔は私が初めて他人から向けられた笑顔だった。


「どうぞ宜しく」

「…よろしく」


私は差し伸べられた彼の手をとった。




私達は生い茂る木々を抜け、広い庭?を歩いた。


「足元、気をつけてね。

ようこそ。ここが我が家だ」

私は彼に連れられて大きな門をくぐったのだった。


初めて目にする、多分とても大きな屋敷には人は居なかった。

その代わりと言ってもなんだがヤモリや虫らは私をただじーっと見つめていた。


このヤモリたちはこれから私にどう絡んでくるのか、大昔に本で読んだ嫁姑の関係を思い出した。



長くはあるが、このいつまでも穏やかな時間が静に流れ心地良い廊下を歩きながら、

そういや何だかいつも頭の角が重いなと思い、手を角へと伸ばした。


「君とは上手くできそうだ」


隣を歩く彼はそう微笑んだ。


『あれ?女の子だ』


「!?」

とうとう角の声までも聞こえるようになってしまったのかと思ったのも束の間、声の正体は角からちょろんと垂れてきた白蛇だった。


「蛇は視力がほぼないと聞くけど、良くわかったね」


白蛇は私が今まで病室で会っていた動植物たちとは違い、嫌気は感じられなかった。


はっ、しまった。私は目を見開いた。

そういえば、普通の人間は蛇とは話さないのだった。


「ふふっ、良く知ってるね、君たちは仲良く出来そうだね。僕が留守の間、君たちには彼女を頼むよ」


『君は色々もっているようだね、悪いのも良いのも、ね』


蛇は舌をチロリと出しながらゆっくりと距離を縮めてきた。


私は蛇の濁った目を見つめながらも、もしかしたら彼も動物と話したりするのかも、と考えていた。


パタパタと飛んできたクワガタ?らしき虫が角にとまった。


「君は来たばかりなのに人気物だね」

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