第1686話 悪影響

 初めてなのにサダ子の手に迷いはなく、内臓を傷つけることもない。二十分もしないで内臓を取り出してしまった。


「……神の手だな……」


 オレより上手いんでやんの。下手したらサプルに匹敵すんじゃねーか? 捌き術だけならな。


「内臓、綺麗。寄生虫もいない」


 オレの声は届かなかったようだな。凄い集中力だ。


「内臓は森に捨てるぞ。手間がかかるからな。森の生き物にお裾分けだ」


 サプルなら食えるようにするだろうが、オレの腕では無理だ。内臓系は森の生き物たちにくれてやるとしよう。


「ベ、べーくん! 狼が集まってきてるよ!」


「追っ払っておけ。こっちは忙しいんだ」


 ワンダーワンドでぶっ飛ばしておけ。


「肉だけ持ち帰るぞ。二日は持つだろうよ」


 アフリカ象サイズだが、生き残りは三百人はいる。二日分になりゃ御の字だろうよ。


「べーくん、無理! 死んじゃうよ!」


 ったく。狼くらいでピーピー騒ぎやがって。そんくらい瞬殺しろよ。


「サダ子。ワリーが続けてくれ」


「わ、わかった」


 ナイフをプロケイスの足に刺し、オレたちを囲んでいる狼どもをあらよっとで一網打尽。こいつらもいただきますか。


「これも食べるの?」


「狼はあんま旨くねーが、肉は肉だ。しばらく収穫の見込みもねーマイルカの町に贅沢は言ってらんねーよ」


 溜め込んでいた食糧もねーし、食えるものに贅沢は言ってらんねーよ。食えるなら食え、だ。


「とりあえず、四肢を縛っておけ。ここで捌くとまた肉食獣が集まってくるからな」


 サダ子以外、役に立たねー。町のヤツにやらせるとしよう。


「よ、容赦なさすぎるよ!」


「これも弱肉強食だ」


「じゃなくて、わたしたちにだよ!」


 ん? どういうことだ。


「狼に噛まれて引きずり回せれ、また汚れたことを言ってるのよ」


 あーそこね。ほんと、こいつら戦闘力5のゴミだよな。なんのためにワンダーワンドを渡していると思ってんだよ。


「ったく。町に帰ったらワンダーワンドの使い方を教えてやる。狼を縛ったらまた風呂に入ってこい」


 そう言い捨ててプロケイスの解体に戻った。


 結界でトレーラーを創り、そこに小分けにした肉を載せた。


「結構肉が取れたな。プロケイスが乱獲されるのもよくわかるよ」


 これで旨かったら家畜化できないか考えてしまうな。てか、プロケイスはなにを食うんだ? 若葉とかか?


 そうなると草原で飼うのは無理か。エサも大量になるだろうし、野生で増やすほうが早いかもしれんな。


「よし、帰るぞ」


 狼は小さくして収納鞄にポイ。ゼロワン改に乗り込んだ。見習いどもはワンダーワンドでお帰りくださいませ。


 町に帰り、肉はメイドさんたちに渡し、調理してもらう。オレには焼くしかできんからな。


「あ、教会を建てる材料を調達するためにいったんだった!」


 プロケイスを狩ったことに満足して当初の目的を完全に忘れったわ。


「まあ、いつものことですね」


 ハイ、いつものことでした。


「しゃーね。カイナーズホームから買ってくっか」


 また森にいくのもメンドクセー。既製品(って言ってイイのかわからんけどよ)にしておくか。一万円もしねーもんだしな。


「とりあえず教会は明日にして狼を捌くとするか」


 教会のもんに狼を捌ける者を捜してもらい、オレも一匹受け持つすることにした。


「あ、そばかすさんはサダ子に捌き方を教われ。いずれ役に立つ日がくるだろうからな」


 そばかすさんにはサバイバル術も教えねーといかんな。一月ばかり無人島に放り込むか?


「ライラ。べーが不穏なことを考えているわよ」


 裏切り者が近くにいました!


「忘れるくらい殴っておいて!」


 まったく、過激な魔女である。誰に感化されたんだ?


「間違いなくべー様でしょうね」


「どいつもこいつも人に影響を受けるような個性じゃねーだろう」


 個性もだが、協調性もねー。我が道を往く者ばかりじゃねーかよ。


「でもまあ、オレに影響されてくれんならもうちょっと強く当たっても問題ねーな」


 手加減してたが、その必要もなさそうだな。


 なんて言ったら委員長さんとそばかすさんがワンダーワンドを振り上げて襲ってきた。

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