第34話 本屋を彷徨う
それからぼくはジーパンとシャツに着替えて本屋に向かった。
小説も書けない。本も読めない。
だから本屋に向かう。
本が読めないのに、行く場所が本屋ぐらいしかなかったのだ。
歩きたい、というのもあった。
ただただ、遠くまで歩きたい。
ちなみにアニメを見ようとしたけど画面がもごもごと動いているだけで何も頭に入って来なかった。
ぼくが最初に向かった先はデパートに入っている本屋さんで、特別に大きいわけでもなかった。だけど近くの本屋さんはココしかなかった。
本屋に辿り着いても本を手に取る訳じゃない。
絵画でも見るように本の表紙を眺める。
そして次の本屋に行くために、本屋を出た。
隣の駅にあった小さな本屋さんは潰れていた。
だから、その隣の駅まで歩いた。
その隣の駅の本屋も潰れていた。
だから、その隣の駅まで歩いた。
ようやく本屋を発見した。
二階建ての本屋で、一階は雑誌と小説と漫画が置かれている。
二階はビジネス書や専門書が置かれている。
本屋を歩く。
「ハイジ」
誰かに呼ばれる。
振り向くと制服にエプロンを着た黒ギャルがいた。
「なっちゃん」
とぼくが言う。
彼女が何属性のどんなキャラになっているのかは知らない。
小学生の頃は人見知り属性の弱キャラだった。
だからぼくが守ってあげなくちゃ、と思っていた。
でも今の風貌は黒ギャルである。
守ってあげなきゃ系では絶対にない。
「何か探してるの?」
と彼女が尋ねた。
何か探しているんだっけ?
なんでぼくは本屋にいるんだっけ?
そういえば近くにどれだけの本屋が生き残っているのか確認しに来たんだっけ?
いや、そうじゃない。
見る事も読む事も鑑賞する事もできないから外をブラブラしていただけなのだ。
「別に」
とぼくは言った。
「バイト?」とぼくは尋ねた。
「私ん家」
「なっちゃんの家って本屋さんだっけ?」
小学生の頃は本屋に興味がなかったので聞いていたとしても覚えていなかったんだろう。
「そうよ。ずっと私ん家は本屋よ。昔は機械に入れたら音が出る丸い円盤も売っていたらしいけど、今は本と雑誌だけ」
「CDって言えよ」
「もうCDって言葉を知ってる若者はいないんだよ」
「嘘だ」
「本屋も潰れまくっているし」
本屋も潰れまくっている、と本屋の娘が言うのだ。
作家になりたいぼくにとっても死活問題である。
「もともとうちの店も三軒あったんだよ。それが今は潰れてココしか残ってないんだよ」
「本屋も大変ですね」
「全てはネット通販のせいよ。電子書籍のせいよ」
文明は進化する。
それでも本屋が潰れるのは仕方がない、とは作家志望者のぼくからは言えない。
「お父さんがコッチ見てるから仕事するね。また遊ぼうね。気軽に寄ってね。本はココで買ってね」
「うん」
とぼくは頷く。
エプロン姿のギャルはレジに行く。
どんなキャラクターに彼女がなっていたのかは、まだ掴めてはいない。
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