第1676話 エイベルク商会(アダガ)

「ジャジャジャーン! 皆お待たせ~! 活躍の時間だよぉ~!」


 運命を口で奏でながら館の食堂に呼ばれて飛び出てジャジャジャーン! って劇的に現れたのに、見習い魔女どもが一斉に逃げ出してしまった。


「もうべーを理解した行動ね」


 ククッ。オレから逃れようなど百年早い。オレの目は獲物を逃がしたりしねーんだよ!


「よし。委員長さんとモブ子、メガネさん、あとはサダコに決めた! さあ、活躍しに行くぞ!」


 村人奥義、結界縮地! で、四人を結界ボールにゲットだぜ!


「ん? 他にも魔女がいるな。よし。手伝ってもらうか」


 一角に魔女が十人くらい集まっているのが視界に入った。


 雰囲気からして闇の魔女の配下か部署の魔女だろう。こいつらにも経験させておくほうがいいかもしんねーな。


「闇の魔女に繋がりがあるヤツ、オレについてこい。大図書館にかかわることだ。手の空いているヤツを集めろ。エルクセプルの検証をする。記録係も忘れんなよ」


 さすが手練れの魔女。すぐに動いたよ。


「セイワ族か蒼魔族のメイド十人、オレについてこい。炊き出しをしてもらう」


 メイド長さんがいないので、食堂にいるメイドを見て命令を出した。


「ターリャ隊とモラカ隊をすぐに呼びなさい!」


 確かサプルの後ろにいたダークエルフのメイドがすぐに声を上げた。

 

 すぐにメイドたちが動き出し、十分後にセイワ族と蒼魔族のメイドがオレの前に現れた。


「あんたらにはアダガさんの指揮下に入ってもらう。用意があるなら三十分後に再度ここに集まってくれ。あと、二百人分の食料を用意しておいてくれ」


「畏まりました」


 ダークエルフのメイドが答え、すぐに動き出した。うちのメイド、日に日に優秀になってんな!


「べー様。遅れました」


 アダガさんが自分の部下(セイワ族と蒼魔族のな)を連れて食堂に入ってきた。


「大丈夫だよ。こっちはまだだから。てか、アダガの部下ってそんなにいたのな」


 さすがに一人で商売しているとは思わなかったが、二十人以上も連れてくるなんて想像もしなかったよ。


「これでも魔大陸で商売する商人。数だけならゼルフィング商会にも負けてませんよ」


「……もしかして、アダガさんって有力な一族だったりする……?」


 よくよく考えれば戦国時代な魔大陸で商売とかあり得ねーよな。客、誰よ? まさか魔王相手に商売していたのか?


「んー。どうでしょう? 魔大陸ではそこそこの一族ではないですかね? 群れないと魔王に滅ぼされちゃいますからね」


 魔大陸でそこそこならこの大陸では一国に匹敵するよ! そのことに今の今まで気づかねーオレ、大マヌケ!


「そ、そういや、アダガさんの商会名ってなによ?」


 今まで知らなかったんかぁーい! とか言っちゃイヤン。


「エイベルク商会です」

 

 聞いたことねーが、きっと魔大陸では有名なんだろうな。他の大陸にこれる船を持ってんだからよ。下手したら相当昔から大陸間移動をしてんじゃねーか? この大陸で魔大陸のウワサが流れてんだからよ。


「……カイナが知ってる時点で察するべきだったな……」


 何人もの魔王を倒したカイナーズ。そんなあぶねー組織と付き合えるんだからエイベルク商会もあぶねーってことだ。


「わたしは、ただの商人ですよ」


 そう、だな。アダガさんは誰よりも商人だったな。だから世界貿易ギルドに誘ったのだ。


「ふふ。じゃあ、商売でマイルカの町を復興してくれや」


 マリンベル王国がマイルカの町を救わねーなら、アダガさんが──エイベルク商会に付け入らせてもらおうじゃねーか。


 平常に回っている町に魔族が入るには反発も起ころうが、壊滅した町に復興目的で入るなら喜ばれるだろうし、味方につけるのもスムーズに行く。マリンベルに商会を築くなら今がチャンスってことだ。


「飛空船は飛ばしたのかい?」


「いえ、さすがに準備が間に合いませんよ。あと、五日はかかります」


 まあ、いきなり出発はメチャクチャか。マリンベルまでの航路も確立してねーんだからよ。


「何隻飛ばすんだい?」


「二隻です。最新のを買いましたので」


「儲かってんだな」


「これもべー様のお陰ですよ。このお礼はさせていただきます」


 さすがアダガさん。タダでは受け取ってくれねーか。貸しにしようとしたのによ。

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