第1692話 誰よ?

 山に向かって歩いていると、道に出た。


「最近使ってねー感じだな」


 轍にも草が生えているところを見ると、二、三ヶ月は通っている様子はねー。


 あんな規模の町があるんだから周辺にいくつかの村はあって当然。まだ薪を燃料としているなら山にも村はあるだろう。


 道沿いに山に向かう。


 しばらく歩くと、モブ子さんがオレの服をつかんだ。どした?


 ──疲れた。もう無理。休ませて。


 って顔だった。


「だらしねーな」


 まだ三時間も歩いてねーだろうに。


「まあ、ララリーさんじゃないんですから仕方がありませんよ」


「ララリー?」 


 誰や?


「ベー様がララちゃんと呼んでいる見習い魔女さんですよ。あれだけ一緒にいて……いえ、止めておきましょう。ベー様に言っても仕方がないことですしね」


 なんか酷い感じで諦められてしまった。


「ララちゃんな。ララってのが多くて忘れただけですぅ」


 どこにララがいるか思い出せないけど!


「まっ、休憩するか」


 オレもコーヒーが飲みたくなった。ちょっとコーヒーブレイクにするか。


 土魔法でテーブルと椅子を創り出し、モブ子にクリームソーダ(カイナーズホームのフードコートで買ったヤツ)を出してやり、オレはコーヒーフロートを出した。


「わたしはシュークリームが食べたいわ」


 オレを乗り物にしているメルヘンさん。いい身分だな。オレもそんな立ち位置になりてーよ。


「静かですね?」


「そうだな。虫の声もしねーや」


 まるで息を殺しているかのようだ。


「また竜獣ですかね?」


 どうだろうな? 群れるとは言え、そう竜獣がいるとは思えねー。いるんなら草食獣がそれなりにいなくちゃ生息できねーからな。


「ちょっと周辺を見て来ますね」


 幽霊さんがリフトオフ。空へと上昇して行った。


「まるで昇天したかのようだ」


「縁起でもないわよ」


 幽霊に縁起もへったくれもねーだろう。つーか、ほんと、着脱可能な幽霊とかなんなんだろうな?


 しばらくしてレイコさんがリフトオン。てか、わざわざ背後に戻ってから前に出て来るってなんなの? オレの背中どうなってんの? 怖いんですけど。


「ベー様。マーブさんとサダンさんがいました」


 ………………。


 …………。

 

 ……。


 誰? オレが知ってるヤツ?


「影も形もわからない感じですね」


 ハイ。影も形もって表現が適切かどうかは疑問なところだが、誰だかさっぱりです。


「誰よ?」


「詳しく知りたい方は166話まで戻ってください」


 誰に言ってんのよ? てか、どこ見てんのよ? 


「バリアルの街です」


 あ、うん、そうですか。バリアルの街ね。つまり、そこのヤツってことか。


「タケルさんのところの料理人ですよ」


「あ、あの二人か。懐かしいな~。って、なんでマリンベルにいんだ?」


「それは1025話まで戻ったほうがいいですね」


 ちょっくらお待ちを。なになに。あ、タケルを鍛えるためにロールプレイング治療をさせたんだっけ。


「カーチェが言ってた場所はマリンベルだったんかい」


 すっかり忘れてた。つーか、親父殿たちはここまで冒険に来てたんかい。結構広範囲に冒険してたんだな。


「その二人だけか?」


「はい。山小屋風の家にいました。タケルさんたちはいませんでした」


 外出か? いや、マイルカの町にいねーってことは修行か? 確か、魔物を殺したら金がもらえてカイナーズホームで物が買えるとかだったはず。


「とりあえずそこに行ってみるか。タケルの様子も気になるしな」


 カーチェがいるからまったく心配はしてねーが、どこまで成長したか見ておくとするか。あれから数ヶ月。ちょっとは成長してんだろう。


「記憶を封じてたよな、確か」


「はい。ベー様のことはわからないと思いますよ」


「じゃあ、いつものように旅の薬師になるか。モブ子は弟子な」


「二人に会ってからでいいんじゃないですか? 記憶がないのはタケルさんだけですし」


 そうだった。んじゃ、二人に会って事情を聞いてからにすっか。

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