第1687話 リストウェイト

「イイだろう! 相手してやんよ!」


 オレはサプルやトータのように天才じゃねーが、八年も天才たちの兄をやってきてんだ、天才の倒し方くらいマスターしてんだよ。


 オレも無限鞄からワンダーワンドを取り出して二人の攻撃を交わしてやった。


 端から見れば箒を振り回してじゃれているように見えるかもしんねーが、トータが小さい頃(いや、今でも小さいんだけどね。六歳だし)は剣の稽古に付き合っていた。


「お、委員長さん、運動神経イイじゃねーか! なんかやってたか?」


 そばかすさんは雑魚すぎてケツに一発入れただけで戦線離脱したが、委員長さんはオレの攻撃を辛うじて回避していた。


「なにもやってないわよ!」


「なんでもできるが飛び抜けたことはできねーか。典型的な器用貧乏だな」


 まあ、そんな感じなのはわかってたが、体力はまだ並み以下だな。十分も続かねーよ。


 足がもつれて転ぶ委員長さん。止めだとケツに一発入れてやった。


「悪い子はおしりペンペンの刑だ」


 結界を纏わせているとは言え、五トンのものを持っても平気な体を持つオレの一撃。痛みは伝わっていることだろうよ。


 ケツを押さえて悶絶する委員長さんから、隅で怯えるメガネさんとモブ子に目を向けた。


「次はお前らだ」


 示し合わせてたのか、逆方向に逃げ出すお二人さん。が、甘い。そんなことくらいお見通しだわ。


 結界使用能力範囲内。逃がしたりはしませんよ。


「まずはメガネさんからだな。戦わねーなら一方的にボコるぞ」


 ワンダーワンドを構え、ゆっくりメガネさんに近づいていく。


 逃げようにも逃げられず、諦めたのか、ワンダーワンドを振り上げてかかってきた。ナイスファイトだ。


 メチャクチャに振るワンダーワンドを避けながら箒の房のほうでメガネさんの顔を払ってやった。


 メガネさんは委員長さんより体力はあるようで、メチャクチャながらもワンダーワンドを十五分近く振り続けている。


 でも、二十分を過ぎてからガクンと振る力が落ちてきて、三十分でダウンしてしまった。


「まあまあだな」


 止めは刺さず、モブ子に目を向けた。


「確か、モブ子は魔眼持ちだったな」


 視力はないが、魔力の反応で見ている感じっぽい。じゃあ、魔力のないものはどうやって認識してんだ?


「わ、わたし、どん臭いんですぅ!」


「じゃあ、魔法を使ってイイぞ。なんか隠してんだろう?」


 叡知の魔女さんが選んだ一人。ただの見習いなわけがねー。なんか隠しているに決まっている。


「……べ、別に、なにも……」


「じゃあ、見せなくてもイイぜ。やることに変わりはねーからな」


 気にはなるが、無理矢理見てーわけじゃねぇ。今やっているのはワンダーワンドの使い方。見習いどもを鍛えることだ。


「打って出てこねーからこっちからいくぜ」


 決めるときは決める性格のようで、ワンダーワンドを振り上げて突っ込んできた。


 ん? オレが避けるほうをわかっているのか? って動きをみせるモブ子。もしかして、先見か?


 ただ、未来が見える系じゃねーな。人の行動を予測する系か? 


「……まさか、魔力を色で見えてんのかい?」


 そんな漫画、読んだことあんな。オーラの流れや色で行動がわかる漫画。なんだったかは忘れたが、モブ子もそんな感じっぽいな。


 正解ではねーか、当たらずも遠からずって感じでモブ子の動きが止まった。


「イイ能力持ってんな。その眼があれば診察に使えそうだ」


 症状からわかったときはもう手遅れになっている。軽いならまだしも難病だったら完治させるのは至難の業だ。


 怯んだところに脳天打ち。悶絶したところにケツ打ち。ノックダウンさせてやった。


「お前らはまず体力作りが先だな」


 まずは三十分動いてもグロッキーにならねー体を作り上げるとしようか。


「よし。お前らに十キロの重さを加える。しっかり鍛えるがよい」


 オレも中学生の頃やったな。リストウェイト訓練。効果があったかはわからんが、見習いなら効果はあんだろう。弱っちーからな。




 

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