03 黒白(あやめ)も分かぬ夜の中
「寝言でも言ったかな」
「うぅん。
「昔の夢だ。ずっと昔の、どうにもできねえくらい昔だな」
「ほほぅ」
とは言ったものの、
「眠れない夜は、オセロなんてどう?」
「ああ……いいな」
黒川は吸殻を始末して、机から降りた。もうひとつの二段ベッドの下段に転げ込む――麗人の斜め下だ。
私立
室内に二台設置された二段ベッドは、二人部屋になった現在、ひとりに1台ずつ割り当てられている。上段と下段のどちらに寝るかは各自の自由で、空いた段は私物を置いてよいことになっている。「同じ高さに並んで寝たくない」という一致した利害により、麗人が上段、黒川が下段にマットレスを敷いて利用しているので、それぞれ寝転ぶと「斜め上下」という位置関係になる。もちろんとっくに消灯時刻を過ぎているので、ふたりはめいめいにスマホのアプリを起動させ、アプリ上でのオセロ対決となった。
「――ガキの頃の夢だ。施設にいた頃の仲間が出てきた」
しばらく無言のプレイが続いた後、黒川が問わず語りに口を開いた。
「小学生のとき、だっけ?」
麗人はすでに誕生日を迎えているので17歳だ。それでも煙草を吸う資格はない。といっても、麗人の方は煙草とは無縁だが。
「2年のときだな。春から……年、越したんだったかな。越してはいないか。……9か月、くらいになんのかな」
「仲間って、女の子? 男?」
この聞き方に、麗人の興味の行方が露骨に表れている。
「女だよ」
「なんていう子? かわいかった?」
……途端に食いついてきやがった。しかめた黒川の顔に、スマホのバックライトが陰影を作る。
「言っとくが、おれの1コ上だから、当時小学3年生だ。そんなモンに興味持ってどうする」
「気になるじゃーないの。で? かわいくも初々しく、はじめてのおつきあい、とかあったの?」
「小学校低学年同士で何がどうなったらそうなるんだよ――あっ、クソっ!」
にわかに黒川が悪態をついたのは、麗人にカドを譲らざるを得ない状況に追い込まれたからだった。
「このヤロっ!」
「んふふー、オレ別に卑怯な手は使ってないよねぇ~?」
「ちッ」
夜中にかえって目が覚めることを始めてしまった19号室には、スマホの画面という小さな明かりがふたつ、ともり続けたのだった。
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