都合のいい性格
俺は絶句した。
ボロ雑巾のようになった黒子さんが目の前に現れたからだ。
幹部の三人の顔を見ても、全員がなにか自慢気のような顔をしている。
(えぇ……。どうしてこうなった……。)
頭を悩ませる俺。
とりあえず知らないふりをしておいたほうがいいのだろうか。
「これは……なんですか?」
恐る恐る九頭竜に疑問を投げかける。
すると彼は口を開いた。
「私と冥土に襲い掛かってきた人物です。詳しく調べたところ、今回の問題点となっていた組織に所属していることがわかりました。」
「そうですか……。」
やはり地下室にいた時の物音は黛の攻撃によるものだったのだろうか。
黒子さんは何も反応することもなく壊れたおもちゃのように動かない。
え、大丈夫かこれ。
「この方は生きているんですか……?」
「生きていますよ。殺さないようにしているので。」
黛が胸を張って得意気に答える。
いや、これもう死んでいるに等しいだろ。
「そういえば有栖はどうしたのですか?九頭竜と一緒ではないのですね。」
黒子さんが九頭竜と有栖に襲い掛かっということは有栖もその場所にいたはず。
それにしては先ほどから姿を見せていない。
「それが……。その……。」
その場にいた幹部全員の雰囲気が急激に暗いものへと変化する。
え、これ聞いてはいけないやつ?
「有栖は大けがを負わされて、治療のためアジトへと戻りました。」
「なるほど……生きてはいるのですね。」
「数時間前の安否までしか把握していない状況です。」
「そうですか……。」
あの有栖が大けがね……。
黒子さんってそんなに強いの?
急に杉山さんと断罪者が怖くなってきた。
けど、そういえば平田によって瓦礫の下敷きになってしまったんだった……。
「ボス。どうなさいますか。」
「どう、とは……?」
「この人間の処分に関してです。」
「あぁ……。」
俺に降ってくるなよ!お前らで勝手にやっていればいいだろ!
そんなことはもちろん口にできない。
口にしたところで「無能はいらない」と言われて殺されるのだろう。
気が重い、胃が痛い。
三人は俺の提案をじっと待っている。
試しているのだろう。無能か、そうではないのかを。
「そうですね……。」
数分、あわよくば数秒という時間で俺は案を考える。
エンプレスの人間としては殺してしまうのが手っ取り早いのだろう、しかし俺が直接殺害を命令するわけにはいかない。
そんなことをしてしまえば、ついに凶悪犯罪者の仲間入りとなってしまう。
それに……短い時間だけだが、黒子さんのような関わりを持った人を一番に殺したくはなかった。
「一度この方もアジトに連れて帰りましょう。何かに使えるかもしれません。」
「”何か”ですか?」
俺の生存提案に疑問を感じたのか、九頭竜が小さく呟いた。
「はい。何か不都合なことでも?」
「いえ。ボスが決定されたことに不満など一切ないです。このまま持って帰ります。」
俺の提案に全員不満げな態度を示している。
まぁ、殺されないだけ妥協点ということだろう。
全員エンプレスのためになることならば手段は問わないはずだ。
「では、一度別室にこいつを連れていきます。」
「はい。よろしくお願いします。」
黛は黒子さんを抱えて一度部屋を出る。
それはまるで荷物を運ぶ引っ越し業者の様だった。
「はぁ……。」
これからどうなることやら……。
俺はこの先の未来に頭を抱えることしかできなかった。
—————————————————
黒子さんを運んだ黛が戻ってきたところで、改めて状況整理も含めて報告会を始める。
「では、現状も踏まえて、全員で状況確認をしましょう。」
仕切る人間は俺。
なんで俺。
いつも平田じゃん。
そんな平田は俺の言葉を聞くと大きな動作で手を挙げた。
「では平田からどうぞ。」
彼女は俺の言葉に従うように立ち上がった。
彼女の表情はなぜが重たい様子だった。
「話は少し変わるのですが、今回の友好者を作る件は失敗という形に終わってしまいました。」
「友好者……ああ、その件ですか。」
そういえば、元々そういう話でここまで来たんだったな……すっかり忘れてた。
そうか、断罪者……金城ほのかは死んでしまったのか。
「ボス自ら敵の陣地に乗り込み、友好関係を築こうとしてくださったのにも関わらず……。」
まぁ、それはものすごく成り行きなんだが。
たまたま有栖が捕らえられた組織に断罪者が所属していたってだけの話なんだがな。
「ボスの身に危険を感じたため、今回のような手段をとってしまいました……。」
いや、あの爆発のほうが危険だろ。
感覚どうなってんだ。
「不甲斐ない結果に終わってしまい大変申し訳ございません!!」
平田は俺に勢いよく頭を下げて謝罪の言葉を述べてきた。
それと同時に九頭竜と黛も頭を下げてきた。
え、怖い。
もはや俺が謝りたいんだけど。
「頭を上げてください。私は皆さんを咎めるつもりはありません。」
「で、ですが……。」
「予想以上にトラブルが多すぎました。これを想定できなかった私の責任です。」
俺の失態だからエンプレス抜けさせていただきます。
そんなおいしい話どこかにおちてないかなぁ。
「ボスの責任じゃありません!元は私が今回提案した作戦です!私に責任があります!」
「なら、今後対処できるよう、帰ってから反省会ですね。」
「は、はいっ!」
これ以上この話を進めても責任の無限ループになるだけだ。
俺は話を無理やり終わらせる。
その様子を感じ取ったのだろう、そのまま平田は話を進める。
「爆発の件もあって、警察やガーディアンズが動き出す可能性があります。早くアジトへ戻りましょう……といいたいのですが……。」
「—————紗月の件ですか?」
「はい。あれから何の音沙汰もないです。爆発に巻き込まれた様子もないですし……。」
滞在先であった旅館に向かってから行方不明になった紗月。
俺としては捕まりたくないから今すぐにでもここから飛び立ちたいのだが……。
「一度全員で旅館に戻り、調査しましょう。話はそれからです。」
やはり安否が不明な人をそのまま放っておけるわけがない。
我ながら罪な性格だ。
都合のいい時だけ人助け。
でも一つだけ確信があった。
「——————紗月は必ず生きています。私が選んだ人間ですから。」
彼女は絶対に生きている。
謎の自信が俺にはあった。
「ボス……!」
諦めていたのか、少し暗かった三人の表情が明るいものとなる。
勘違いだろうか。その様子を見て、なぜか気分が高揚した気がした。
「行きますよ。ついてきてください。」
「はい!」
俺は立ち上がって、三人を従えた。
なんだろう。久しぶりに自分がしたいことをする。
自然を笑みが零れた。
「待っていてくださいね。紗月。」
犯罪者だろうが関係ない。
俺が助けたいから助ける。
ただそれだけだ。
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