第1680話 竜殺しの武器(準)

 長い馬車を組んでるクセに食料を持つ隊商がやけに少なかった。なんでだ?


「気候的に保存食を用意するより途中の町で買ったほうが安全だとのことです」


 答えてくれたのはアダガさん。コミニュケーション能力が高い商人だよ。よく聞き出している。


「それじゃ、一つの町がなくなったら立ち行かなくなるじゃねーか。よく続けていられたな」


「なにもなかったから続けられたのでしょう。べー様のように備えたり事前に対策したりなんてできませんよ。その余裕もありませんからね」


 確かにそんな余裕はねーか。生きるのに必死だしな。


「とは言え、隊商もいざってときのために食糧を持参して欲しいものだ。館の食糧庫が空になるぜ」


「べー様が各地から食糧を集める理由はこういうときに備えていたからなんですね」


「物言うのは金と食糧だ。それを握っていれば国にも勝てるってもんだ」


「村人がなにと戦おうとしてんのよ?」


「理不尽て厄介な敵とだよ」


 自然現象や宇宙からの侵略でもなければ金と食糧を握っているヤツが勝つし、国とも交渉ができる。自由を奪われたくねーのなら力を持て、だ。


「まさに至言です。わたしもべー様に倣うと致しましょう」


「アダガさんは魔大陸を掌握することを優先すべきだな。魔大陸は世界の食糧庫と成り得るところだからな」


 環境は最悪な場所だが、手つかずの土地がある。カイナーズの軍港からミタさんの故郷まで、土地がよくなれば凄まじい穀物類地帯になるはずだ。地竜の糞は大地を豊穣にしてくれっからな。


「べー様は、どこまで先を見ているんですか?」


「見えるところまでだよ」


 オレに未来視できる能力はねー。ただ、前世の記憶があるだけ。人が生きていくには食糧が必要だっていう知識だけだ。


「──べー様。持ってきました」


 館に戻ったメイドさんたちがシュンパネで戻ってきた。


 ここは隊商で溢れ返っているんで、シュンパネ移動をさせたんだよ。もうちょっと早く知っていれば土魔法で壁とか創ったんだかよ。


 収納鞄から小分けにした小麦粉や芋、カブ、海竜の肉などを出していき、アダガさんの部下に売ってもらった。


「食糧の代金はいらねーから、マイルカの町のことはアダガさんがやってくれ。ゼルフィング商会の支店はイイ場所にしてくれよな」


 婦人にお願いしたらブチ切れられそうなのでアダガさんにがんばってもらいます。


「アハハ。わかりました。お任せください」


 こういう柔軟なところがアダガさんの強みだよな。頼もしい限りだ。


「べー。悪いが、おれらは出発する。代わりを置いていくから好きに使ってくれ」


 と、ロイさんの横に二十半ばの男を前に出させた。


「クリンシュ族の直系の者で、おれの腹違いの弟だ」


「カイです。よろしくお願いします」


 体は細いが、目の輝きは強い。これは、野心を抱いているタイプだな。イイ人材を連れてきてくれたものだ。


「アダガです。べー様が喜びそうな方を連れてくるとか、ロイはわかっていますね」


「こちらとしては厄介払いなんだがな。扱い難いヤツだが、能力はある。好きに使ってくれ」


「そう言うと、べー様は本当に好きに使いますよ」


「構わないさ。カイ。二人は、いや、そっちの子供はバケモノだ。見た目に騙されるなよ。おれでも勝てない相手だ。覚悟しないと心を折られるからな」


「大丈夫。心が折れたら叩き直してやるからよ。人は折れて強くなるもんだ」


 大きく折るより小まめに折っていくほうが成長するもんだ。優秀ならバキボキ折ってやるさ。まあ、オレは魔女さんたちのこともあるんでアダガさん任せになると思うがよ。


「べー。わたしはロイと先に行く。ここはアダガに譲るよ」


 ロイさんの横に移動するザーネル。利に敏いねーちゃんだよ。


「ああ。オレもマイルカが落ち着いたら向かうよ。飛竜に気をつけろ。腹を空かせたらまた人を襲うかもしれんからな」


 ワンダーワンドをザーネルに渡した。


「飛竜が現れたらそれを投げろ。逃げる隙くらいは作れるからよ」


「竜殺しの武器か」


「それに準じたものだな」


 なに、殺しはしないさ。お前は大事な材料。殺すときは綺麗に殺してやるよ。

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