カグヤ姫

@Suzakusuyama

第1話

 むかぁし、むかし、あるところに、竹取の翁がいました。 

 皆からの呼び名はもっぱら”じいさん”なせいで本名も忘れてしまった爺さん。

 しかし爺さんは心はまだ若く、今日も今日とて竹を刈り、売りさばいてやろうと考えておりました。

 おじいさんは竹藪に入り、なにか違和感を覚えました。

 「おいおい、おかしいぜ…!」

 爺さんは目を疑います。

 それもそのはずです。竹藪の中には一本だけ金色に光り輝く竹があったのです。

 「こいつぁいいもんだ!!わしゃやっと一儲けじゃけ!!!」

 おじいさんはお金に目がありませんでした。

 そうでないと老後になってまで無駄に働きません。

 おじいさんはよだれを垂らしながら無我夢中で竹を切り裂きました。

 「フンッ!!!」

 おじいさんが少し飛び、竹を切り裂きます。

 おじいさんは華麗に着地し、鎌をしまいます。

 そして切り裂いた竹に寄り、中を覗き、驚愕しました。

 「いとうつくしきかな…」

 そう、なんと竹の中には小さな小さな赤ちゃんがいたのです。

 おじいさんは興奮しました。

 「こいつはッ…儂の子じゃっ!!」

 おじいさんが赤ちゃんを抱きしめます。

 おじいさんはその子を竹から生まれてきたので竹関連の名前にしようと思いましたが、なんとなくかぐや姫と名付けました。

 そこからかぐや、おじいさん、おじいさんの配偶者の生活が始まりました。

 おじいさんは毎夜毎夜かぐやの世話をし、おじいさんの配偶者はそれを笑いながら眺めていました。

 しかしとある日、どこから情報が漏れたのでしょうか。

 「いとうつくしき娘を見してくれたも!!」

 と身分が高い人間がたくさんやってきました。

 ここではかぐや姫を狙っている男一人づつにい、ろ、は、に、ほ、と名付けましょう。

 いろはにほは「見してくれたも」と言ってますが、確実にそれで終わらせる気がないのがみればわかります。

 おじいさんは慧眼でした。

 いろはにほは全員下半身で動く獣だということを察したのです。

 (コイツラを娘に触れさせるわけには行かぬ…せや!!)

 そこでおじいさんは思いつきました。

 無理難題を押し付けて帰らしてやろうと考えたのです。

 そこからおじいさんは早かったです。

 おじいさんは全員に即死級の難題を押し付けました。

 そして、おじいさんは知っていました。

 性欲の獣はヤるためなら自らの命すら辞さないことを。

 おじいさんが難題をおしつけると、男共は

 「ヤッたんどオラァ!!!」

 と己を鼓舞し、散り散り消えていきました。

 おじいさんは内心ほくそ笑みました。

 しかし、おじいさんがその男たちに相手をするあまり気が付きませんでした。

 おじいさんの後ろをすり抜ける天皇の姿に。

 しかしおじいさんが大満足でかぐやに会いに行こうとした時、偶然にも天皇の後ろ姿が見えました。

 「テメェっ!!」

 おじいさんがトリッキーな動きで地面を蹴り、壁を蹴り、天皇に近づく。

 「うおおおおお!!!」

 おじいさんはNTRものがだいっきらいでした。

 天皇の背中を蹴り飛ばし、かぐやの前に立ちはだかります。

 その姿はまるで子を守る親猫のようでした。

 「フフ…なかなか使える護衛がいるようですね…」

 天皇が不敵に笑います。

 そして手をパンパンと叩くと、

 「太政大臣」

 と言いました。

 するとどこからか大きな竹籠を背負った男が現れてきました。

 「テメェッ!今までどこにっ!」

 おじいさんが更に警戒を強めます。

 それに対して天皇はその場にどかっと腰を下ろすと、

 「さぁ、交渉を始めようじゃないか!」

 と言って再度手を叩きました。

 「はっ」

 隣りにいた男は竹籠を地面に置き、それをおもむろに蹴り飛ばしました。

 「ここにある大量の金と交換というのはどうだ?」  

 「な、なにーーッッ!!!」

 おじいさんが目を疑うほどの金が転がります。

 おじいさんは、お金に目がありません。

 しかし流石はおじいさん。簡単には金に負けません。

 「儂は…儂は金なんぞに負けぬぞーッ!!」

 手にした鎌で金を切り裂きます。

 「ハハッ!こいつはなかなかの好々爺だ!」

 天皇が笑います。

 「では実力行使と出よう」

 天皇はニヤリと笑います。

 「太政大臣、仁成腐蹴麻呂之麻呂比古ひとくさりけりまろのまろひこ

 「へぇ、貴様天皇か…いいのぅ!!」

 おじいさんが鎌を構えます。

 仁成腐蹴麻呂之麻呂比古は素手のまま、

 「死んでも構わないか?」

 とおじいさんを威圧しました。

 空気が震えます。

 その覇気はクジラですら殺すほどでした。

 しかしおじいさんは、

 「若いのがあまり調子に乗るなよ?」

 と言って髭を撫でました。

 「そうか」

 仁成腐蹴麻呂之麻呂比古は弓を構えます。

 「この狭い部屋で弓とは!!なんとも滑稽!!!」 

 おじいさんが高らかに笑います。

 「その生命、刈り取ってくれる!!」

 おじいさんは目をランランと輝かせます。

 そして、仁成腐蹴麻呂之麻呂比古に飛びかかりました。

 仁成腐蹴麻呂之麻呂比古が弓を引きます。

 そこで、おじいさんは気づきました。

 (軌道上にかぐやが…!!)

 「姑息な」

 おじいさんが目を細めます。

 仁成腐蹴麻呂之麻呂比古のはなった矢はまっすぐおじいさんの胸に刺さりました。

 「……」

 おじいさんが地面に倒れます。

 「フンッ…所詮はこの程度よ」

 天皇が言います。

 「さぁかぐや姫。今から楽しい夜を過ごしましょう」

 天皇が手を差し伸ばします。

 しかし、かぐやはその手をはたきました。

 「触らないでくださいまし」

 透き通る美しい声で言います。

 「は?」

 「この小娘がッッッ!!!」

 天皇が豹変します。

 「仁成腐蹴麻呂之麻呂比古!!!この娘を射殺ッ…」

 天皇が後ろ売り向きます。しかし、そこには仁成腐蹴麻呂之麻呂比古の姿は有りませんでした。

 代わりに、胸から血を出しながら立ち尽くすおじいさんの姿がありました。

 「貴様っ…何故っ…!」 

 天皇が腰を抜かして座り込みます。

 おじいさんは静かに天皇に近寄ります。

 「お、おいっ!やめろっ!ほらっ!今までのは冗談だ!朕は何もしねぇ!なっ?落ち着けって!?な!?」 

 天皇が懇願します。しかし

 「これが愛だよ」

 おじいさんが鎌を振り下ろしました。

 それと同時におじいさんは膝から崩れ落ちます。 

 「じいさんっ!!」

 かぐや姫がおじいさんの元へ駆け寄ります。 

 「かぐや……」

 おじいさんはニッコリと笑います。

 「じいさんじゃねぇ、里丸じゃ…」

 おじいさんが目を閉じます。

 「おじいさーーーん!!!」

 かぐやの悲痛な声が、静かな部屋に響きました。 

 かぐやが月に帰り、不死の薬を探すのは、また別のお話。

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