第1675話 人助け(笑)

 次の日、出発するのかと思ったらまったく動く気配はなかった。


「見てくる!」


「見てくるね!」


 止める暇なくみっちょんとそばかすさんが町のほうに走って行ってしまった。自分らが混ぜるな危険だって理解しろや!


「べー様も自分がトラブルを引き寄せると理解したほうがいいですよ」


 オレが引き越してるわけじゃねーんだから不可抗力だい!


「わたしも見てくるよ」


「あ、ではわたしも」


 ザーネルとアダガさんまで見に行ってしまった。ったく。野次馬どめ。じゃあ、オレも行こうっと。


「メイドさん、留守、お願いしまぁ~す」


「気になってたんじゃないですか」


 べ、別にそんなんじゃねーし。後学のためだし。


 皆~! 待って~! てか、足はえーな! どんだけ全力疾走してんだよ!? 追いつかねーよ!


「べー様。貧弱じゃありません?」


 オレはパワー型。スピード型じゃねーんだよ! あと、体力はあるほうだから。階段は嫌いだけど!


 もっと運動しよう、とは思わないまま皆に追いついた。フィー。疲れた。


「また、徹底的に潰されたもんだ」


 昨日はよく見てなかったが、町の建物が八割以上潰されていた。


 飛竜は火を噴いたりしねーから、暖炉か釜戸の火が町に回ったのだろう。木造だったのがさらに被害を生んだんだろうよ。


「昔、カムラも飛竜にいくつもの町を滅ぼされと言われているよ」


 たぶん、そいつはオレとサプルで倒したヤツだな。なかなかデカかったし。


「たくさん死んだんですかね?」


「だろうな。この被害じゃ」


 さすがに全滅ではねーだろうが、この様子じゃ二割も生きてたら御の字だろうよ。竜や魔物は容赦しねーからな。


「べー。あっちに逃げ出した人たちがいるよ」


 みっちょんが髪を引っ張った。プリッつあんのように共存体(笑)じゃねーから無理矢理向けられることはねー。あっちってどっちだよ?


「べー様。あそこです」


 アダガさんが代わりに指を差してくれた。


 町の向こう側の高台に町の生き残りと思われるヤツらが避難所を作っていた。


 かなり離れているからどんな感じかわかんねーが、ここから見る限り、着の身着のままっぽいな。隊商も助けに行こうとは思わねーようで、遠巻きにしていた。


「……助けに行かないんだね……」


 そばかすさんが寂しそうに呟いた。


「皆、自分や家族、仲間を守るに必死で、他人を助ける余裕なんてねーんだ。助けたい気持ちはあっても下手に動けねーのさ」


 この時代、国はなにもしちゃくれねー。周りも助けちゃくれねー。まさに自助努力。テメーのことはテメーでなんとかしろなのだ。


「そばかすさんはなんとかしてやりてーのか? やるんなら大図書館を飛び出す覚悟でやれよ。人助けなんて力のねーヤツが軽々しく首を突っ込むんじゃねーよ」


 飢えてる子犬にエサをやるのとはわけが違う。助けるなら責任と義務が生じる。自分の正義感を満足させるために助けるほうが生き残ったヤツらをさらなる悲劇に突き落とす行為だわ。


「だがまあ、町のもんに取って厄災でも、こちらから見れば好機になる。そばかすさん、わかるか?」


 これは、そばかすさんの経験になる。いつか大図書館を出て旅をしたとき、こんな状況にも出会うはずだ。自分の力じゃどうにもならんときの対処を学ばせておくとしよう。


「え? わ、わかんないよ。なにが好機なのよ?」


「あそこにたくさんの怪我人がいる。実験台──じゃなくて被験者がな」


「言葉を変えても本音が出てますよ」


 生き残ったヤツらに聞こえないんだからセーフです。


「大図書館に知恵と経験を与える絶好の機会だ。エルクセプル、使い放題だ」


 重傷者がいればいるほど効果が知れる。幸いにして材料はあの山にいる。使い切ったところで惜しくもねーさ。


「……出た。べー様の黒い部分……」


 失敬な。オレは清く正しく生きている村人。これは立派な人助けさ。ケッケッケッ。

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