第1683話 オベリスク

「死者に精霊の導きがありますように」


 生き残りを集め、飛竜に食い殺され、家屋に押し潰された者たちの魂を精霊に導いてもらい、天へと還した。


「火を!」


 土葬文化ではあるが、数百体の遺体を埋める労力がない。異例ではあるが、遺体を集めて燃やすことにした。


 ってことを生き残りの者たちに伝え、納得してもらった。民意は大切だからな。


 結界棺を燃やすついでに家屋の残骸も片付けるために燃やすことにする。再利用できないものばかりなんでな。


「煙に飛竜が寄ってこない?」


「飛んで火に入る飛竜かな」


 みっちょんの問いにそう返した。


 これと言って進行は決めてないので、ただ、燃え上がる火を見詰めるだけ。消えるまで生き残りたちの嗚咽を聞かなくちゃならなかった。


「べーくんは冷静だね」


 横にいたそばかすさんがなぜか泣いていた。泣くポイント、どこにあった?


「慣れろとは言わない。だが、こんなことは世界のどこかでよく起こっていることだけは頭に入れておけ」


 この世は弱肉強食。これが自然の摂理。文句を言ったって仕方がねー。嫌なら世界を変えるしかねー。だが、それは自然の摂理を歪ませること。その結果がどうなるかをよく考えてから動け、だ。


「これからこんな惨劇を何度となく見るだろう。一個人じゃどうにもしてやれねー出来事と出くわす。何度となく悔し涙を流すだろう。だが、そんなんじゃ救いてーことも救えねー。救いたきゃ力を持て。それは知識だったり暴力だったり組織だったりする。自分がなにができるか、なにをしたらいいか、常に考えろ。行動しろ。そばかすさんにはそれができるんだからよ」


「……わ、わたし、食べることくらいしかできないよ……」


「だったらそれを極めろ。食を通して世界を見ろ。食は生命の根元。問題の大半は食に関係している。腹が満ちていれば下を向かなくてイイ。まだ生きれると思える。それは、そばかすさんにしかできねーことだ」


 そばかすさんは特化型だ。一つが飛び抜けている。なら、その飛び抜けた才能を伸ばしながら派生させてけばイイ。人はそこまで融通が利かねー生きもんじゃねー。


 少しずつやっていけば派生できるものだ。三つ能力を少しずつ派生させてきたオレが言うんだから間違いねーさ。


「これは、他の見習いにも言えることだ。人を学べ。世界を学べ。そして、己を知れ。お前らは才能の塊だ。誰一人無能はいねー。世界を変えられるだけの可能性を秘めている。オレのところにいる限り、それを教えてやる。できねーことをできるようにさせてやる。嫌だって言っても逃がさねー。覚悟しろ」


 まだ燃え残ったものを結界で包み込み圧縮。圧縮! 圧縮! で拳大までにする。


 ドン! と地面を蹴り、土魔法を発動。圧縮球を包み込んでオベリスクを創り上げた。


「これがマイルカの町の象徴となり、いずれ観光の目的となるだろう。アダガさん。カイさん。そう言うことだからよろしくな」


「これだからべー様に勝てる気はしないんですよね。思いつきでやっているのかと思ったらすべてが計算ずく。遥か先まで見通しているんですから」


「オレは凡人だよ。アダガさんたちのような天才には逆立ちしたって勝てねー。だが、凡人には凡人なりの戦い方はある。オレはそれを極めているだけだ」


 凡人だからこそ見える世界がある。理解できる心があるんだよ。


「そばかすさんは凡人だ。他の見習いより能力は低い。だが、それがそばかすさんの武器になる。イイところを伸ばしてくれる。凡人であることを卑屈に思うな。凡人であることに胸を張れ」


 異彩の中でこそ輝く凡人がいる。それが、そばかすさんだ。


「よし! 本格的なマイルカの復興を始めるぞ。マリンベル王国における第二都市に築き上げるぞ!」


 ニヤリと笑ってみせた。

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