第34話 わたし は おひめさま

 まだ覚えたばかりだろうと思わせる拙い子供の字で書かれた英文の日記。


 それを読もうと開いたのはいいものの、レナ達はとある問題にぶち当たっていた。

 

 「子供の文字だから、悪くぁ言いたくねぇがよぉ……よっ、読みづれぇ」


 「これは、うむ、読めん」


 「ちょいちょい読めてもたまに単語の綴り間違えてるの」


 「感情がこもった力強い字ですね〜、読めないですけど」


 レナを除く3人は仮にもお嬢様、それなりに教養は積んで来たので当然語学は堪能、だからといって読めないほど字が汚ければ当然読めない。


 「ねぇ、ルゥちゃんこの本から声聞こえるとか言ってたよね? 訳せるようお願い出来ない?」


 「スピーカーみたいに音を垂れ流してるだけだらかルゥの声は届かないの」


 「えーマジかー、どうしよう、ん?」


 何かないかと思案を巡らせていると、レナの制服にある胸ポケットがゴソゴソと音がする。


 「えっ、なに?」


 その時、ギュンとまるで弾丸の様な勢いでレナのペンが突然飛び出したのだ。


 「ヒッ!!」


 ペンはレナの頬を僅かに掠めてあたかも突き刺さりそうになったので、回避で身を仰け反らせた。


 「なっ、何なの急に!?」


 「───ぇ、かぇ」


 「えっ、なに? なんて?」


 「使え!!」


 レナは声に導かれるまま、ペンを握る。


 「───唱名【求道理想具現化筆きゅうどうりそうぐげんひつ】」


 その名を口にした時、ペンは輝きを放ち、レナの前にはかつて見た漫画のような画風の巨大な百合の蕾が現れる。


 「重ねて───唱名【心眼魔眼絡麻里亜しんがんまがんからまりあ】」


 その百合が花開き、一人の女性が現れた。


 「……やっと会えた。呼んでくれてありがとうね、レナちゃん」


 その女性の印象を一言で現すのならピカピカの大学一年生。


 どこにでもいそうな親しみやすさと、人の良さそうな幼なげな顔立ちながらも、どこか大人びた雰囲気を醸し出すそんな印象をうける。


 シノブはその女性を一眼見て何者か気づいたようで興奮したように、鼻息荒く言った。


 「ぬっ、ぬォォォォ!! この御人はぁ!!【D×Dレゾナンス】主人公の絡馬手麻里亜からめてまりあではないかぁ!! リアルで見れるとは眼福!!」

 

 「あぁ、いやチョイスしたのは私じゃなくてペン……そうじゃなくて、麻里亜さんお願い、あなたの力を貸して欲しいの!」


 「いいの? 私って那音ちゃんみたいに戦闘力付け足されてないから、原作と大して強さ変わんないよ?」


 「戦闘じゃなくてこれを読んで欲しいの! 麻里亜さんの【魔皇眼まこうがん】で!」


 【D×Dレゾナンス】は、レナが中学二年生の時に執筆した作品。


 普通の大学生である主人公の絡馬手麻里亜は、父親から受け継いだあらゆる不可視を可視する特別な目【魔皇眼】を覚醒させる。


 その事を機にその力を掌握しようと目論む悪の魔術師達に狙われながら相棒となる女性と

百合の絆を深めていくというストーリー


 彼女を呼び出したのは、その【魔皇眼】の力に起因している。


 突然現れた見知らぬ人物にアトラは戸惑いを隠せなずシノブに聞いた。


 「なぁ、シノブあの人に詳しいんだろ、説明してくれよ」


 「フハハ!! 我が姉君よ、よくぞ聞いてくれた。知らぬとあらば教えてしんぜよう!」


 シノブはオーバーリアクション気味に一々ポーズをとりながら興奮混じりに説明してくれる。


 「彼女の目にはあらゆる不可視を可視とする力が宿っている! 本編作中では魔術の力の源である見えざるエネルギー【魔力】を直接視認出来る事から、その目を奪おうと魔術師達に狙われる様になるのだが、【魔皇眼】が見る事の出来る不可視とは、単純に目に見えない物のみを指す訳ではないのだ!!」


 「で、どう言う事だよ」


 「それは、人間の脳では通常見ただけでは理解する事が出来ない事象や法則を正確に見極め分析し、人間の規格に落とし込んで理解する事が出来る。つまり例え読めない未知の言語や文字が眼前に現れようと、読める!!」


 シノブの説明を聞いていたアトラとテルハが感心したように「おおっ」と口を揃えて関心を示す中、レナの表情は複雑だった。

 

 (当時バリっバリの厨二病だった私が設定複雑=かっこいいと考えて作ったから、当時の未熟で痛い自分を晒す様で恥ずいんだよね、なんでこんな子供っぽい厨二のが売れたのか自分でもわかんないし)


 「……読み終わったわ」


 麻里亜が都合よく速読設定を持っていたお陰で時間をかけず日記の内容を解読する事が出来た。


 「おぉ、それでそれで!」


 「ごめんなさい私の口からでは、伝えられないの、だからレナちゃん少し体を借りるわね」


 そう言うと、レナの体に吸い込まれるように麻里亜は憑依する。


 服装は清楚にまとまったレースのある白いシャツにロングスカート姿となる。


 以前の様な派手な変化は無く、一見すれば単に着替えただけだ。


 「いぃ!? 式神纏身しきがみてんしんの術……」


 この変化を目にしたアトラはかなり驚いている。


 この技を使えるのは、全世界の霊能者の約一割程度、一級霊能者でも扱えるのはごく僅か、両手で数えられる程度である。


 それを擬似的とはいえ扱えるレナの力には相当面食らったらしい。


 「うん、これでいいわね」


 声はレナのままだが、口調の物とは大きくことなっていた。


 わかりやすい変化としてレナの目の色、複数の絵の具が混ざらず流動し不定形なマーブルカラーを形成している。


 「術者に憑依したのか、イタコの逆バージョンってとこか、霊媒の併用もできんのな」


 「ごめんなさい……この日記は、執筆者から許可されていない者が声に出して読み上げると呪いが発動する様になっているから、こうしてレナちゃんの体をお借りさせて貰ったわ」


 麻里亜はレナの体に取り憑くことで呪いの発動を塞いでいた。


 ちなみにこれは、麻里亜自身の力ではなく式神側から、レナの潜在能力に干渉し一時的に引き出したにすぎない。


 レナの想像力の根源である精神世界から来た彼女からすれば、術者の脳から力を抽出する事は他愛無く出来る事だった。


 「さて、それじゃあ話しましょうか」


 レナに憑依した麻里亜は軽く身だしなみを整えると、その日記を手にしながら、本の読み聞かせを始めるように語り始める。


 「これからお話するのは、とある少女の物語です」


 わざわざ雰囲気を出し始めた麻里亜を見て京極姉妹は小声でおしゃべりしだす。


 「なぁシノブ、なんで急に読み聞かせみてぇな事始めたんだあの人?」


 「麻里亜は元々保育士志望なのだ。先生ぶりたいのだろう」


 「二人とも黙ってなの」


 ◇


〔◯月×日 晴れ〕

今日は私の誕生日です。

お誕生日プレゼントに日記を買ってもらったので今日から毎日日記をつけます。

この日は私がずっと行きたかった夢の王国の遊園地へ行きました。

私は嬉しくて泣いてしまいました。

お父さんが車を走らせてくれました。

お母さんは用事があるからと言ってお留守番さていました。お母さんも一緒に来て欲しかったです。

でも、お母さんもお父さんもみんな笑顔です。


私はそこでお姫様になれました。

お父さんが夢の王国で売っていたプリンセスのドレスを買ってくれました。

最後の一個でした。

今日はたくさん貰えました私凄く笑顔になりました。



〔◯月×日 曇り〕

今日はお熱が出てました。

遊園地が楽しすぎて疲れちゃったからお熱がでたそうです。

保育園はお休みしました。

お父さんはお仕事ですが、時間ギリギリまで看てくれました。


お母さんは、心配してくれました。

でも何もしてくれませんでした。


一人でおトイレに行くと、お母さんが知らない男の人を家に上げていました。

すごく仲良しでハグしたりキスしたりしてました。

お母さんは笑顔でした。いい事なのだと思い私は少し笑顔になりました。



〔◯月×日 曇り〕

今日は悲しい事がありました。

母さんがお父さんが喧嘩をしたのです。

理由はたぶん私のせいです。

昨日お母さんと知らない男の人のお父さんに話をしたらお顔を真っ赤にしてお母さんに怒鳴りました。


きっと、お母さんは悪い事をしたんだと思います。それでも喧嘩は悪いことです。

私は喧嘩を止めました。私が大好きなお姫様ならきっとこうします。

お父さんは笑顔でごめんなさいっていいましたお母さんもごめんなさいって言いました。笑顔でした。目が怖かったです。

でも最後は仲直りしました。

これで私も笑顔です。お父さんとお母さんは笑顔ではありませんでした。



〔◯月×日 晴れ〕

今日はおばあちゃんの家にお泊まりに来ました。

おばあちゃんはお父さんのお母さんです。

お父さんがお迎えに来てくれました。

お父さんはお母さんと離れて、二人暮らしになっても平気か聞いて来ました。

意味はよくわからないけど、お母さんがいないのは寂しいといいました。それでも私はお父さんが大好きなので、平気だといいました。

お父さんは私にハグしてくれました。でもずっとごめんなさい、ごめんなさいと言って謝っていました。

お父さんを悲しませたくないので、私は精一杯笑顔になりました。


〔◯月×日 雨〕

今日はお父さんがお仕事から帰ってきませんでした。心配です。

お父さんと一緒に出かけたおばあちゃんも帰って来ませんでした。心配です。

私はお外で遊んでいましたが、夜遅くになるとおばあちゃんの家にお母さんがお迎えに来てくれました。

大丈夫と私に優しくハグしてくれました。

夜で一人で怖かったので、安心しました。

いつものお母さんだ。笑顔です。私も笑顔でいます。

きっとお父さんも笑顔になります。



〔◯月×日 晴れ〕

今日は、辛い事がありました。

お父さんとおばあちゃんがお星様になったのです。天国に行ってしまいました。

お家にお巡りさんが来て私とお母さんに教えてくれました。

私は大きな声で泣きました。信じられませんでした。

お母さんもお顔を塞いで泣いています。

お巡りさんとのお話が終わってお巡りさんが帰ったらお母さんは泣き止んでました。


遊園地に行った時の私みたいにウキウキしながら電話を始めました。誰かと楽しそうにお電話しています。

ホケンとか意味はわからなかったでしたが、お母さんは笑顔です。

天国のお父さんが心配しないように私も笑顔でいることにしました。



〔◯月×日 晴れ〕

辛くてしばらく日記が書けませんでした。

今日から再会します。

今日はお母さんが優しそうな男の人を連れてきました。この間の知らないおじさんとはまた別の人です。お母さんは新しいお父さんになる人だと言っていました。

ちょっと不安でした。

でもその男の人は優しくて、お人形をくれました。

私の大好きなお姫様よエメル姫のお人形です。

私は笑顔になれました。



〔◯月×日 晴れ〕

忙しくてまたしばらく書けませんでした。

次からまた毎日書きます。

今日は最近の出来事をまとめて書きます。


お母さんは新しいお父さんと再婚しました。

それで、すごくいい事がありました。

お姉ちゃんも出来たのです。すごく優しいです。

お姉ちゃんは高校生でお菓子を作れます。

とても上手でお菓子は美味しいです。

私と一緒に遊んでもくれます。私はすぐにお姉ちゃんが大好きななりました。


新しいお父さんは笑顔です。お姉ちゃんも笑顔です。私も笑顔になりました。



〔◯月×日 曇り〕

今日は仲良しになったお姉ちゃんに私が書いた日記を見せてあげました。

日記を見せたらお姉ちゃんは口を抑えてびっくりしてました。


そしたらお姉ちゃんは私をギューっと抱きしめてくれました。

嬉しかったけどお姉ちゃんはすごく悲しそうでした。

お姉ちゃんに言われて新しいお父さんにも日記を見せてあげました。

新しいお父さんはお姉ちゃんと同じで悲しそうに抱きしめてくれました。



〔◯月×日 曇り〕

今日はお家にお巡りさんが来ました。

お巡りさんはお母さんを連れて行きました。

お母さんは私を怖い目で見ていました。

パトカーに乗せられるお母さんを見ていた私の手をお姉ちゃんな握ってくれてました。

ちょっと痛かったけど、嫌ではありませんでした。

今日は笑顔にはなれませんでした。



〔◯月×日 雨〕

今日はお姉ちゃんの誕生日です。

新しいお父さんと三人でお誕生パーティをしていました。

すると、お母さんが帰って来ました。

お巡りさんが連れて行ったのになんで?

よく見ると、前に見たことがある知らないおじさんを連れて来てました。


おじさんは私の本当のお父さんだそうです。

お母さんは何を言っているんだろう?

私のお父さんは最初のお父さんです。

知らないおじさんじゃありません。


知らないおじさんは銃を持ってます。

新しいお父さんを撃ちました。いっぱい撃ちました。バンバンって音がしてお耳が痛いです。


お姉ちゃんが車に乗せてくれました。一緒にドライブに行きます。

顔を真っ青にしながら私に、大丈夫、大丈夫、絶対守るって言ってくれました。

私は怖くて笑顔になれません


車が追いかけて来ます。こわい、こわい。

追いかけて来る車は母さんが運転してました。おじさんも乗っていました。


向こうの車を見ていると助手席にいるおじさんが急に本を読み始めたのが見えました。

魔法のマークが書いてある黒い本です。

その時、車が止まってしまいました。お姉ちゃんが何をしても車が動きません


おじさんが車から降りてくると、お姉ちゃんをいじめました。

お姉ちゃんの服をビリビリ破いて裸にしました。

お姉ちゃんの体を押さえつけて何かをしています。痛がってます。嫌がってます。助けないと。

でも怖くて動けませんでした。


その時、お母さんが来てくれてました。

お母さんにお姉ちゃんを助けて欲しいとお願いしました。

私はお母さんにぶたれました。

お母さんはお姉ちゃんを銃で撃ちました。


私は笑いたくないのに、怖くて怖くて仕方ないのに、お顔を触ったら、笑っていました』



〔◯月×日 わかんない〕

私はおじさんのお家に連れて来られました。

お母さんは私を怒りました。私を蹴りました。

お前のせいでしか言わないので理由がわかりません。

蹴られている私を見ておじさんはお酒を飲んで笑っている。

私をいじめるのをやめたお母さんもお金を手にして笑っている。

私は笑えない。



〔◯月×日 わからない〕

お家から出れません。

出してくれませんでした。

私がご飯を食べていると、知らないおじさんがまたお姉ちゃんにしたいじめを今度はお母さんにやっています。

お母さんは裸で笑顔です。

おじさんも裸で笑顔です。

笑えない。笑えない。



〔◯月×日 わからない〕

今日はおじさんが私にお注射しました。

頭がフワフワして変な気持ちになりました。


おじさんは私を裸にして変な道具でイタズラしてきました。

お母さんはカメラで私をとっています。


痛くはなくて、くすぐったくて、理由はよくわかんないけど楽しくなって笑顔になってました。

すごく気持ち悪かったです。

笑えない。笑えない。



〔◯月×日 見た事ない色をした空〕

どうして、お母さんはお父さんを変えるのって聞くと、お金が欲しいからと答えました。

どうして、お姉ちゃんをいじめたのっておじさんに聞くと、顔が可愛かったからと言いました。


私はまたお母さんにぶたれました。

おじさんは私にいつもイタズラします。

笑えないのに笑ってる。笑いたくないのに笑ってる。笑えない。



〔◯月×日 父さん達とお姉ちゃんの形の雲〕

私は知らないおじさんに十字架に貼り付けられました。

変な黒いのを塗られてきもちわるいです。

おじさんが魔法のマークが書いてある本を読み聞かせると眠ってしまいました。


起きると私は知らない所にいました。

私はお姫様の服を着ていました。

そこでニョロニョロ姿のとっても大きな神様が現れました。

気持ち悪い見た目ですが、優しく話しかけてくれました。

どうやら神様は本に閉じ込められていたそうです。

猫さんみたいな名前の神様です。ニャー様と呼ぶことにしました。


ニャー様は言いました。

「お父さん思いの優しい優しい哀れなお嬢さん、僕を助けてくれてありがとう! お陰で解放されたよ、お礼に君の願いをなんでも叶えてあげよう! オマケに特別なパワーもあげよう!」


ニャー様は言う通り、私にパワーをくれました。

目を覚ますと、おじさんのお家が私になりました。家の中ならなんでもわかりました。


これで悪い人のおじさんとお母さんをやっつけます。

悪い人は許しませんエメル姫もそうでした。


おじさんはお菓子に変えました。

お姉ちゃんに食べて貰いました。

おじさんをクッキーにしたり、ケーキにしたり、食べてもらいました。

食べ終わったら直します。


お姉ちゃんは美味しそうに食べてくれます。

おじさんはいつも大きな声で叫んで楽しそうです。

私もジェットコースターで乗る時叫んで楽しむので、だから楽しそうです。

笑っていないので、笑わせました。


お母さんはお母さんなので、お父さん達を大人のまま産んでもらいました。

何度も何度もお腹をおっきくさせてお父さんを産んでもらいました。

お母さんも楽しそうで大きな声をあげています。

笑ってないので笑わせました。


パワーで作ったお父さん達もお姉ちゃんも笑っています。

おじさんもお母さんも笑顔です。泣きながらにやけてます。

私はお姫様、みんなを笑顔にします。

ニャー様は言っていました。

私ならみんなを幸せにできます。

悪い人なおじさんもお母さんも笑わせることができました。

私は今までで一番の笑顔になりました。


 ◇


 麻里亜は日記を読み終えると、日記をそっと閉じる。


 「日記はここまで、これで何かわかったかしら?」


 「……これぞ社会の闇、深淵な力たる闇とも異なる……じゃあ、部屋にあったグッズの山はやはり」


 シノブの表情が曇った。

 察していた事が事実だと知り、胸が締め付けられるような気持ちになっていた。


 「だが、これでハッキリした。この異空間の起点になってんのは、そのおじさんが持ってたって言う本、たぶん魔術書のたぐいだ」


 話を聞いて冷静に受け止めていたアトラ、しかしその手は血が滲むほど握られていた。


 その時、何かハッとしたようにテルハが動きだした。


 「逃げるの!」


 テルハは麻里亜、もといレナの首根っこを掴むと部屋の窓を突き破って脱出した。


 そのテルハのただならぬ様子に心中荒れる己に鞭を打ちアトラとシノブも続く様に飛び出した。


 全員が窓から飛び出た次の瞬間、全てを射貫く閃光が廃墟の家を貫いた。


 「おいおい、なんだありゃぁ!!」


 光の方を見ると、王冠を被った単眼の巨人が狙い澄ましたようにレナ達を見ていた。


 その他にも複数いる同じ顔の白人の男女達、アンナが与えられた力で作ったかつての父達と姉だろうと言うのはすぐにわかった。


 さらに店員、客達も集結して来て、レナ達は完全に包囲された。


 「あの巨人は、映画クーフリンのラスボス、魔王バロルですね、目からなんでも破壊できるビーム撃てる奴です」


 いつのまにか麻里亜は分離して退去しており、レナは元に戻っていた。


 その時、アトラが全員に命令を下した。


 「テメェら!! 魔導書を探せ! それをぶっ壊せば俺らの勝ちだ!」


 続いて、アトラはテルハに指示をたじた。


 「テルハ、あの巨人はお前がやれ、他の奴は俺達が仕留める」


 「……わかったなの」


 「えぇ! 魔王バロルをルゥちゃんにやらすんですか! 無茶ですよ!」


 「フフフっ、レナっちょ先生、さては我が妹をか弱い可憐な乙女だとでも思っているな?」


 「え? 違うんですか」


 「本当に思っていたのか……まぁよい、レナちょ先生よ、あの子を囁木テルハを侮ることなかれ」


 その時、巨人はその腕を振り上げると、テルハに向かって振り下ろした。


 地面を砕かん程の剛腕豪撃、人間が食らおうものならひしゃげて平たくなっていただろう。


 「ルゥちゃん!!」


 しかし、囁木テルハは違った。


 「酷い事しちゃだめなの」


 なんとテルハは、振るわれた一撃を片手で容易く受け止めていたのだ。


 「ウッソだろオイ」


 レナは驚いていた。


 テルハが片手で止めた事にではない、それなら霊力で強化すれば、ある程度の人間なら大体防げる。


 しかし、テルハはそれをしていない。

 霊力で身体能力を強化しているわけでもなく、素のフィジカルで巨人の一撃を受け止めているのだ。


 「断言しようレナっちょ先生、一年最強は誰か、それは我が姉妹の末妹、囁木テルハであると!」


 「───唱名【業断戦斧ごうだんせんぷ】」


 テルハが詠唱すると、長柄のバトルアックス型の式神が現れた。


 それを構えながら、魔王バロルと向かい合う。


 「可哀想な子、助けてあげるの」

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