病院にて

@Suzakusuyama

第1話

 「うわー、こっえぇなぁ…」

 もう何回目の消灯だというのに、いまだに慣れない。

 ほとんど真っ暗な部屋の中で俺がつぶやく。

 「むしろ電気付いてる方が怖いまであるんだよなー…」

 呟きながら目をつぶり、眠ろうとする。

 しかし、眠れない。

 「あーくそっ!!」

 お昼寝をし過ぎた。それに加え消灯が21時なせいで病院に入るまでの時の生活リズムがまだ体に染み付いているのだ。中途半端に一時的に家に返されて生活リズムが崩れてしまったのがまたたちが悪い。

 でも、この生活も後少しである。だって、リハビリも十分に終わっていて、一週間後には退院ができるのだ。

 「さて、と…」

 そろそろこの病院とお別れになるわけだが、俺には一つやり残したことがあった。

 それは、病院の冒険である。

 真っ暗になった深夜の病院。そこを冒険するのは男子なら誰でも夢を見るだろう。

 だけど、このやり残したことには一つ欠点があった。

 俺が大のビビりだということである。

 電気をつけないとトイレまで行けないし、部屋にはダッシュで帰る。それがこの俺だ。

 「んーーー、さて……」

 時刻はまだ21時。

 つまり、おばけが出る時間じゃない!!

 俺は病室を抜け出し、廊下に出た。

 「うわ、こえぇぇぇ…」

 俺がブルってると、

 「抜け駆けとは、感心しねぇぜ」

 と後ろから声が聞こえた。この声は… 

 「冬弥!!」

 小さな声で声を張るというのは人生で初体験だった。

 こいつは病院で知り合った俺の友達で、メガネをクイってやるのが趣味の若干中二病が混じってる子である。

 「んで、今から何すんの?」

 冬弥が聞くので、

 「せっかく出し病院探検しようかなって」

 と俺が返すと、

 「お、おもろそうじゃーん」

 と冬弥が笑った。

 俺達は、早速病院を探検しようと一階へ向かった。

 病院内は閑散としていて、青白い光も、女の幽霊もいなかった。

 「意外と普通だな…」

 若干不満げに冬弥が言うが、俺はちびりそうで仕方がなかった。

 暗いって、結構怖いんだぜ。正直皆にも体験してほしい。

 足が震え、今にも戻って寝たい俺をよそに、冬弥はどんどん進んでいく。

 「お、おい待てよ…」

 俺がいうが、無視してどんどん進んでいく。

 「おい待てって!」

 俺が駆け出すと、突然冬弥が止まった。

 「おいおい、何だよ、俺をビビらそうってか?」

 俺が声をかける。

 冬弥の肩はプルプルと震えていた。

 そして前方を指差す。

 「あ・れ……」

 冬弥の足は後ろに走る気満々の向きだった。

 「あれってなんだよ〜…」

 俺が指の先を見る。そこには、ハゲたおっさんがいた。

 「は?ただのおっさんじゃ…あ…」

 そのおっさんの顔には、蝿がたかっていた。

 エレベーターが突然動き出す。

 行き先は、B1。霊安室だ。

 「やべぇ!逃げるぞ!!」

 冬弥が全力で外へ駆け出す。

 俺も必死で走って逃げた。そして、100メートルほど離れた地点。

 「ハァ…ハァ……ハァ…」

 外で息をつく。

 「どうなってんだよ…」

 恐怖でもう涙も出なかった。その時、

 「冬弥ちゃーん!!」

 と冬弥を呼ぶ声が聞こえた。

 冬弥は目を輝かせて

 「母さん!」

 と喜び、抱き合う。

 「怖かったでしょ!大丈夫?」

 冬弥の母さんが聞くと、

 「大丈夫だよ!母さん!」

 と冬弥が笑った。

 「おい、冬弥…おかしいだろ…!」

 俺が言う。

 「何で冬弥の母さんが今くんだよ!!お前の事情なんて知ってるわけ無いだろ!!!」

 俺が叫ぶと、冬弥の体は冬弥の母の姿をしたなにかに吸収された。

 「たずげっ」

 冬弥の呻く声が聞こえる。まるで、溺れているかのような声。

 完全に飲み込まれたとき、冬弥の母の姿をした何かの体が青白くなり、爆発した。

 「ぎゃあ!!」

 俺に腐ったような匂いのする血肉と、メガネの鼻の部分がぶつかる。

 「うわあああああ!!!」

 俺が絶叫すると、病院の方から誰か出てきた。

 「大丈夫ですか!?」

 そういうのは俺の担当のナースさん。

 俺に駆け寄って、

 「戻りましょ」

 と言った。

 俺はこの瞬間やばいな、と思った。 

 「いや、辞めときます…」

 俺が後ずさるが、ナースさんは俺の腕を強く掴んで

 「戻りましょ」

 と言った。

 「いやだ、いやだいやだいやだしにたくないしにたくない!!!」

 俺が泣きわめくが、

 「戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ戻りましょ」

 とナースさんがブツブツつぶやく。

 「嫌だ!怖いよ!助けて!嫌だ!!」

 俺の叫び声を聞いたのか、

 「どうした!!」

 とハゲたおっさんがやって来た。

 すると、ナースさんの姿がすっと消えた。

 「ありがとうございます!!」

 俺がハゲたおっさんに頭を下げる。

 「怖いナースさんだったね、でも大丈夫だよ」

 おっさんが言う。

 優しそうなおっさんだった。

 危なかったぜ!危うく妖怪に食われちまうところだった!俺が胸をなでおろす。

 アレ、そういえばナースさん消えたのになんでむはんn


 

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