第23話 真夜中のミサ

 「なぜ、ネット掲示板とかの都市伝説みたいな現場に私がッ……」


 今回の説明が終わり、寮に戻ったレナ達。

 

 レナは帰宅そうそう、膝をついて己の現状を嘆いていた。


 レナに手渡された依頼書。


 それは学生にとっては、あまりにも荷が重い特級案件である。


 「どうやら、それぞれ違う依頼書を配られたみたいね、私は悪質な霊能詐欺を行うグループの摘発協力だったわ」


 配られた依頼書は難易度も異なっており、カレンの依頼は比較的簡単とされているレベルのものだ。


 中でもイユリは依頼書を目にした時から青ざめており、気分が悪そうな表情をしている。


 「イユリお姉様はどんな依頼だったんですか?」


 レナに聞かれ、手にした依頼書を突き出すよつに見せながら答えた。


 「イユリは……催眠調教おじさんの捜査協力だった」


 「ぶふぉ! ハハハッ! なんですか、そのエロ漫画のタイトルとかによくありそうな名前のおじさんは」


 ふざけた名前のおじさん、それをイユリら気恥ずかしそうにして答えるのでレナは思わず吹き出してしまった。


 そんなレナに、カレンは催眠調教おじさんが何者なのかを教える。


 「有名な下衆よ、強力な催眠術の使い手でそれを悪用して女性にわいせつな行為を繰り返している凶悪犯、だから笑ってはダメよ」


 「へぇ〜リアルでいるんですねそんな面白そう……じゃなくてキショい人、イユリお姉様と相性悪そう」


 「ッたく、なんでイユリがこんなキモい案件やんないとイケナイの、マジ嫌なんだけど」


 「でもイユリお姉様って上級霊能者なんですよね、そんな舐めた名前の変態おじさんくらいチョロいもんじゃ……」


 カレンがハァ、とため息をつくとレナの疑問を即座に否定した。


 「そうは行かないのよ、奴は今まで差し向けられてきた追手を全て返り討ちにしているの、ふざけているようでかなりの実力者よ」


 「ウッソだろおい」


 「でも、コイツ最近消息が途絶えて全然居所掴めないし、探しようがないっていうか」


 「それを含めての調査なんじゃないかしら? 愚痴を言ってもどうにもならないわよ」


 「ハァ、はぁ〜い」


 イユリはため息の後、凄く面倒くさそうに返事をした。


 暫くしてカレンは思い出したように、「あっ、そうだ!」と手をパンッと一叩きすると、レナに向かって言った。


 「あっそうだレナ、コマチ、朱鳳風紀委員長のの寮まで少しお使いを頼まれてくれないかしら?」


 「お使い? なんでしょうか」


 「彼女の実家から来た配送品よ、暫く生徒会で預かっていたのだけど、代わりに届けておいてくれないかしら?」


 「お安いご用です! それに風紀委員の人達がどんな人なのか知りたかったので」


 「ありがとう、それじゃ品を持って来るわね」


 そう言ってカレンが持ってきたのは、漆塗りの装飾が施された長方形の木箱だった。


 レナにそれを、軽々と手渡した。次の瞬間だった。


 「へぼぉッ」


 それを受け取った瞬間、その荷物はまるで下へと引っ張られたのかと錯覚してしまうような凄まじい重みを顕にし、レナは思わず変な声が出た。


 複数のダンベルでも入っているのか、そう思ってしまう程の重量。


 レナは反射的に身体強化をする事でなんとか持ち上げられたが、タイミングがズレていたら腰がギックリ逝っていたかもしれない。


 「あの、なんですかコレ?」


 「内緒です。頼みましたよレナ」


 ◇


 身体強化しているにも関わらずそれでも尚重い荷物、やっとの思いで駅につき電車に乗ってやって来たのは別の区画の学生居住区。


 「うへぇ〜ここがコマチ先輩の寮かぁ」


 道迷いながら、一枚の写真を頼りに人伝で話を聞き続け気づけば時は、午後八時をまわっていた。


 日が落ち月光がさす夜になっていた頃、やっとの思いで辿り着いたのは、一件の和風家屋、まるで旧華族やサムライの屋敷を思わせるような豪邸だった。


 「なんていうか、極道の家みたい」


 そんな感想を抱きながらレナは立派に造られた門の柱に付いたインターフォンをピンポーンと鳴らす。


 「はいは〜い」


 返事をしたのは、聞き覚えのない美しい女性の声だ。


 寮母さんでもいるのか、そう思っていると、声の感じが段々と変わっていった。


 「は〜い、は〜い、yo、yo、イェァ!」


 「ん?」


 次の瞬間、ドタドタと駆ける足音が聞こえ、バンッ大きな音を立てて門の大扉が軽々と開いた。


 声の主、その正体は……


 「Hey yoハロー! ようこそマブダチ、我らが鳳凰寮ほうおうりょうへぇ、おいでましー!! イェァ!!」


 二年竹組に属する風紀委員にして朱鳳アマネ率いる姉妹の次女、浮楼ふろうライムその人だった。


 「うわ、ライム先輩だ」


 彼女の服装は浴衣、アクセサリー類は流石に外しているものの、帽子とグラサンだけは外していない。


 浮楼ライム本人曰く「イッツマ〜イフェイバリッツ・ファイナル・ライム・アイデンティティ! YES!」だそうだ。


 「屋敷へ上がりな、お嬢SUN! ウチのお姉様が首を長〜くしてお待ちダァ!」


 (やっぱ音痴だな〜この人、てか夜中にうるさい)


 ライムに導かれ鳳凰寮へと足を踏み入れたレナ。


 寮の内装は木の香りに包まれ古さを感じるものの、全体的に綺麗で手入れが行き届いている。


 ライムに連れられ来たのは、居間であった。


 「マイシスターヘイお待ちぃ! 天童レナ一名ご案なぁぁい!!」


 ライムは遠慮は無しと言わんばかりに勢いよくふすまを開く。


 先程の玄関扉といい静かに開けられないのか……そんな事はさておき、居間が開かれるとその光景にレナは目を奪われた。


 「……お?」


 そこで起こっていたのは、浴衣が着崩れながらも、舌を絡めて唇を重ねる二人の少女。


 三年長女、朱鳳アマネと末妹、寛木エルゼの火照るようなキスシーンだった。


 アマネは口を重ねながら、ぬるりと目を向けて来た。


 重ねた口を離して、糸を引く唾を艶やかに指で下唇をなぞるように拭うと、そっとした口調で語り出した。


 「あかんわぁ、見られてしもたかぁ、ほんならぁタダで帰す訳には───」


 「がっ、ガチ百合来たァァァァ!! ウッヒョォォォォ!! 初めてリアルで見たぁ!!」


 その反応、まさに間髪入れず。


 レナが興奮混じりの奇声を上げるとスライディングしながらスマホのカメラを向けた。


 そして、土足で踏み込むように、レナは言う。


 「すいません、もう一回ディープベロチューしてもらっていいですか! 写真とるんで!」


 予想外の反応に、朱鳳姉妹一同は目を丸くしポカーンと困惑していた。


 しかし流石は風紀委員長と言うべきか、アマネは直ぐに調子を戻し、蠱惑的なオーラでレナを誘惑するように言った。


 「けったいな事言わんといてぇな、写真と言わず直接せぇへんか?」


 「あっ、お構い無く、そんな事より早く続きしてください」


 妖艶な美少女先輩のお誘い、それをバッサリと断るレナ。


 それを見て、ライムはささやかなリリックを奏でる。


 「わーお、レナちゃん即答、容赦無用、ライムは驚き、末妹寛木おいてけボリ〜♪」


 ライムの言う通り、エルゼは完全置いてけぼりだった。


 「……ぷっ、ハハハッ」


 レナの調子を見て毒気を抜かれたのか、アマネは腹を抱えて笑い出した。


 笑いで出た涙を指で拭い言った。


 「あかんわ、こりゃウチの負けや! からかってやろおもたけど、カウンター食らった気分やわぁ!」


 アマネが笑うその姿を見て、レナは心中にて思う。


 (何この人、急に笑い出して、怖っ)


 そんな自分の行動棚上げ思考を展開するレナはさておき、アマネは続ける。


 「そういえば、教頭先生きょうとうせんせが変わった娘や言うてたなぁ、こういう事やったんか」


 「オモロい娘やなぁ、天童レナ、笑かしてもろたわ、それで、頼んどった届けもんは?」


 「えっ……あ!」


 レナはスライディングする時にその品を放り投げていた。


 急いで扉前に戻り回収すると、床にデカいへこみ傷ができてしまっていた。


 「あ〜やっちゃった。すいません」


 「ええよ気にせんで、そないな床の傷ホームセンターで道具買えばどうにかなる」


 レナは申し訳ない気持ちでいっぱいになるも、言われていた届け物を手渡す事ができた。


 「おぉ、来た来た」


 「あの、この中には何が入っているんですか?」


 「気になるか? 笑かしてもろた礼や、見せてやるわ」


 アマネが箱を開けると、そこに収められていたのは、二振りの刀だった。


 「なんですか、これ」


 「朱鳳家の時期当主に代々伝わる一子相伝の式神、聖刀白雷せいとうびゃくらい魔刀黒風まとうこくふうや」


 「なんか、かっこいい、ネーミングセンスが小中レベルなのが逆にいい」


 「ちょいと前に、凍河家にカチコ……ちゃう、やんちゃしてなぁ、本家の鍛治師にメンテに出しとったんや」


 アマネは箱からその二振りを取り上げると、レナの目の前で刀を抜いて見せた。


 右に手にするは、白い柄に雷を模った鍔をした聖刀白雷、その刀身は鏡のようで、白く美しい、その清らかさは、暗雲を照らす白いいかづち彷彿とさせる。


 左に手にするは、黒い柄に風車を模した鍔を付けた魔刀黒風、刀身を彩る刃紋は鋸のようにギザついていて、暴力的なまでに荒々しくそれはまるで、街を蹂躙する竜巻を思わせる。


 それは正真正銘、本物の真剣、実物の刀を初めて見たレナは、刀という工芸品に対する芸術性の高さに一種の感動を覚えた。


 「おぉ、すごい、日本男児の魂って言われるのが、なんとなく分かった気がします」


 「せやろ? この子らは、レナはんの式神と同じ俗に言う付喪神や、長い事使い続けた事で意思を宿しとる」


 「意思、それって喋ったりするんですか?」


 「もちろんや、使い手との親和性が高まってくと念話でやけど話せるようになる。まぁ、ウチはまだまだ未熟者やからなぁ、まだ白雷としかお話出来へんねん」


 (そうなんだ。あの時いらい具現筆の声とか全然聞いて無いけど、また話せるようになるのかな?)


 「心配せんでもええ、使つこうてるウチに互いの式神の霊力は使い手に馴染んでくる。レナはんが腕を磨き続ければ、そのペンともまた会話できるようになるで」


 レナは具現筆を取り出すとジッと見ながら、決意を込めてグッと握りしめた。


 また話してみたいから、ただそれだけだが、霊能者として腕を磨いていこうとと思える分には十分な理由だった。


 「そや、レナはんよかったらウチらのミサに参加せぇへん? 聞けばアンタごっつエロい漫画書いとるらしいやん? なら、向いてると思うで」


 「ミサ? 魔女とかがやるっていうヤツでしたっけ?」


 「ライム、説明してやり」


 「Hay yo オーライマイシスター! 天童レナよ、よく聞きな! 我ら姉妹の夜中の密会、その名もなんと猥談わいだんミサ!」


 「おぉ、猥談ミサとな!?」


 「その名の通りお互いの性癖を曝け出し合うことで、姉妹同士の絆と互いの理解を深める朱鳳姉妹の伝統なのDA」


 (音痴で気づかんかったけど、ライム先輩って普通喋ると声めっちゃ可愛いな)


 中心に蝋燭を立てて、それを囲うように座る四人その光景は、これから怪談でも始めるのかと思わせる。


 しかし、これから始めるのは、怪談では無く猥談なのだが……。


 猥談ミサがどう言うものなのか、ワクワクしている天童レナ。


 次のラップの中にどんな下ネタを挟むか熟考する浮楼ライム。

 

 ここまで完全に空気な寛木エルゼ。


 カレンの姉妹の娘を猥談ミサに誘えて実は、結構嬉しい朱鳳アマネ


 「ほな、始めよか、猥談ミサを」


 こうして朱鳳姉妹with天童レナの腹の内の曝け出し合いが今始まった!!

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