二章 学園四天王(一人不在)編

第21話 学園代表会議

 学園会議室、中央の円卓と四方向から見れる四つのモニターのみが設置された部屋。


 そこには、学園のみならず社会的にも広く知れ渡る三人の女傑が集結していた。


 「ようカレン聞いたぜ、お前んとこの末っ子あの悲哀愁をぶっ倒したんだってな!」


 男口調で少々不良にも似たオラついた雰囲気をの赤髪ショートヘアの三年生。


 鍛え抜いた拳で霊を祓う超武闘派霊能一族の次女、部活動組合代表、京極きょうごくアトラ。


 「ほんなら、ウチのとこの妹も褒めてやって欲しいわ、あの子の結界のお陰で倒せたようなもんやしなぁ」


 黒髪の長髪をハーフアップにして、目元には泣きぼくろ、制服の上に鮮やかな羽織をきているのは、剣術家一門本家の生まれで、風紀委員長、朱鳳すおうアマネ。


 「アトラは遠方での依頼、アマネは凍河家の件で色々動いてたというのに、二人とも元気そうで安心したわ」


 この街、ひいては霊能業界を牛耳る月之輪家の長女、学園の代表者生徒会長、月之輪カレン。


 彼女達は人呼んで学園四天王、学生でありながら一級霊能者の資格を持つまさに学園最強の四人である


 「よく来てくれました皆さん」


 彼女達を召集したのは、理事長にしてカレンの母でもある月之輪シラユリである。


 「学園長、急に呼び出されても困るぜ〜これから妹達に稽古つけなきゃいけねぇもんでよ」


 「おや、イブリンはんがまだ参加しておらんようですが、どないしはりました?」


 「ハァ……サチヨ」


 「はい、イブリン・ジョンソンさんは、母国よりリモートで出席、する予定でしたが、機材が破損したとのことで、今回は欠席です」


 「はぁ? またかよ、しょうがねぇなアイツの機械音痴も」


 「それでお母様、お話というのは?」


 少し間をおいて、シラユリは重い口をゆっくりと開き語り出した。


 「今回の議題は二つ、まずは凍河レイジがテロ組織【神霊の剣】と通じていた件」


 【神霊の剣】その名を聞いた瞬間生徒三人の緊張感がグッと増した。


 「彼らは、凍河レイジが抱いていた我が一族への敵対心を煽り、学園の攻撃に利用したと考えています」


 「つまり、【神霊の剣】は我々に対して交戦の意を示していると」


 「定かではありませんが、そう捉えても良いでしょう、いずれにせよ街や生徒に危害を及ぼす様なら、こちらも手段は選びません」


 「おぉこわ学園長がくえんちょはんは、ホンマおっかないわぁ」


 「皆さんには、生徒への注意喚起、引いては学園内の警備強化へのご協力をお願いします」


 「お安い御用だぜ、てか、テロリストの尖兵くらい俺一人で余裕に潰せるっつーの」


 「こら、アトラふざけないの」

 

 「で、理事長さんよ、もう一つの議題はなんだよ」


 こちらの議題に関して、シラユリの表情に曇りが見える。


 よほど口にし辛い内容なのだろう、一同がそう察する中でシラユリは語り出す。


 「お恥ずかしい話ですが、実は、我が家で代々管理していた妖刀が何者かに持ち去られたのです」


 手に持った扇子で顎をトントンのして、アマネは思い当たる情報を記憶から手繰り寄せる。


 「月之輪が管理しとる妖刀といいますと……まさか、喰血斬くいちぎり!」


 「はい、我が家の蔵にて厳重に封印されていましたが、それが突如として」


 「なぁアマネ、くいちぎりってなんだ?」


 知らないのか、という呆れのため息をつくと、アマネは妖刀について話した。


 「手にした使い手を意のままに操り、斬った相手を文字通り喰らう、そして最後には使い手すらも喰い殺す。危険レベル測定不能の妖刀や」


 朱鳳家は剣術家の一族、特に妖刀や魔剣なのどに関する情報力は凄まじい、アマネ自身マニアなのもあり、刀への確かな知識があるのだ。


 「その喰血斬が、まさか脱走したと言うのですか?」


 それを聞いたカレンは信じられないと言った様子だった。


 それもそのはず、刀が封印されている蔵には厳重な結界が施されている。


 そこに入るなど、一朝一夕で出来る芸当ではないからだ。


 シラユリは娘の疑問に答える。


 「あの刀は自律的な思考こそできますが、自力で動く事はできません、人の手で持ち出されたと考えるのが妥当でしょうね」


 「しかし、蔵の結界を突破した上に刀の封印まで破って持ち出す程の人間など」


 「蔵の結界は突破などされていません、今も正常に起動し続けています」


 「えっ、それでは、まさか」


 「その通りです。我々、月之輪の血に連なる者による犯行と思われます」


 蔵の結界は資格者の遺伝子情報を鍵として入る資格があるものの成否を確かめる。


 その資格こそが、月之輪家の血族であることだった。


 「まさか、私をお疑いなのですか?」


 「実の娘を疑うものですか。しかし、今回の件で私達二人は共に容疑者となっているという事は留意してください」


 「……はい」


 「それと、封印ですが、力づくで破られていました」


 「それは、どういう」


 「言葉通りです。解呪などの正しい手順を踏まず物理的な手段により封印は破壊されました」


 「そんな馬鹿な、アレは人間の力で破れる物ではありません、それこそ人智を超えた霊力を持ってして肉体に強化を施したとしても……」


 「はい、故に今回の相手は、一筋縄ではいかないかもしれません」


 「【神霊の剣】が関係してる可能性は?」


 アトラは、思い当たる犯人の可能性を問う。


 「現時点では不明です。しかし、タイミングから考えれば無関係の一言で片付けるのは難しいかと」


 「まぁ、せやろなぁ」


 「刀の所在についてはこちらで調査いたします。皆さんには───」


 「それなんやけどなぁ、そない遠くへは行っとらんと思います」


 「根拠は?」


 「ウチの感や」


 朱鳳アマネ、彼女の感はよく当たる。

 第六間と言うべきなのだろうか、その直感力は異常なほどの的中率を誇っている。


 それをこの場にいる者達はよく知っている故に彼女の言葉は信用にたるのだ。


 「そうですか、では調査範囲は月之輪市とその周辺、魑魅魍魎の山々までとしましょう、特定次第こちらから連絡しますので、皆さんには生徒から回収メンバーの選出をお願いしたいのです」


 「押忍!」「ええよ」「承知いたしました」


 三人は揃って返事をした。

 続いてカレンが言う。


 「喰血斬の調査どうか私達にお任せ下さい、あと早くリアム君を呼び戻してください!」



 ◇



 「理事長、お疲れさまです」


 「えぇ、本当に、次から次へと問題が浮き出て来て胃が痛いわ」


 「カレン様のワガママにお付き合いするわけではありませんが、リアム様と久しぶりにご連絡されてはいかがですか? 気分転換になると思いますよ」


 「ありがとうサチヨ、そうしたいのは山々だけど、今は喰血斬の対応に当たる方が先決ですので」


 「それなら、今からすればよろしいではありませんか、今日はまだスケジュールに少しばかり余裕があるのですから、こういう時は積極的に活用しないとダメですわよ」


 「……しかし、今は授業中のはず」


 「この時間なら向こうは、じきに下校時間ですよ、メッセージアプリで手軽にでもいいから連絡すればよいのです」


 「しかし、今更なんと連絡すれば」


 リアムの意思を聞かず強引に留学を決めたのはシラユリだ。


 彼女はその事について、ずっと負い目を感じていた。


 いつまでも連絡しようとしないシラユリに、サチヨも次第に痺れを切らしていく。


 「リアム様がそんな事をいちいち気にする性格ではない事くらい知っておられるでしょう? いいから、さっさと連絡なさいな」


 「サチヨ、怒ってます?」


 「怒るなんてとんでもない、私はただシラユリ様があんまりにも不器用だから、つい口出ししたくなっただけですわよ」


 「不器用、ですか」


 「はい、夫婦そろってそれはもう、シラユリ様はもっとカレン様のようにストレートに愛情を表現すれば良いのです」


 「それは……ちょっと気恥ずかしいですね」


 「あらまぁ、言うに事欠いて恥ずかしいだなんて! 韓流アイドルにはあんなにお熱を上げられるのに、実の息子にはそれが出来ないなんて、シクシク、可哀想なリアム様」


 「……サチヨ、今日は容赦無いわね」


 「あら、失礼しました」


 サチヨに発破をかけられて、シラユリは勇気が出たのか、携帯電話を手に取ると久しぶりに息子へと電話をかけることにした。

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