地下室のシャワー

「結局どこにも人はいませんね……。」


映画館を捜索した平田と黛は、結局人を見つけることはできずにいた。


「紗月さんが目を離した瞬間に移動でもしたんですかね。」

「それは無いと思うよ。なんだかんだあの人はストイックに任務を遂行する人だし。」


あの紗月の顔色は、ずっと不眠不休で張り込みをしていたという証明だと平田は感じていた。

平田は少し考える素振りを見せ、一つの結論にたどり着く。


「やはりどこかに抜け道があるとしか思えない。」

「抜け道ですか……。」


ボスや敵対組織の人間が一度も姿を現していないことから、彼女の考えの通りである可能性は高い。

しかし、今のところ映画館内に怪しげな場所はなかった。


「どこにも怪しい場所は見つからなかったですね。」

「なら、ボスたちはどうやって移動したの……。」


二人は途方に暮れる思いを浮かべていた。




—————————————————




2度目のシアター内の捜索。

ふと、平田の目に一つのロッカーが目に映る。


「清掃用具ロッカー……。」


何の変哲もない一つの清掃用具入れ

人が2人分ほど入る大きさで、なんとなく扉の取っ手に手をかける。

彼女はロッカーの扉を開け——————。


「開かない?」


何度取っ手を掴んで引いたり押したりしても、鍵が施錠されているのか、ロッカーが開く様子はない。

しかしロッカーには鍵穴のようなものは見つからなかった。

ロッカーを調べてみると、上の方に小さな空気穴が開いているのが見える。

鍵がない以上、この扉を開ける方法はたった一つ。


「どうかしましたか。」


平田の様子を見て、黛が彼女に話しかける。


「このロッカーが開かないのだけど、無理矢理開けることはできる?」

「……?まぁ、それくらいなら。」


彼女に指示に従い、ロッカーの扉に手をかける。

そして引き抜くようにドアを力強く引っ張る。


“バキッ”っと何かが折れた音と同時に、ロッカーが開かれる。


「—————————ようやく見つけた。」


開かれたロッカーの中には、清掃用具は一切入っていなかった。

その代わりに底が開いており、梯子かかけられていた。

それだけでなく、 上には懐中電灯が備え付けられており、スイッチを押すことで壁の内部を照らしていた。


「この先がどこかに繋がっているのは確かですね。」

「そうね。っと。」

「平田さん!?」


先を進もうか考えていた黛に対して、何の躊躇もなく平田は梯子を利用して降っていく。


「罠があったらどうするんですか!」

「その時はその時。今はボスを見つけるのが最重要よ。」

「……仕方ないですね。」


そう言って続くように梯子に足をかける黛。


「別に無理しなくても大丈夫なのに。」

「私一人で何しろって言うんですか……。」


彼はその場で小さな溜息を吐いた。

平田はそんな彼を鼻で笑う。




—————————————————




「ここが本命場所っぽいね。」

「人が住んでいた雰囲気がありますね……。」


梯子で降りた先には12畳ほどの部屋が広がっていた。

ベッドやテーブル。

それ以外にも冷蔵庫や電子レンジなどの家電製品が散乱している。

今にでも生活が再開できるというレベルだ。


「ん……?」

「何かしら、この音。」


部屋に侵入してから5分ほど経過しただろうか

耳を澄ませると、とある音が部屋に響いていた。

“ザーザー”と。雨が降っているような。そんな音。


「雨?いや、ここは地下のはず……ってことは。」

「”シャワー”の音ですか?」

「———————それだ。」


部屋には3つのドアがある。

生活感があるこの部屋なら、風呂場があってもおかしくはなかった。




—————————————————




「この扉の先に、誰かがいるってことか。」


耳を近づけてシャワーの音が鳴り響くドアの前に立つ二人。

平田はドアノブに手をかけた。

相手が入浴中なら無防備に違いない。

彼女は静かにドアを開ける。


「やっぱり……。」


ドアを開けた先では、洗面所と風呂場が目の前に移る。

二人は目を合わせ、小さく頷く。

二人が考えていたことは同じだった。

平田は右手にカランビットナイフを構える。

黛は拳を合わせて準備満タンといった表情を浮かべる。


「いくよ。」


平田がゆっくりと手を伸ばし、指で合図する。

3……。

2……。


カウントダウンが終焉を迎える。


——————————————1。


平田のカウントダウンが終わると同時に、二人は勢いよく風呂場のドアを蹴り飛ばす勢いで開ける。

風呂場には絶賛シャワーを浴びている最中の人影があった。


「おとなしくしなさい。抵抗したら殺します。」


平田は自身が握るカランビットナイフを首の動脈付近に当てる。

黛も相手が動けぬよう。下半身全体を抑える。


「……?」


平田と黛は疑問を浮かべる。

全くと言っていいほど抵抗される様子がない。

むしろ死を悟ったかの様におとなしい。


「随分とおとなしいですね。諦めましたか?」


体格からして男性だろうか。

相手の顔を見るべく、平田は相手の正面に回り込む。


「えっ————————。」


平田にとってそれは、信じられない者だった。

たった数日。

だが彼女にとっては永遠の時間。

親愛なる存在。

シャワーを浴びていた者は、口を開く。



「平田に……黛ですか?これは一体なんの冗談です……?」



平田は一瞬にして気絶し、倒れ込む。

彼女の鼻からは赤い液体が流れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る