27 センスに欠ける人たち
児童相談所の訪問が空振りに終わり、再度
「何か武器持ってきたか?」
「うむ、これをな」
江平が懐から出して見せたのは、扇子だった。少し大きいようだ。
「……これが武器?」
センスないなあ、という駄洒落をうっかり言いそうになって、一馬は自分の発想にげんなりした。センスがないのはおのれ自身だ。タブレットを置いて、その扇子を持たせてもらった。なんとなく重いか。通常よりも硬い木でできていると、江平は言った。
「いくらなんでもこの状況では、竹ボウキを持ってくるわけにはいかなかったのでな」
……オープンカフェに、竹ボウキを傍らに置いて座る作務衣の大男。一馬は、あまりぞっとしない脳内映像を振り切った。さっきから何を考えているんだ俺は。
「さすがに鉄扇じゃないんだな」
一馬は、扇子が武器というと、鉄扇か、長く続いたシリーズ時代劇くらいしか思いつけない。せめてセンスのかわりの冗談、くらいの気持ちで口にすると、江平に真顔で返された。
「鉄扇では、相手の額が割れるぞ。冗談ではすまなくなる」
「…………ごもっとも」
武士の時代ならまだともかく、現代社会でそれはまずかろう。江平の
「ん、どうした江平」
「……己で話して、鉄扇で額を割られるところを想像してしまった……」
「……相変わらず、妄想力がエグイな」
気分が悪くなってしまったらしい江平は、テーブルに突っ伏した。「自己完結」「内気循環」の看板を背負って。このふたりの会話ってマジメそうでヘンなんだよね、と思いながら、麗人は席に加わった。――この感想を一馬と江平が聞いたら、おそらくまったく違う見解が出てくるのだろう。
「何か言ってきた?」
「何も」
簡潔に一馬は答えて、タブレットに目を落とした。
「何やってんの?」
「事件について、何かヒントでもないかと思って」
と答えながらも、一馬はうんざりしたように大きく息をついて、タブレットを押しやった。
「収穫ゼロ」
「当然であろう。まだ新たな手掛かりが出ておらぬ。焦っても仕方あるまい。黒川の連絡を待つしかなさそうだな」
重いため息をついた一馬を、江平がそうねぎらった。
「……なんか食べた?」
「それなりにな。お前こそ、まだなら早く食った方がいいぞ」
「ん、そーしよ」
麗人は屋内のカウンターを再訪して、アイスレモンティーとサンドイッチをオーダーして、席へ戻った。カフェのため、がっつり食べられる系のメニューはない。それでも空腹よりはずっといいだろう。
いつの間にか日没を迎えたらしい。オープン席もゆっくりと暗がりに沈み始めていた。
かじり始めたところで、麗人のスマホが、妖艶な「タブー」のメロディを奏でた。往年のコメディアンがストリップのコントで使用した曲で、名曲ではあるのだが、日本人にはそこはかとないおかしみを感じられるかもしれない。一説によると、麗人はこの着信音を朝の目覚ましにも使用しているとのことだ。その着信音はなんとかならんか、と一馬は言いかけたが、麗人が通話を始めてしまったので自重した。
相手は
「脅迫? ルイちゃんを? ……やっぱり、職権乱用、ってワケ?」
何か気持ちの悪いものが喉をつらぬいたような気がして、一馬は息がつまったように感じた。江平も、眉を寄せて上体を不快げに引いている。
電話を終わらせた麗人の顔は、いつもの微笑が
そういうことか。一馬も江平も、無言のまま視線をかわした。もう、事情がわかってしまったような気がする。
「何だって?」
それでも一馬は、麗人に事情説明を要求した。正確な情報を得るために。たとえそれが、心辛くなる話であろうと。それが、黒川が彼らに求めた「手助け」になるのならば。
麗人は話した。
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