第1681話 冒険商人の発祥

「えーと。なにさんだっけ?」


 ロイさんの腹違いの兄弟さんに尋ねた。


「あ、べー様は名前を覚えるのが苦手なので気にしないでください。逆に、一発で覚えられたら狙われていると思ってください」


 アダガさん。あなたがオレをどう思っているかよくわかったよ。一生、アダガの名は忘れないからな。


「彼はカイですよ」


 カイさんな。了解だ。


「こういう納得したような顔を見せるときは三歩歩くと忘れているので、ときどき名乗ることをお勧めしますよ。じゃないと、変な名前をつけられますから」


 ヤダ。オレの本性を見透かさないで!


「べーはバカだけど、非常識に飛び抜けたバカだから気をつけなさい。あ、わたし、ミッシェル。黒羽妖精よ」


「あ、はい。カイです。よろしくお願いします」


 メルヘンに頭を下げるカイさん。野望剥き出しの割りにメルヘンに素直だな。


「マリンベル王国って妖精信仰とかあんのかい?」


 公爵どのんとこにも羽妖精の伝説があったよな。台座にされたのはイイ思い出だぜ……。


「はい。幸運の妖精伝説があります。おれ、いや、わたしは結構信じています」


「やっぱりか。その割りにはロイさんは平然としてたな」


「ロイは現実主義ですから。すべては実力が物を言うって男です」


「それじゃ、べーは不思議に見えたでしょうね」


「オレも現実主義だよ」


 夢は大きく語るが、叶えようと思ったら神頼みなんてしねーし。


「非現実の権化がなに言ってんだか」


 って、サラッと皆さんに流されました。酷い!


「まあ、カイさんはマイゼンド商会の代表としてマイルカの町に残ることになりました」


「じゃあ、カイさんも生き残りを雇い入れな。他所からちょっかいが入る前に掌握しちまえ。あと、農家もこちらに引き込め。収穫できるものは可能な限り高く買ってやれ。絶対、騙したり奪ったりはするなよ」


 飛竜は農地を襲ったりしねーから無傷で残っている。なら、農民も残っているはず。散り散りになっている農民を襲うより密集している町を襲ったのがイイ証拠だ。


「それはカイさんがやりな。この辺のことに詳しいだろうし、クリンシュ族ってのも農民たちを安心させるだろうからな」


 どこまで付き合いがあるかわからんが、アダガさんよりは心を開くだろうよ。


「わかりました。マイゼンド商会で野菜を買取ります」


「おう。ガンバれ」


 きっと大変だろうがカイさんならやれるよ。オレは応援しかしてやれねーけどな。


「アダガさんのほうはどうだい? 町のヤツには受け入れられてんのかい?」


「最初は驚かれましたが、南の大陸からくる商人もいるようで、そこまで嫌われた感じはありませんね」


「南の大陸の商人、こっちまできてんだ。冒険商人の発祥とか言われているだけあるな」


 アブリクトを任せている親父さんも南の大陸から流れてきた人だ。異世界の危険な海を越えてくんだからスゲーよな。


「わたしも負けていられませんな」


「魔大陸から海を越えてくるアダガさんも負けてねーよ。カイナがいるのによく海に乗り出したもんだよ」


 歴史的に見て魔大陸から来る魔族はいた。ってことは航路はあったってことだ。知っていたとしても海竜がいる海を越えようとは普通思わねーよ。


「危険な先に新たな商売がある。先祖から伝わるうちの家訓です」


 たくさんいる魔族の中でも十二族に数えられる種族だけはあるぜ。


「飛空船が発着できる場所は見つけたかい?」


「いえ、さすがにまだです。ですが、ちょっと離れた場所に造ろうと思います。観光地化したいですからね」


「観光地化?」


「ええ。マリンベル王国で飛空船を見れるところはマイルカの町だけ。一目見ようと王国内から集まってくるはずです」


「そんなことまで考えてたんだな。スゲーじゃん」


 まさかその先まで考えているとは思わんかったよ。


「これはべー様の考えです。わたしは真似しただけですよ」


「商売なんぞ模倣されて当たり前。そこから独自性を出すのが商人の妙。アダガさんがどんな商売するか楽しみだ」


 やっぱなんちゃって商人では本当に才能がある商人には勝てねーぜ。


「べー様に敵いませんよ」


「オレは天才と勝負する気はねーよ。オレはオレのやりたいことを求めるだけだ」


 凡人が真正面から天才に挑んだって勝てるわけがねー。勝てねーことに時間など割いている隙があんなら自分の好きを求めて突き進めだ。

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