44 必ずいる種類の人間

「……お前ら、ナニモンだ」

 改めてタカは問うた。

「女性の味方だって言ったじゃーん」

 麗人れいとの態度にはまるっきり動揺がない。


「たいした奴らだ」

 タカが1歩を踏み出した。手下たちもじりじりと包囲を狭める。一馬かずまは左手で、右手の手首をつかんで、数回軽く振った。ケンカでも勉強でも、何であれ気合いをこめる際の、彼の癖だった。江平えびらの方は悠然と立ったままだ。


「おれらも綿密に計画したわけじゃねえけどよ。けどこんなに早く、ここまで追いつめられたのは初めてだぜ。ほめてやる」

「男にほめられてもなぁ」

 独断と偏見と個人的趣味嗜好が大暴走した感想を、麗人はもらした。


「それで? 今日は何人ぶん殴ったの? その人数で、パイプ使って」

「まだ3人くらいだな」

「まだ?」

「お前らが邪魔しなきゃ、もっとやれてた」

 包囲する半グレの何人かが、笑い声を上げた。どうやら自分では威圧的だと思っているらしいが、下品だな、と一馬は内心で蔑んだ。江平も、あきれたように首を振っている。


「やぁね、お下品」

 恐れ知らずの手品師が、堂々と言ってのけたので、むしろ一馬と江平の方がぎょっとなったほどだ。笑い声が一瞬で消えた。タカが「待て」と男たちを制する。


「しかし、本当にどうやって、そこまで知ったんだ?」

「女神さまのお告げ」

「そう言うなよ。おれたちがここまでオッサン狩りをしに来たこと、こんなに早くつかんだことには、本当に驚いたんだ。しかも広田ひろたの車を盗んだことまで探り当てるなんてな」

「タネ明かしは趣味じゃなくてね」

「なら、無理やり聞くって手もあるんだぜ」

「結局、オレらにも同じことをするってワケ?」

「安心しろよ、お前らのことも、広田とルイちゃんがかぶってくれるとよ」

 タカの笑いが歪む。


「押しつけるのマチガイでしょ」

「脛に傷があるやつの自業自得だ。おれらの分も肩代わりするのが、せめてもの罪滅ぼしになるんじゃねえの。そうだ、おれたちは、広田とルイの罪滅ぼしに協力してやっているんだよ。親切だろう? 真心こめて痛めつけてやるぜ」

 麗人は呆れたような表情で、肩をすくめた。


「人を殴るって行為は、自分も同じように殴られる覚悟があるからするもんだと、思ってたけどね。自分は相手を殴るけど、殴り返されるのはイヤだって、そんな身勝手な理屈はないでしょ」

 覚悟があれば何をやってもいいわけじゃないけどさ、とも麗人は思ったが、あえて口には出さなかった。


 一馬は無言のまま、わずかに頷いた。珍しく、木坂きさか麗人も正論を吐くことがあるものだ。少なくとも、こいつの相棒はそういう覚悟で行動する男だから、だろうな。


「身勝手だろうがなんだろうが、通した方の勝ちなんだよ」

 タカが歯をむき出す。


「そーゆーことは、通してから言うもんだよ」


 麗人の微笑に、鋭い光と、濃さを増した影が踊る。


「女の子を傷つけて踏みにじる理屈、オレは通させたくないねぇ。それに――あんたたちは、絶対にやっちゃいけないこと、やっちゃった。見過ごしにはできないな」


「なら、やってみるんだな――お前らにも天誅てんちゅうをくれてやる!」

 それを合図に、男たちが一斉に、わめきながらパイプで打ちかかった。自分たちよりも少ない人数に。


「それなら、こちらも派手に参りますかね」

 気合いというより気障キザな様子で、麗人は軽く受け答えた。もっとも、一馬と江平にはそれに応じる余裕はない。彼我の人数が違いすぎるのだから、一瞬の間隙さえ見逃したくなかった。

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