だってあなたたちはここで死にますから。

平田達を送りひとまずの安全を得た俺は、杉山さんと断罪者の戻りを今か今かと待っていた。

この場所が特定された以上この危険地帯に長居をすれば、いつどこで俺が彼女たちに報復されるか分からない。


「遅いな……。」


平田達と話していた時間も含めるとすでに1時間半が経過していた。

買い物にしては時間がかかっていると感じる。


「早く帰ってきてほしいんだが。」


一人になってからすぐに大きな物音が発生したことが頭の中から離れない。

今までのことを考えると悪い予感がしてたまらなかった。


「気にしすぎか……。」


俺はソファにそのまま寝転ぶ。

一瞬疲れによる眠気が襲い掛かってくるが、首を振って眠気を払いのける。


「寝たら最期かもしれないからな。」


寝ている間に平田達が先に帰ってきてしまったらそのまま殺されてしまうだろう。

この部屋から脱出することも考えたが、鉢合わせのリスクや外にほかの幹部が待機している可能性も考え、俺は動くことができなかった。


そんな時だった。


「———————何が最期ですって?」

「おおっ……聞こえていましたか。」


ようやくお待ちかねの人物である断罪者が帰ってきた。

彼女の手にはいくつか紙袋を抱えられていた。


「変なこと企んでいるんじゃないでしょうね。」

「何も企んではいませんよ。私にはそこまでの力はありません。」

「嘘ね。あんな戦闘メイドを従えておいて何かしらの力が無いわけないじゃない。」


断罪者は俺を怪しむように睨みつけてくる。

たまたま犯罪者たちに気に入られてしまっただけで、俺自身は本当に力なんてないんだけどな……。

これ以上話を続けても変に誤解を生むだけな気がする。


「まぁ、その話は置いておいて、その紙袋には何が入っているのですか?」


俺は話の話題を断罪者が抱えていた紙袋に移す。


「だいぶ無理矢理話を逸らしたわね……。ま、いいけれど。」


断罪者は溜息を吐きながら、紙袋をテーブルの上に置いた。

彼女はそのまま一つ目の紙袋の中身を取り出す。


「それは……。」


紙袋の中から出てきたのは長い小包であった。


「酒よ。」

「酒…ですか……?」


急に酒を取り出され、室内は一瞬の無言に包まれた。


「どうして?」


俺は断罪者が酒を取りだした意図が分からず思わず聞き返した。

すると彼女は少し恥ずかしそうにして言った。


「杉山さんからアンタを祝いたいってことで買ってきたのよ。」

「それは、ありがとうございます。」


祝い酒というものだろうか

何はともあれ、祝われると嬉しいものだ。


「ふん……。杉山さんは歓迎していても、私は歓迎していないから。勘違いしないで。」

「すみません……。」


断罪者は小さな声でぶつぶつと文句を言いながら、紙袋の中身を取り出していく。

ここまで嫌われているとは……。やりづらいな……。


「もう一つこれをアンタに渡せって言われているわ。」


彼女は嫌々といった表情で小さな紙袋を差し出してくる。

俺は素直に受け取ることにした。


「重いですね。中には何が入っているんです?」

「さあね。私は杉山さんに渡せとしか言われていないわ。」

「そうですか……。」


紙袋の中身は金属製のケースだった。

とても軽い。

開けようとして手を近づけると、断罪者の手が俺の手首を掴んだ。

驚いて俺はその手を見る。


「どうしました……?」


まるで何かに怯えているような目をしている。

彼女らしくない反応だ。


「いや……何でもないわ。」


そのまま彼女は手を離した。

どうやら開けてもいいらしい。

その時だった。


「ただいま戻りました。遅くなってごめんなさい。」


気まずい空気の中、杉山さんが沢山の荷物を抱えながら戻ってきた。

俺は何か嫌な予感を感じ、金属製のケースをすぐに紙袋に戻した。


「すごい荷物ですね。」

「えへへ……。張り切って買いすぎちゃいました。」


彼女は微笑みながら荷物を取り出していく。

買ってきたのはオードブルやケーキ、ドリンクなど。

パーティーをするには十分な量だ。

断罪者は相変わらず文句を言いながらも杉山さんと準備をしてくれている。


「今日は歓迎会です!般若が戻り次第始めますよ!」


杉山さんはそう宣言し、テーブルをセッティングしたりとせわしなく動き回る。

そんな中、断罪者がふと疑問を浮かべた。


「そういえば、般若から全く連絡がこないですね。大丈夫でしょうか。」

「確かに、珍しいね。」

「……。」


平田達の件をここは言うべきなのだろうか。

言って変なことになったら面倒くさいよな……。

でも言わないのも嫌な予感がするんだよなぁ。


「……そういえば、この赤い扉から大きな物音が鳴りましたね。」


俺は少し考えた後に、物音が起きた事だけ伝えることにした。

二人は謎を浮かべたように首を傾げる。


「物音ですか?」

「はい。何か大きなものがぶつかったかのような音が一瞬だけ鳴りましたね。」

「なるほど……。少し心配ですね。」


杉山さんは少し考える様子を浮かべた後、口を開いた。


「——————では、私と断罪者で少し様子を見てきます。」

「そうですね。般若の件も少し心配ですし。」


断罪者も賛成といった表情で頷く。

え、そんなあっさり決まることある?


「私はいかなくて大丈夫ですか?」


正直また一人になるのは怖いので、俺は彼女たちについていきたい。


「いえ、大丈夫です。すぐに戻ってきますので。」

「そうですか……。わかりました。」


俺の意見はあっさりと拒否されたのであった。




————————————————————




「では、行ってきます。」

「変なことしていたらただじゃおかないから。」

「そんなことしませんよ。」


そんな言葉と共に彼女たちは赤い扉を開けようとする。

俺は少し不安に思いながらも、彼女たちを見送った。

また一人になるのか。

少し不安だが、すぐ帰ってくるだろう。

その間にさっきのケースの中身を空けてみるか。


そんなことを考えていた瞬間だった。



「—————別にその扉を開ける必要はないよ。」



とある声が部屋中に響き渡る。

嫌というほど聞きなれた声。


「だってあなたたちはここで死にますから。」


悪魔の声。

俺の脳裏にはそれだけが思い浮かぶ。


「言ったじゃないですか。」


悪魔は満面の笑みを

いや、呪いというべきだろうか。

恐ろしくてたまらない。


そんな悪魔と俺は————————。


「”必ず助けに来ます”って」


目が合った。


「——————ひら……。」


その瞬間、地下室は跡形もなく消えた。

壮大な爆発音とともに。



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