第22話 顔合わせ

 「妖刀の捜索隊に加われって? 嫌です」


 緊急の召集から寮に戻ったカレン、事の顛末を姉妹達に話したところ、開口一番レナは任務拒否った。


 「レナ、そんな事言わないで、ほら、イユリのプリンあげますから」


 「ちょっカレン姉、それイユリが並んで買ったやつ……」


 「わ〜いプリンだぁ〜……とでも言うと思いましたか! 餌付けしようたってそうはいきませんよ! 第一そんなクソヤバサムライソードなんで盗まれちゃったんですか!」


 「うぅ、面目次第もありません」


 「カレン姉、喰血斬を盗んだのってやっぱり月之輪の?」


 「えぇ、その可能性が一番大きいわ、一応その事も想定して霊石で作った台座に突き刺して抜けないように封印していたんだけど」


 「それを強引に引っこ抜かれたと、はっ、ゴリラかっての」


 「そんな勇者の聖剣みたいな封印だったんですね〜その妖刀、うぉ、これうま!」


 そう言いながらレナがプリンを口に運んでいた。


 「おい、アンタ何食ってんの、それイユリのプリンなんだけど!」


 「えーいいじゃないですかー、一口くらい」


 「何が一口だよ、これ半分以上食ってんじゃねえか! ふざけんなよアンタ、殺す!」


 「あいたた! お姉様ごめんなさい」

 

 「アーサー王伝説の聖剣の事かしら? 似ているけど、喰血斬は刀身が全てスッポリ納まるようになっていて、台座からは刀のつばつかだけが出ている状態だったの」


 「強力な接着剤とかでガチガチにくっ付けた状態だったって事ですか?」


 「まぁ、接着剤も使ってはいたから間違ってはいないかしら、とにかく力では決して抜けないようになっていたのよ」


 (聞いた感じ要約すると、フィジカル無効化封印されている代物をフィジカルで引き抜いたバケモンがいると言うことかな? やはり力こそパワー、怖いから私は行かない)


 「言っておくけど、月之輪である私の姉妹は選抜会には強制参加ね、バックれたりしたら、わかってるわね?」


 「まさかの強硬手段!」


 ◇


 翌日、スタジアムの会議室にて捜索隊候補の生徒達が生徒会室に集まる。


 集まっていたのは、経験豊富な三年生が大半で、それに続く実績を積んだ二年が殆どで一年は少ししかおらず、参加者には偏りが生まれていた。


 「ここにいる人達、ウチのクラスとは顔つきが全然違いますね、全員覚悟ガンギマリかよ」


 レナが重々しい雰囲気に飲まれている。


 イユリは辺りを見回し少しばかりの違和感を感じた。


 「あんまり一年いないね、今年の新入生って腑抜けばっかなわけ?」


 「国内有数の妖刀を探すなんて、経験の浅い一年生にはさせられないでしょう、彼女達も大事な妹を危険に晒したくないから、きっと止めたのでしょうね」


 付け加えるなら、今回の捜索任務は危険度が桁違いな為、必然的に実力が高い上級生に人員が集中してしまっている。


 カレンは後進の育成は急務であると感じていた。


 「よぅ、来たかカレン!」


 真剣な面持ちになる彼女達に声をかけたのは部活動組合代表、学園四天王の京極アトラだった。


 彼女は熱いながらも気さくにカレンに声をかけて来た。


 「おぉ、ボーイッシュ美少女」

 

 制服の袖をまくっていて、見るからに体育会系だと分かる雰囲気、同じ赤髪でもイユリとはまったく違う雰囲気の人物だとレナは興味を示した。


 彼女がその視線に気づくと、レナの肩をバシバシと叩いて照りつける夏の陽光のような笑顔で自己紹介を始める。


 「始めましてだな天童レナ、俺は京極アトラこの学園の番長だ!」


 「は? ばっ、番長?」


 「アトラ、この学園に番長なんて役職は無いでしょう、あなたは部活動組合の代表です」


 「わかってねぇなカレンよぉ、ソレとコレとは話が別なんだよ」


 「そうですよカレンお姉様、今はマジレスする所じゃないです。せめてノリツッコミにしないと」


 「私、何か間違ったこと言ったかしら?」


 そこでアトラが後ろ向く、後ろに目をやった先には、二人の生徒がいた。


 アトラは二人に向かって手招きし言った。


 「お前らぁ! 生徒会の奴らに挨拶だァ! 失礼のないようにしろよ」

 

 呼ばれて来た生徒の片方は、自らの顔を手で抑えながら不敵に笑い、言う


 「フフフッ、感じるぞ新時代を告げる暗黒の風を」


 袖口とスカートの裾をボロボロに改造した制服、黒い指抜き手袋、片目に眼帯、片方だけモノクロ縞模様のニーハイソックス。


 ファッションに並々ならぬこだわりを感じる彼女は複雑な口上で名乗り始める。


 「今宵こよい会議サバトは動乱の序章プロローグに過ぎぬ、フッ、深淵アビス見据みすえし我が魔眼が疼く……」


 そのワードの数々にレナは思わず聞き入ってしまう。


 その人物は自信に溢れた笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。


 「我が名は鬼瞳きどうシノブ! この鮮麗白花学園にて部活動組合運動部担当窓口ぶかつどうくみあいうんどうぶたんとうまどぐちにして、混沌カオスの時代に終焉しゅうえんを告げし者だ!」


 (おぉ、どベターな厨二患者がいる。逆に珍しい)


 レナはここ最近見る事無かったリアル厨二病患者、それもコッテコテの邪気眼ヴィジュアル系厨二がこのお嬢様学園にいるのかと少し関心していた。


 「始めまして、なの」


 続いて現れたのは、小柄で袖や裾にフリルを着けているピンク髪の女の子。


 一見すると中学もしくわ小学校の上級生に見えなくもないくらい幼い見た目をしている。


 シノブに続くように彼女も挨拶を始める。

 

 「ルゥは梅組の囁木ささやきテルハっていうの、文化系の部活の窓口でお仕事してるの」


 「ルゥちゃん、同じ一年生? 私は松組の天童レナ、ちっちゃくて可愛いねぇ」


 レナは、少し腰を低くし、テルハと目線を合わせて挨拶をする。


 その姿、その発言、さながら小学校の時に教わる不審者のようである。


 それに連動するように、レナの注目はテルハの胸元に付けられたブローチに行った。


 それは言うなれば、エジプト王朝のスカラベのようしかし、微妙に違うような、見たことあるようでない甲虫の形をしていた。


 「ねぇねぇ、胸についてるそれ何?」


 レナは単にこう言うタイプの女の子を書いたことがないので、あわよくば取材しようと考えていた。


 テルハは質問に答える。


 「ルゥはね、お姫様なの、遠い遠い宇宙そらはての……これはその証」


 (……メルヘン電波系だったか)


 内心ツッコミつつも、レナはそういうテルハを邪険にはせず質問を続けた。


 「へぇ、宇宙人のお姫様なんだ。何星?」


 「テルルン星っていうの、お母さんはそこの女王なの」


 (宇宙人、しかも王族設定か……かつて少年漫画で流行った伝説のラブコメ作品を彷彿とさせますなぁ)


 「へぇ、どんな漫画なの?」


 「宇宙人のお姫様がド平凡な地球人の坊やに一目惚れしてカクカクシカジカ……あれ、私今思った事口に出てました?」


 レナそう言うとイユリに目を合わせた。

 答えを求められていると察し、イユリは言った。


 「いや、別に何も言ってないと思うけど」


 その時アトラが自慢する様にテルハに肩を組んで彼女の力を語る。


 「すげぇだろ? テルハはテレパシストなんだ。コイツにぁ隠し事は通じねぇぜ」


 「レナちゃん、えっちぃ事考えてるの」


 「ちょー! プライバシープライバシー! 勝手に脳内みないでぇ!」


 「テルハのテレパシーは常時発動型、故に我らの思考は常にダダ漏れである」


 「カレン様、リアム君って人の事しか考えてないの」


 「あら、その通りよ、精神干渉はされないように対策してるのに、アナタすごいわね」


 テルハはその見た目の妙な愛くるしさからなのか、カレンやレナから頭を撫でられたり、ほっぺをツンツンされたりしている。

 

 それを見てイユリはレナに耳打ちしながら忠告する様に言う。


 「こう見えてコイツら二人ともアトラ先輩に鍛えられてる武闘派だから、あんまし喧嘩売るような事するなよ」


 (なるほど、厨二なのは飾りじゃないのか)


 次の瞬間、集合時間ギリギリで三人の生徒が入って来た。


 「おやおやぁ、ウチらが最後でしたん? 待たせてしもたみたいで申し訳ないなぁ」


 入って来たのは、風紀委員長の朱鳳アマネとその姉妹達である。


 そして、気づいた時にはアマネはレナの目の前にまで接近していた。


 あまりに自然、堂々と接近されているにも関わらず、レナは全く反応出来なかった。


 テレポートしたと錯覚してしまうほど、音も気配もなく近づいたのだ。


 「アンタが天童レナはんかぁ、可愛ぇ顔しとるなぁ、ウチは朱鳳アマネ、この学園で風紀委員長ふうきいいんちょやらせてもろてます。よろしゅう」


 高校生離れした妖しい色気を纏うアマネ、しかしレナの注目は彼女の話す京都弁に当てられていた。


 (東京育ちだからかな、この人の京都訛りがマジなのなエセなのか全然わかんない)


 レナの顎下を指でスラリとなぞり、耳元で囁くようにアマネは言う。


 「なんでも、悲哀愁をシバき回したらしいなぁ……ええなぁ、将来有望やぁ」


 「アマネ先輩、面白いこと考えているの」


 「アンタは確かぁ〜そや思い出したアトラんとこの末っ子やなぁ、可愛え子やなぁ!」


 「ほな、ウチの妹らを紹介しよか」


 「皆様ごきげんよう、私は朱鳳様の元で風紀委員を勤めております! 寛木くつろぎエルゼです! よろしくお願いします!」


 (ほほぅ、恐らく社交辞令をわきまえた感じの王道幼馴染系と見た。ここに来て初めて普通の美少女を見た気がする)


 「この子は先日の事件の際に結界貼って街守っとった子なんや、優秀やで」


 「結界、あぁ、コレですか」


 そう言ってエルゼが展開したという結界をレナはスノードームサイズで出した。


 「なっ、これ私の結界! どうやって?」


 「あの時解析して覚えました。いやぁ〜お陰で助かりましたよ、これなかったら私死んでたと思います」


 「まさか、私の結界は一子相伝で結構難しいのに、それをあっさり再現するなんて噂に違わず凄い才能ね」


 エルゼはレナの持つ才能驚きつつもに素直に感心していた。


 そして、自らを主張するようにあんまり上手じゃない英語? らしき言葉で注目を向けた。


 「へ〜い、ルッキャウツメーン」


 それは、お嬢様学園で風船ガムを膨らませるという異様な雰囲気の少女。


 黒と金のスカジャン、ベースボールハット、パーティ用のサングラス、無駄に高級そうで統一感がない無数の指輪、黒と金を違え互いにに塗ったマニキュア、金色チェーンの首飾りの少女。


 それを見たイユリは面倒臭い奴を見るような目で言った。


 「うわっ、一番強烈なのが来た」


 次の瞬間、その場にいた生徒達は常備していたであろう耳栓をして一斉に耳を塞ぎ始めた。


 その人物は、おもむろに金色のマイクを構えると、軽快な口調で奏でる。


 「『Hay Yoレナ、アタイの名前は浮楼ライム、朱鳳の妹、二年の次女、期待の一年、震えるマイハーツ、イェア!!!!!』」


 耳の奥をまさぐられるかのような独特の音程ラップ甲高く裏返って聞くに耐えない、レナは反射的に耳を塞ぎ目を見開いて歯を食いしばっている。


 (うわっ、何この音程空中分解の絶妙に音痴なラップ! 声裏返ってるし耳が気持ち悪い)


 彼女のラップは言うなれば怪音波、韻を踏んでいるか以前に害になるレベルの下手さ。


 そのレベルは日本を代表する商店長男のガキ大将にも匹敵する下手っぷりである。


 事実、彼女は過去に放送委員時代に学園のスピーカー当の機材をその歌唱力で全て破壊してクビになっている。


 「『求めるアンサー、お前の名前は、聞かせろレナ、プロフィール語りな!』」


 そう言うと、ライムはレナに自らのマイクを投げ渡した。


 (これは、答えなければヤバい!)


 レナはすぐさまマイクを構え、不慣れながらもラップを始めた。


 「まっ、『My name is 天童レナ、百合を求めし一角ひとかどの漫画家。私のアンサー聞きたいなら、聞かせてやるからよく聞きな。私はパンピー生まれパンピー育ち、乙女の織りなす百合が大好き、月之輪姉妹の末妹まつまいにして、しがなきさすらう、オタクの端くれ!』」


 「YES!! ナイスバイブス、染み入るバース! 今日からマブダチ拒否権な〜し、イェァ!」


 ライムはレナがラップで返してくれた事がよほど嬉しかったのか、肩を組んでほっぺをスリスリする。


 レナは気に入られたようだ。


 「ちょっと待て天童レナよ、キサマ漫画を書いているのか?」


 「え、はい、同人誌中心ですけど」


 シノブはどこに隠していたのか、スッと色紙を差し出した。


 「ここに絵を書いてみてくれ」


 「私の絵? まぁ別にいいですけど」


 レナは色紙を受け取ると、慣れた手つきで素早く絵を描いて行く。


 霊能者としての天才性より長年研鑽を積んで来た漫画家としての能力にレナは強い自負がある。


 故に絵を書いてと求められて、断るという選択肢は彼女に無い。


 レナが書いたのは、先日の悲哀愁戦にて助けてもらった【苦痛に悶える君が好き】のヒロイン伊丹ナオン。


 あっという間に描き終え、シノブにそれを見せると、彼女の様子が変わる。


 「こっ、この絵のタッチは! 天童レナよ、まさかキサマ……レナっちょ先生か!!」


 「えっ、私の事知っているんですか?」


 レナっちょ、それはレナが作家活動時に使うペンネームの事である。


 この学園の生徒、それも先輩が自分の事を知っているとは思わず、レナは驚いた。


 「おぉ、やはり! この鬼瞳シノブ、何を隠そうアナタが執筆した名作【D×Dレゾナンス】の大ファンなのだ!」


 「へ?」


 「なにそれ知らない、ライムは知りたい、シノブに聞きたい、教えてちょーダァイ♪」


 「クククッ……知らぬとあらば説明しよう【D×Dレゾナンス】とは、レナっちょ先生作の厨二百合作品の傑作! 先生にとって初のOVA化も果たした伝説の長編人気作品なのだ!」


 「ごっ、ご愛好いただき、あっ、ありがとうございますぅ……」


 引き攣った笑顔をしつつも、ファンの熱心な不況に感謝を言うレナ。


 しかし、その脳内は恥ずかしさで悶えまくっていた。


 (ギャァァァァ、ヤメロォ、そんなキラキラした目で私の黒歴史を語るなぁ!)


 「黒歴史ってなんなの?」


 「コラそこ脳内覗かない!」


 その時だった。

 誰かがパンパンと手を叩く音が部屋の中に響き渡る。


 「はいはい、皆さん静粛になさって下さい」


 それは教頭の林川サチヨだった。

 その隣には、理事長シラユリがいる。


 「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。それでは、これより捜索隊の選抜会を執り行います」


 「今回、喰血斬の特性を加味して主に剣士を主軸にしたチーム構成を考えています」


 「剣士? なぜに?」


 レナの疑問にはアマネが答えた。


 「喰血斬は基本、剣士と鍛治師は食わんし操らんのや」


 (硬派な性格の妖刀なのかな?)


 「メンバーの選定が終わり次第、連携力の強化の為、練習がてらコチラの依頼をこなして貰います」


 配られたのは依頼書、レナはマジマジとそれを見る。



◇◇◇◇◇


         依頼書


対象資格

上級霊能者


依頼内容

ショッピングモール(現在閉鎖中)に起きている異空間異常の調査と解決。


依頼危険度

レベル不明


報酬

なし


◇◇◇◇◇

 

 「んん? あのぉ〜コレって?」


 提示された物は練習の次元を遥かに逸した物だった。


 まず明確に危険度が提示されておらず、通常の依頼書とは明らかに異なっている。


 「現在こちらが調査した所、喰血斬があるのは街の周囲にある山々の中である事が分かっています」


 月之輪市の周辺を囲う深い山林は通称【魑魅魍魎ちみもうりょうの山々】と呼ばれている。


 そこは、まさに魔境であり世界でも何人もの配信者に紹介されているほど有名な世界屈指の危険地帯、特撮怪獣にも匹敵するスケールの怪物が跋扈する死の領域。


 「今回の作戦に当たって、生き残れる程度の戦闘力が無いと話しにならないので、皆さんにはこの任務にて己を鍛え上げて貰います」


 告げられたのは、無茶振りなんて表現が可愛いくらいのヤバい仕事。


 それに対して、レナはポツリと呟いた。


 「……話のスケールが物語の終盤とかのレベルなんですけど」


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