メンヘラ脳筋メイド
「ようやく着いたな。もう冥土は到着してるのか?」
「もうすぐ着くとは10分前に連絡がありましたよ!」
小鳥遊と桐野は平田に指定された空港に到着する。
連絡があってから即座に向かったため、小鳥遊からは疲れが見えた。
「北海道から幹部の方が戻られるのですね。」
桐野の背後には一番が離れまいとついてきていた。
重大な内容の為、一番はアジトに置いていこうと考えたが、桐野が連れていくと引かなかった。
そんな一番は冥土の戻りを今か今かと待ち望んでいるように見えた。
「うん、戻るというか強制送還というか……。」
目を光らせる一番に小鳥遊は何とも言えない表情を浮かべていた。
彼女は平田から冥土は満身創痍の状態と聞いている為、そんな状態の幹部を下の人間に見られるのはどうかと考えていた。
「まぁいいか。桐野のお気に入りだし。」
「何を一人で自己完結しているんですか?」
「なんでもないわ。」
「素っ気ない!?」
少しオーバーリアクションで落ち込む桐野を横目に小鳥遊は空港内に入る。
桐野と一番もパーティの様に後をついていく。
「関係者に確認したわ。もう到着しているらしい。」
「それは何よりです。早く向かいましょう!」
桐野は我先にと到着口へと向かう。。
小鳥遊はそんな彼女に疑問を浮かべる。
「なんかこの状況を楽しんでない?」
「いえ、私はいたって普段通りですけどね。」
「そうか……?まぁ、いつも馬鹿みたいに騒いでいるか……。」
「小鳥遊さんの方がいつもより冷たい気がしますけど。」
「気のせいだろう。」
小鳥遊はふと笑みを浮かべる。
そんな中、彼女は横に並ぶ人物へと話しかけた。
「一番は緊張しているのか?」
「そうですね。お二人の前でも緊張するのに、そこに新たな方がお見えになりますから。私というただの歩兵にとっては偉大なことです。」
「そうか……。」
桐野も子を見る親のような顔で一番を見つめていた。
小鳥遊は冥土の件を言うか悩んだが、思い切って伝えることにした。
「今から現れる幹部は、瀕死の状態だ。」
「瀕死の状態……?偉大なる幹部の方がですか?」
「ああ。任務を行っている最中に色々あったらしく、一向に目覚める様子はないらしい。」
「そうなのですね……。」
一番は神妙な面持ちで到着口を見つめる。
「まぁ、冥土さんもメンヘラ脳筋メイドですし、すぐ蘇るんじゃないんですか?」
「桐野……。」
桐野は小鳥遊の顔が青ざめていることに気づき、フっと小さな笑みを浮かべた。
「そんなに不安がることないですよ!普段から命削ってますしね!」
「いや、そうじゃなくて……。」
小鳥遊が指を指した先。
そこには————————。
「——————誰がメンヘラ脳筋メイドですか。」
「え。」
背後から聞こえてくる声。
身体が硬直して動かない桐野。
「あれ……?背後から聞こえるはずのない声が聞こえてきたのですが……。」
「いつまで目を背けるつもりですか。私は無事に生きていますよ。」
「申し訳ございません!冥土さん!!」
桐野は声の主である有栖に勢いよく土下座をする。
有栖から闇の雰囲気が漂う。
「まったく……あなたはいつもいつも……。もう少し落ち着きを持ってください。」
「……はい。」
「今すぐにでも殺したいところですが、今の私にはそんな力もないです。」
そんな言葉を放つ有栖は黒色のジャージを着て車椅子に座っている。
ジャージの右袖からはなにかが通っている様子はなく、欠損した右腕を主張させる。
今までとは全く違う姿に少し戸惑いながらも、小鳥遊は口を開いた。
「部下からは目覚める様子もないと聞いていたけれど、無事に目覚めたのか。」
「はい、無事に起きました。ご主人様のおかげです。」
「ボスのおかげ?どういうこと?」
小鳥遊の問いに有栖はよくぞ聞いてくれたと、堂々とした様子で話し始める。
「私は夢を見ていました。真っ暗な道をただひたすら歩いていく夢です。」
「冥土さんの冥府ってことですね。」
「殺しますよ?」
反省を全くしていない桐野を睨みつける有栖。
「ひっ……すみません!」
「なんでそんな余計なことを言うの……。」
泣きそうな顔をする桐野を横目に溜息を吐く小鳥遊。
「話を戻しますが、暗い道を進んでいく中でご主人様の声が聞こえたのです。起きてくださいと。」
「声ね……。」
「その声に呼び起こされるかのように目がぱっと覚めました。まるで白雪姫のような経験でした。」
「それはよかった……。」
坂田を神様の様に崇める有栖に若干引きつつも受け応える小鳥遊。
そんな中、有栖の視界に一人の人物が写る。
「ところで、二人の背後にいる人間は誰ですか?飛行機の中にいた駒からは二人が来るとしか聞いていなかったので。」
有栖は一人静かに佇んでいた一番の存在に疑問を浮かべる。
返事次第では手をかけることも躊躇しない雰囲気を醸し出す有栖に一番は冷や汗をかいた。
「そういえば紹介していませんでしたね。私の直属の部下である一番です!」
「一番です。宜しくお願いいたします。」
「桐野さんの直属の部下ですか。ネーミングセンスは置いておいて、随分と好待遇ですね。」
「凄く優秀な部下ですから。自我もあるんですよ。」
自慢の娘を紹介するかの様に有栖に話す桐野。
そんな彼女の言葉に有栖はふと疑問を浮かべる。
「自我を持つ駒は今までに聞いたことが無いのですが、本当に洗脳済みですか?訓練済みのスパイとかではないのですか?」
「———————っ!」
有栖の目つきが鋭いものに変わる。
一番も図星を突かれ、脳内が真っ白になる。
「そ、それは———————。」
「そんなわけないじゃないですか~!洗脳によって初めて何か変化が起きた例だと思いますよ?私も既に大きな信頼を寄せていますし!」
そんなことはあり得ないと、自身に満ちた表情を浮かべる桐野。
彼女に続くように一番も大きく頷く。
「そうですか。桐野さんがそこまで言うのならいいです。何かあれば直ぐに始末すればいいだけですし。」
「何かあったらもちろん私も責任を負います!」
「なんか軽いですね……。」
有栖は桐野の姿に呆れつつも小さな笑みを浮かべて、車椅子に手をかけた。
「私は見たままの通りの状態です。とりあえず休める場所に運んでください。」
「了解。とりあえず冥土さんのアジトでいい?」
「はい。お願いします。」
その言葉と共に一番が有栖が乗る車椅子を押し、駐車場へと向かう。
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「眼帯をしていますが、目は大丈夫なんですか?」
空港内を歩いている途中。
一番は有栖の右眼に眼帯を巻いていることに気づいた。
「別にこれは別に他人に怪我を負わされたわけではないです。」
「え?それはどういう—————」
「一番。それ以上は聞かない方がいいよ。」
「桐野様?」
一番は今まで見たことがない表情を浮かべる桐野に驚く。
そんな彼女の横を歩く小鳥遊も桐野に同意するように頷いた。
「知らない方が幸せなこともあるんだよ。」
「そうですか……。」
不思議な雰囲気に包まれた中、空港の出口を抜ける4人。
外は夕暮れ時に差し掛かるところだった。
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今回もご愛読いただきありがとうございます。
作者のさりりです。
近況ノートにて冥土有栖のイメージ画を投稿させていただきました。
是非ご覧いただければと思います。
これからも本作をよろしくお願いいたします。
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