第30話 密室ホラーモール
「さて、どうすっかなぁ」
そう言ってアトラは自らの髪をくしゃくしゃとかき混ぜながら言った。
頼みの綱であったループがまさかの初見で封殺されモール内に完全に閉じ込められた四人は方針を話し合う事になる。
「あの、ごめんなさいなの」
そう言いながら、テルハはスカート裾を掴みながら俯き元気なく言った。
「ルゥ、もっと早くお母さんの思念にお返事してればきっともっと早く気づけたの」
「……テルハ」
アトラはほっぺをつねり始めた、もちもちと柔らかそうな頬を引っ張ったりして弄りはじめる。
「うぅ、痛いなの」
「シャキッとしろテルハぁ!」
アトラは両手でテルハの頭をガシッと掴んで目を合わせる。
「お前がいなかったら俺達は閉じ込められた事にも気づかなかったんだ。お前はそれに気づいた。それを誇れ!」
「……うん、ありがとうなの」
(テルハちゃん、さっきも言ってたけどお母さんって何の事だろう?)
「あの、なんか周りの人、こっち見てませんか?」
先程まで、レナ達を空気のように関心を向けなかった客達、その彼らが突如として一斉に四人に視線を向けたのだ。
瞬きもせず、じっと。
視線に囲まれる中、シノブは軽く冷や汗をかきながら言った。
「ほう、さながら野獣の眼光といったところかっ、フフフ」
「野獣ってか、殺る気マンマンの目してますよね」
次の瞬間、その場にいた客達は四人に目指して一斉に走り出す!
「おおっ! こっち来たぁ!」
「走れ、この数は相手してらんねぇ!」
四方八方、全方位から迫ってくる群衆、その能面のような表情で、尚且つ殺意に満ちた眼力で迫ってくる迫力やいなや、某鬼ごっこバラエティ番組の恐怖と臨場感を理解するには十分すぎるほどだ。
「あれは!?」
四人はなぜか上から人が降りてこない近くのエスカレーターを見つけた。
「ちょっと臭ぇが、行くしかねえか!」
余りにも不自然に人がいないエスカレーターしかし、徐々に逃げ道を塞がれていくなか他に道は無いと判断して四人は3階に向かって走り出した。
たどり着いた3階フロアには、客が一人もいなかった。
しかし下層階にいた客達が猛追して登ってきている。
「あの数は骨が折れる。一旦身を隠すぞ!」
隠れ場所に選んだのは本屋、大型の建物なだけあって本屋もかなり広く、隠れられる遮蔽物となる本棚が多いため隠れるにはおあつらえ向きだった。
しゃがみ気味に移動しながら、息を潜めている。
その時、レナの目に一冊の本が止まった。
それは、少し厚めの週間漫画雑誌、モールが閉鎖された当時の発売されていたものだ。
レナはそれを反射的に手にとってしまった。
「やはり、これは週間少年ホップ! しかも仕事が忙しくて買い損ねた奴だ!」
「おい、そんなもん気にしてる場合じゃねぇだろ! 隠れろ!」
「何言ってるんですか! この雑誌には炎上三昧で書籍化すらされずに2話で打ち切られた伝説の百合漫画が掲載されていて───え?」
説明の為に漫画を開くと、その中の絵が全てカメラ目線というか、明らかにこちらを向いていた。
「まさか」そう言ってレナは周りを見回すと漫画の表紙のみならず写真集や広告のポスターまでもレナ達に向けて視線を向けていたのだ。
その様子を見てアトラも本屋の異変に気づいた。
「クソっ、やっぱり誘い込まれてたか!」
一同は急いで本屋から脱出を図るが、既に周囲は客たちによって包囲されていた。
アトラは明らかに怒りを露わにする。
「カタギだと思って手ェ出さねぇでいてやったが、もう
その時、アトラの姿がパッと消えた。
気づいた時には群衆の中に突っ込んでいた。
「
アトラが撃ち放ったのは荒々しい剛拳、その拳圧は人々をまるで風に吹かれて飛び散る紙吹雪のように吹き飛ばしてしまった。
「おおっ、流石は我が姉君! さながらゴリラのようだ!」
「聞こえてんぞシノブゥ!! 乙女に向かってゴリラ呼ばわりたぁ、いい度胸だなぁ、ああ!?」
「ひぃ! おっ、お許しを!」
レナは心中にてその凄まじいパワーに目を奪われていた。
(アトラ先輩、やはりフィジモンだったか、いやまぁ最初見た時からなんとなくそうだとはおもってたけど)
その時、アトラが声を張り上げて指示を飛ばす。
「テルハ! コイツらが寄りつかないばしょは!!」
文字通り人の目がなさそうな場所、その言葉を聞けば心を失ったNPCだろうと、頭にその光景を連想してしまう。
「このお店の事務所なの」
「よっしゃぁ!」
呆然と立ち尽くすレナにも目を配りながら、次の指示をだした。
「次行くぞ、事務所だ」
本屋から脱出すると、バックヤードに入る扉を蹴破り、事務所を目指して走り抜ける。
「俺たちがここから出る為にできる事は一つだけ、この空間を歪める元凶を直接ブチのめすこと、その為にそこで体制を立て直す!」
新たな驚異に晒されながらも、レナ達は次の避難所である事務所へと向かった。
その走る姿を、一人の元凶たる少女が見据えているとも知らずに。
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