第1685話 吸血伝説

「……酷い戦いだった……」


「戦いの元凶はベー様ですけどね」


「……よし。さっさとプロケイスを解体しちゃいますか!」


 勝利したからには戦利品をいただくのは強者の権利。弱者は食われるだけなのだ!


「いつかベーが食べられるといいんだわ」


 食ってイイのは食われる覚悟があるヤツだけだい!


「たとえ強者に食われたとしてもオレは人生に一片の悔いなしって食われてやるさ」


 その覚悟がオレにはある。故に弱者を狩ることに一切の躊躇いもねー。奪った命を無駄にはしねー。すべてをいただきます、だ。


「てか、お前ら弱すぎんだろう。五人がかりでボロボロになってんじゃねー、よ」


 結界を施しているから誰も怪我はしてねーが、プロケイスに何度も吹き飛ばされたから顔や手が泥だらけ。せっかく綺麗にしてたのに台無しじゃねーか。


 見習いでも年頃なせいか、サダ子ですらうっすらと化粧していた。一番身だしなみに気を使ってんのは委員長さんだ。ぴっちりと整えた髪が酷いことになっているよ。


「これならララちゃんを連れてくんだったな」


「そうしたらこの一帯火の海になっているわよ」


「……だな……」


 連れてこなくてよかった。あれは狩りに不向きだ。


「血抜きはオレがやる。お前らは体を洗え」


 土魔法で風呂場を創ってやり、収納ポットからお湯を出して湯船に満たしてやった。


 あとは結界で囲んでやれば魔物に襲われることなくさっぱりできんだろうよ。


「わたしも入る」


 メルヘンがオレの頭からパイ○ダーオフ。風呂場に飛んでいった。


「自由なメルヘンだよ」


 まっ、今に始まったことじゃねーがな。


 魔弾でボコボコにされたプロケイスを結界で吊し上げ、首を結界刀で斬り裂いた。


「あ、ベー様。ご主人様のために血を集めてください。確か好みだったと思うので」


「先生、草食獣の血なんて飲むんだ」


 肉食獣の血が好きなんだと思っていたよ。竜の血が好きだからな。


「寝不足のときに好んで飲んでましたね。土臭くていいって言ってました」


 土臭い血ってなんだよ? って思うが、吸血種の味覚なんて永遠にわからんのだからそうなんだと納得しとけ、だ。


 流れる血を結界に集める。


 血がなくなるまでコーヒーを飲んで待ち、出なくなったら結界から伸縮能力でデカくした瓶に移した。


「先生、いつ目覚めるんだっけ?」


 もう眠りについて半年くらいか? しばらく眠るっては言ってたけどよ。


「栄養も摂れているのでそろそろ目覚めるのではないですかね? 元々吸血種は眠らない種ですからね。眠るのは栄養が足りてないからなんですよ」


 そ、そうだったんだ。初めて知ったよ。


「吸血種って、先生のほかにもいんのかい?」


「いると思いますよ。吸血種が固まって生きるのは大変なので、人の中で生きているんじゃないですかね? マリンベルの王都にも何人かいましたから」


「はぁ? いたのかよ!? まったくわからんかったぞ」


「そりゃ、吸血種とわかったら大騒ぎですからね、目立たないように生きてますよ」


 ま、まあ、言われてみれば確かにそうか。吸血種って血を吸う生き物。この大陸にも吸血伝説とかあるからな。


「大変だな、吸血種も」


 今度、密かに血でも売ってやるか。吸血種って独自の文字を持っているからな。受け継いでんなら読めんだろうよ。


「ベー様はプロケイスの解体ってできるんですか?」


「やったことはねーが、鹿や猪とそう変わらんよ。変な臓器があるんじゃねー限りはな」


 宇宙からやってきた物体Xじゃねーんだ、プロケイスを解体するくらい難しくねーよ。


「お待たせ~」


 どう解体するかシミュレーションしてたらメルヘンと見習いどもが風呂から上がってきた。


「風呂に入ってなんだが、解体は汚れるからエプロンをしろ」


 こんなことならつなぎ服を用意しておくんだったよ。


「よし。じゃあ、やるぞ」


 素人にいきなりやれは無茶だから、まずはオレとサダ子で毛皮を捌いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る