第19話 タイムリミットはすぐそこに
毎月第3水曜日。その日は「(株)SUGUTORE 資格学校」営業係のノー残業デーに設定されている。
定時ピッタリで帰れるのだから、社会人にとって心躍る日になる……はずなのだが。そう簡単には行かないのが、仕事というものなのである。
「今何時だ土師?! 安保、明日の書類準備はできたか!? 馬路は帰ってきたか?!」
肌を刺すような緊張感が事務所全体を包み込む中、澤山が声を張り上げた。彼の目線は目線はせわしなく画面をなぞり、キーボードからはダダダダダと打撃音が響く。
それに対し、部下たちも己の作業の手を止めることなく返事をする。
「17時10分です!!」
「書類もーちょいです、馬路サンはあと5分で帰ってくるそうです」
「あと20分でPC強制シャットダウンだぞ…! なんでこんな時に限って対応が重なるんだクソっ!!」
「ノー残業デー=絶対定時帰宅=社員のPCを使えなくしようぜ、 って発想になった経営陣の顔面にグーを叩き込みたい。 ――澤山サン、書類できました。確認お願いします」
「よし、机に置いておいてくれ!!」
頭を抱えたい気持ちでいっぱいだが、それをしている暇があるなら手を動かさなければならない。澤山は己の業務を片付けながら、土師から上がってきた申請書類の確認・承認、安保の明日の営業資料の確認、馬路の今日の営業報告のとりまとめ、を並行して進めていく。
タイムリミットは、刻一刻と迫っている。
――17時15分
「お疲れ様です馬路ただいま戻りました!!」
「お疲れ様こっち来て報告してくれ!!」
「かしこまりました、大体の内容はまとめてきたのでお送りします!」
――17時20分
「安保、5ページのこの数字だけ古いままだ! それ以外は大丈夫だから、修正して印刷かけろ!」
「了解っス」
「土師! いつでも退勤処理できるように準備しておけ!!」
「はいいい!!」
――17時25分
「ひいい、PCが固まりました!!」
「任せな土師クン、45度の角度で……そぉい!」
「ナグッタアアアアア!」
「よし、動きましたね」
「ナオッタアアアアアア!」
――17時28分
「土師クンと安保、退勤処理完了しました」
「よし! 馬路も報告内容問題ないから、退勤処理しろ!」
「はい!!」
――17時29分
「馬路、退勤処理完了しました!」
「よし、承認した!」
――17時29分25秒
「あ゛ああクソ、社内ネットが重い……」
「澤山さん…、頑張って……!」
――17時29分45秒
「――よっしゃ処理完了! 後はもう無いな?!いいな!? じゃあ、」
――――17時30分
「「「「お疲れ様でした!!」」」」
ノー残業デー。それは普段より心の余裕がなくなる日。
来月こそ余裕退勤を目指すぞ、と心に誓いつつ、営業ズは各々の帰路についたのであった。
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