日記

見張りを続けている平田と黛。


「一向に出てくる気配がないわね……。」

「そうですね。ボスも大丈夫でしょうか。」


張り込みを始めてから4時間ほど経過した。

外は夕暮れ時に迫ってきていた。


「もうこれ以上見張っていても来る気がしないんだよなぁ……。」

「それか別の可能性があります。」


平田は黛の言葉にふと疑問を浮かべる


「別の可能性?」

「はい。例えばですが……あの映画館内から地下通路が繋がっている可能性もあります。」

「地下通路ねぇ……。——————確かにあり得るわね。」


悩む素振りを浮かべる平田。

永遠に成果が表れない張り込みに、彼女の脳裏に浮かび上がる疑問。

それを払拭させる解決策は一つしかなかった。


「もう我慢できない!突入する!」

「え。」


平田が考えた最終手段。

それは脳筋強行突破だった。


「いやいや……流石に脳筋過ぎませんか?」


黛は平田の考えを問い詰めるように彼女の腕をつかむ。


「私はボス代理ですよ?断る権利はありません。」


そんな言葉と共に黛の静止を振り切った平田。

彼女は映画館一直線に走っていく。




—————————————————




映画館前。


「ここに……ボスがいるのね。」

「平田さん……流石に敵の戦力の不明のまま突っ込むのは危ないですよ。」

「うるさいですね。今現在エンプレスを率いている私に逆らうのですか?」


平田はドアの取手を掴んで引く。


「あれ……。カギがかかってる。」


映画館の入口は施錠されていて開くことができない状態だった。

黛は表に出すことはなかったが、内心安堵の気持ちでいっぱいだった。

これで平田も諦めただろう。

そう思った時だった。


「黛。このドアを破壊しなさい。」

「……はい?」


平田から放たれる衝撃的な命令。

黛は彼女の提案に理解が追い付かない様子だった。

開いた口がふさがらないとはこのことだ。


「いや、さすがにそれは……」

「早くしなさい。」


平田は真剣な表情で黛を見つめる。

まるで、それ以外の選択肢はありえないと言わんばかりの様子だった。


「分かりました……。」


黛はしぶしぶと言った様子でドアに歩み寄り、力いっぱい蹴りつけた。

すると、1発でドアが壊れ、入口が開いた。


(壊せって……。ま、マジか……)


唖然とする黛の前で、平田が映画館の中に入っていく。


「さ、行くわよ。」


当たり前のように言い放つ彼女を見て、黛は底知れない恐怖を覚えていた。

そんな中平田はとある違和感に気づく。


「ん……?」

「どうしました?」


黛は彼女の方に目を向けた。


「変ね。全く人がいる気配がない。」

「確かに、ドアを壊した音はこの中に響いているはずですが……」


寂れた映画館。

フロント内は平田と黛の声が大きく響き渡っていた。

違和感を払拭させるべく、二人は映画館内を探索する。


「随分と古い映画館ね。」


シアター内に入ると、平田が呟く。

客席は百人ほどのキャパシティだろうか。

外観に比べて内部は清掃も行き届いており、しっかりとした設備だ。


「冥土さんが言うには、事務室みたいなところがあるらしいんだけど……。」


シアター内を出て、奥に進んでいく。

二人の前に怪しげなドアが聳え立つ。


「ここが事務室ね。ボスを最後に見かけた部屋らしいけど……。」


ドアノブを回し、ドアを開ける。

事務室内は狭く、段ボールが乱雑に置かれてあった。

そこには木製の事務机が置かれており、その上にはノートパソコンが置かれていた。

他に書類や本などはなく、とても質素な事務室だ。

ノートパソコンの画面にはメモ帳が開かれており、そこには文章が表示されていた。


「やはり、ここに誰かがいたのは事実ね……。なんて書いてあるのかしら……。」


平田はメモ帳をスクロールして読んでいく。

内容は日記のような、報告書のような。


日付と共に、その日起きたこと、達成したことが書かれている。

内容は様々。

くだらないことや、料理のこと。

日常的なものが多かった。


「ん……?」


ふと、平田の目にとある日の文章が目に入る。




—————————————————




1月1日

今日から私たちの革命が始まる。

この腐った世の中を私たち三人で救済していくのだ。


まず手始めに、私たちの今現在の滞在地である○○町の交番を襲う。

奴らは怠惰で臆病な警官を演じ、平和というぬるま湯に浸かっている。

こいつらがいるせいでこの町の犯罪は消えないのだ。

だから私たちが裁きを下すのだ。




—————————————————




「何ですか、この文章……。」

「"革命"ね。警察官を殺そうとでもするのかしら。」


文章を読んでいくにつれ、疑問が浮かび上がっていく二人。

文章はずっと続いていく。




—————————————————




1月2日

すでに警官たちは私たちが与えた痛みで気を失っている。

後は武器を奪って殺すだけだ。

この程度、造作もないことだ。

そう思っていたら、"断罪者"が一瞬のうちに全員殺してしまった。

素晴らしい。やはり彼女には天性の才能がある。

すべては順調だ。

私たちの革命がどんどん成功していくのがわかる。

今回の襲撃によって町で起きたことはニュースになるだろう。


ついに私たちの存在を証明することができる。

革命万歳。




—————————————————




「断罪者……。」

「この文章は今回の相手と思って間違いなさそうですね。」

「そうね。もっと読んでおきたいところだけど……時間があまりなさそうだわ。この先はあとで確認しましょう。」


平田はノートパソコンを閉じて手に持ち運ぶ。

時刻は17時30分。

まだ彼女の一番の目的がいまだ果たされていなかった。


「どこにいるのですか、ボス……。」


彼女の呟きが事務所内に響き渡った。

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