11 サボりを封じる冴えたやり方
翌朝は当然(?)、寝不足となった。
「あふあふあふ」
遠慮のないあくびが、
「麗人、おれ今日学校休む。欠席連絡頼む」
朝食を済ませ部屋に戻ると、黒川はようやくそう言った。瞳にはまだ重い何かが居座ったままだ。
「1日?」
「ああ」
「オッケー……あ、そーだ」
軽く返事してから、麗人は上段ベッドの枕元に手を伸ばし、スマホを取り上げた。
「
麗人がスマホの画面に映して差し出したのは、ある写真だった。画面の端の方にかろうじて、しかも斜めに、だがはっきりと、ひとりの男の顔が写りこんでいるのが、黒川にも見えた。拡大させれば人相もわかる。被害者の男性とはまったくの別人で、そもそもけがさえしていない。アパートの塀の後ろからそっと顔だけのぞかせているような姿勢だった。とりたてて特徴のない顔で、特に目立ったところのない雰囲気だ。30歳前後くらいだろうか。
「……いや、見覚えねえな」
黒川は否定した。麗人は、ちら、と黒川の表情を確かめた後、そっか、と応じてスマホをしまった。
「こいつは、昨夜の?」
「うん、あのとき、オレらの後ろの方からこっち見てたみたい」
麗人はこともなげに説明した。黒川の様子がおかしいと思ったのとほぼ同時に、背後からの視線を感じたため、とっさにスマホで背後を撮影したのだと。犯人に逃げられてしまい、麗人が改めて振り返ったときには、もういなくなっていた男だった。
「お前それ、警察に……」
「遥ちゃんに確かめてからでも遅くないかなと思って」
「……お気遣い感謝」
「それに、事件に関係あるとは限らないしね。通りがかりにあんな騒動に出くわしたら、隠れたり逃げたりしたくなっちゃうのも無理はないかも」
「そうだな」
麗人が見極めたかったのは、自分が撮影したこの男が黒川の知り合いかどうかだった。事件の加害者が黒川の知り合いかもしれないとなると、この男も知り合いであれば、事件に関わっている可能性は高そうだ。しかし、見覚えがないという黒川の素振りには、いぶかしいところはないと麗人は判断した。そもそも、遥ちゃんがオレに嘘をつくとしたらよっぽどの事情よね、と麗人は思っている。写真の男が事件の関係者かどうかは、現時点では未知数だった。
着替えながら、ふと麗人は思った。……欠席連絡頼むってことは、オレ今日1日、真面目に授業全部受けないといけないワケね? しまったな。安請け合いしちゃったなあ。今度食事でもおごってもらおうかな。まあ、いろいろ片付いてからの交渉でいいや。
「んじゃ、行ってきー」
「おう頼む」
あきらめて麗人が登校していくと、黒川はベッドに座って、しばらく考え込んだ。学校での生活時間の間、寮は閉鎖される。閉鎖中に出入りするには申請と許可が必要で、面倒にして厄介である。外出するなら、今のうちに出ておく必要があった。
思案した後、黒川はスマホを引っ張り出して、あるところに電話をかける。
「もしもし。
普段の彼に似合いそうもない、丁寧な口調だった。
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