第24話 ガチ百合先輩

 「トップバッターはライムや、なんかエロいこと喋りぃ」 


 「オーライマイシスター! ライムのリビドー暴露しちゃうyo!」


 姉からの指名を受けたライムは、ピョンの跳ね上がるように立ち上がると、金色のマイクを構えてラジオやってるDJみたいなノリで話を始めた。


 「hey、hey、MCライムのミッドナイミサへよ・う・こ・そ! 今宵はライムにトリコなオーディエンス共に乙女の秘密 性癖を暴露しちゃうYO!?」 


 MCバトルの時とかにDJが流すレゲエホーンがどこからともなくファファファファーン! 鳴り響く。


 部屋にはスピーカーなどは見つからない、後の出所はわからない。


 その事も無論レナの関心を引いたが、それ以上にレナの視線は少し下に言っていた。


 (ライム先輩、ちちデカァ! 何? 着痩せ? いや、そもそも体のライン出ないように服着てた? とにかくスッゲェ!)


 レナの不躾な視線など気づかずライムは話し続ける。


 「それでは〜今よりライムの推しを皆さんにドドンとshowか〜い!」


 その乳の間をポケットのようにスマホを収納していたようで、自ら手を突っ込んで取り出した。


 レナは胸の隙間に何かしまう人を初めて見てある種の感動を感じていた。


 スマホを起動すると、その画面には待ち受けとしてとある人物の写真が設定されていた。


 「あっ、学園長だ」


 写真のアングル的に隠し撮りされた物だろうそこには月之輪シラユリが仕事中の姿が映し出されていた。


 「実はライムは熟年夫婦が大大大好物、そして理事長は今ライムが大注目してる熟女なんでぇす!」


 どうやらライムは四、五十代の夫婦に対して興奮を覚えるらしい。


 「熟女って、言い方w」


 思わず笑いが堪えられず、心の内で語尾にwを付けながらレナは笑った。


 「旦那さんも好みぃ! 夫婦共々加齢臭まみれになりながら抱いてやりてぇ! 以上!!」


 (年上好きしかもどっちもイけるタイプと来たか、最初っから飛ばして来たな)


 突如として始まった朱鳳姉妹の謎伝統、猥談ミサに巻き込まれたレナ。


 戸惑いこそあるものの、すぐに状況を受け入れ、自らの性癖を語る。


 それどころか、レナは少し楽しくなっていた。

 

 語り切った。みたいな表情のライムに対してアマネが言い放ったセリフはかなり淡々としたものだった。


 「ライムの話しはあんまドキドキせぇへんかったなぁ、次はエルゼ言ってみぃ」


 (つめたっ)

 

 次に指名されたのは朱鳳姉妹の末妹、レナの同級生である寛木エルゼだ。


 彼女は気恥ずかしそうにしながら、自らの好みを語る。


 「私、年下の男性が好きなんです」


 「あれ、さっき先輩とベロチューしてたのに男が好きなん?」


 「あれは、お姉様とキスしたくらいでなんか失うわけじゃないし、別に良いかなって」


 エルゼが言った言葉は、他者に対する性的興味の薄さを感じさせた。


 同性愛者ではないが、同性との絡みに関して嫌悪も興奮も感じない、美女にネットリとしたキスをされたりしても、特に気にもならないし何も感じないそう言った感じだ。 


 (最初に会った時は、なんか真面目な印象だったけど、こっちが素なのかな、もしかして結構ドライ?)


 レナはエルゼの言う好みのタイプ、年下の男性とはどんなもんなのか聞いてみる事にした。


 「年下って、中学生だよね、まぁ進学したばっか出しへだたりとか感じなさそうではあるけど」


 「えっと、別に中学生も嫌いじゃないけど、どっちかと言うと、もっと下が良いかも」


 「下って……えっ、小学生?」


 「そうなの! やっぱり男っていうとこのくらい歳の人の事をを言うのよね、それ以上はハッキリいってジジイっていうか、ぶっちゃけ無理」


 始まったのは、エルゼ独自の男性観。


 彼女はにとって、男とは十代前半の少年を指すらしい、寛木エルゼら俗に言うショタコンだった。


 「ところでさぁ天童さん、弟いるんだってね、いくつ?」


 「は? なんで知ってんの?」


 「カレン生徒会長が言ってたよ、レナさんは同好の士だって」


 (いや、アレといっしょにされるのはちょっとなぁ)


 両肩をガシッと掴んで迫って来る目が飛び出そうになっているのかと見紛うほど見開いて、物凄く血走っている。


 その迫力は、例えるならば敵兵の首を求めて刀をぶん回す薩摩隼人のようだ。


 レナは根負けしたように、力なく答えた。


 「えっと、中一だけど」


 「中一ってことは、十二から十三歳! 写真は? あるなら出して」


 「えぇ、写真なんてあったかなぁ〜?」


 実を言うとレナのスマホには、弟の写真が全くと言っていいほど無い。


 あるとすればコミケ参加時、客引きの為に女装をさせた時の写真くらいしかマジで無い。


 何かないかと、スマホをフリックしているがその時ふと、レナはある事を思い出した。


 「あぁ、そういや親から入学式の写真送られてきたんだった」


 そう思い出して、メッセージアプリを開いて見ると、そこには入学式の看板がある校門の前で撮影した家族写真を探す。


 「えっと、あったこれだ」


 そう言った瞬間にエルゼは、レナから携帯を強引に奪い取ると、その弟の写真を凝視していた。


 その次の瞬間だった。


 「キャァァァァ! ウッソ、可愛い!! ねぇ紹介して、紹介料は言い値で払うから!」


 どうやらレナの弟はエルゼのお気に召したようであり、まるで恋の相手を探して友人から紹介してもらおうとでもする様なノリ、レナは完全にポカーンとしていた。


 「は? なんで───ぐぇっ!」


 その時、エルゼはすごい剣幕でレナの胸ぐらを掴みとった。


 怒声と共に強烈な声で迫る。


 「いいから、教えろぉ! 早くしないとこの子がジジイになっちゃうだろうがぁぁぁぁ!」


 金切り声で喚く彼女は、下手な心霊スポットよりよほど怖いとレナに感じさせる。


 「ちょ、怖いって、落ち着いて」


 そんな状況を見兼ねたのか、仲裁に入ったのはライムだった。


 「hey heyエルゼ、ステイステ〜イ、落ち着け、ほら、イケおじの写真見て」


 その時、エルゼはライムの胸をアイアンクローのように掴んだ。


 その掴みは完全に握り潰しにかかっている。


 胸ぐらを掴むとはいうが、巨乳を掴み上げて迫る人は流石のレナも初めて見た


 「ギャァァァァ! もげぇるぅ! ライムのπがもげるぅ!! 痛いって離せ!!」


 「アホんダラァ!! れたオッサンのモツなんぞより、ショタのモン突っ込んだ方がこっちは百倍気持ち良いんだよ!」


 「えっ? 経験あるの?」


 レナがそう言った時だった。


 アマネが刀に手をかけると、その場の空気が一変する。


 気圧で重くなった感じに、トゲトゲした威圧感が辺りに充満する。


 「エルゼ、ミサに殴る蹴るは御法度おとなしゅうしとけ」


 「もっ、申し訳ありません!」


 その圧力には、さしものエルゼも頭が上がらないようだ。


 気を取り直し、アマネは次へと話を進めた。


 「次はぁ、レナはん、いよいよアンタや」


 「百合が好きです」


 即答だった。


 「さっきも思うたけど、百合ってなんや? 花のことかいな」


 「ノンノン、違いますとも風紀委員長ら百合とは俗に言うガールズラブをさす言葉、まぁ、比喩の様な物だと思ってください」


 「ほぅ、てことはレナはん同性愛者て事なんやろか?」


 「いえ、私自身は別にそう言うんじゃありません」


 レナは清々しいほど、キッパリと言い切った。


 「私、恋愛は見る専なんで自分でするつもり無いです。自分で恋して萌えるより他人が恋してるのを見て萌える女なんですよ私は!」


 朱鳳姉妹一同はその熱量に少し気圧されていた。


 ライムがレナに聞く。


 「つまり、レナ自身は自分で百合しなくてOK?」


 「私は百合をなんですよ! 自分でするなんて言語道断です!」


 「おっ、おう」


 「特に百合! 乙女と乙女が交わる事によって生まれる相互作用! 相乗効果でより一層深まって行く永遠恋愛エターナルラヴァーズ!! まさに至高のジャンルです! 私がこの学園に来たのは、お嬢様高校ならリアルな百合が見れると思ったからです。そして! 今日! 学園でついに! リアル百合を見つける事が出来た! ガチ百合先輩! あっ間違えた朱鳳先輩!」


 どうやら、しばらく百合に触れられなかった事で鬱憤が溜まっていたのか、線が抜けた風船のようにマシンガントークが止まらなかった。


 アマネは律儀にこの長ったらしい話を聞いていたようで、ゆっくりとレナに答えた。


 「あのなぁ、レナはんは何か勘違いしとるで」


 そう言うと、アマネは自分の番だと言わんばかりに話し始めた。


 「ウチは百合やない、ウチは──」


 ゴクリッと、レナが固唾を飲み込む。

 そしてアマネは言った。


 「──両刀や」


 朱鳳こまち、またの名を二刀こまち。


 二刀流で相手を切り伏せる事から、そう呼ばれるようになった。


 その秘められた性癖は男も女もどっちも行ける正に両刀だった。


 アマネノリに任せて、そのまま自らの願望を語り始めた。


 「ウチの理想はなぁ、好みの美男美女に囲まれたハーレムを築く事なんやぁ♡」


 「……は?」


 その言葉にレナは、耳を疑った……みたいな顔をしている。


 「男はそやなぁ、生命力に溢れたようなゴリっとした感じのがええわぁ」


 「それはつまり、自らの百合カップルに男を挟みたいと、そう言っているんですか?」


 「は? まぁ、大体そんな感じやろなぁ」


 「──邪道」


 「ん?」


 すると、まるで別人のようになったレナ、何かがキレたのか、爆発したように語り始めた。


 「聞こえなかったんですか? 邪道だって言ったんですよ、いいですか百合の間っていうのはですね老若男女問わず何人なんぴとたりとも決っっっして入る事が許されない絶対領域の禁足地サンクチュアリなんですよ、そんな、そんな神聖な場所にして聖地にィ! こまち先輩はァ、なんて言いました? 自分の百合に男を挟みたいって血迷ったこと言いやがったんですよ百合厨であるこの私の前でぇ! 百合でありながら自ら男を挟みたいなどと……トチ狂った世迷言ほざくのも大概にしろよこの邪道先輩がぁ!!!!」


 「ちょい待ち、落ち着きやレナはん」 


 「じゃかあしい! 百合とはなんたるかも解らん外道がぁ! 正座しろぉテメェ、分かるまで説教してやるから黙って聞けぇ!」


 レナの説教は次の日の朝までぶっ通しで行われた。


 そして、レナは二度と猥談ミサには呼ばれなかった。


 因みにライムとエルゼは、説教喰らう姉を差し置いて先に寝ていた。

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