笑い声
空飛ぶ旅客機内。
「ふふっ……うふふ…。」
ファーストクラスの個室で独りでに響く女性の笑い声。
それはあまりにも不気味で、底知れぬ気持ち悪さを感じさせるものだった。
「平田さん……。」
その笑い声を聞いて苦笑いを浮かべる黛。
「ボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会えるボスに会える」
悪魔に憑かれたように永遠に呟く平田。
専属スチュワーデスも引いているのが伺える。
「他人の振りしておこう……。」
黛は他人に徹する様に、一人眠りについた。
—————————————————
「痛いですね……。こちらは病み上がりの身体だというのに。」
そう呟く有栖は自身の服に着いた埃を払う。
彼女は目の前に立ち尽くす女性、黒子を睨みつけた。
「冥土、大丈夫か。」
「はい。少し体を痛めた程度です。」
九頭竜の心配を含めた言葉に有栖は普段と変わらぬ様子で受け応える。
「しかし不思議ですね。早朝に相手をした時よりも明らかに身体能力が大きく向上しています。」
「原因はいま黒子が飲んだ白い薬だな。一種のドーピング剤か。ドーピングにしては身体能力が向上しすぎだが……。まぁ、新薬の麻薬だろう。」
「我々が把握をしていない薬ですか。少々厄介ですね。」
黒子が寸前に飲んだ白い粉。
エンプレスでも様々な薬を取り扱っているが、急激に身体能力を向上させる薬は特に把握をしていなかった。
それ故に、薬の正確な効果が分からない二人。
「キャハハハハハハハハ!」
大声をあげて笑い出す黒子。
二人はそんな黒子を警戒しながら見つめ、彼女の次の言葉を待った。
しかし、一向に彼女がしゃべる気配はない。
「薬の副作用か不明だが……狂ったのか?」
「嫌な予感がしますね。」
「ああ。そうだな。」
黒子から放たれる異様な雰囲気。
それを二人は感じ取っていた。
「予感が的中する前に始末するか。」
九頭竜はそういうと手にしていた拳銃の引き金を二度引く。
放たれた2発の弾丸が、一直線に黒子へと向かう。
その瞬間。
「———ああっ!!!」
黒子の大声と共に、弾丸は振り掃われた。
「……は?」
あまりの光景に九頭竜はあっけない声を出す。
その様子を見ていた有栖も目を大きく見開いた。
「ははっ……はは。」
黒子は薄い笑い声を発しているだけだった。
そんな彼女が手に持つのは扇子。
九頭竜は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。
「例のやつを呼ぶ。近距離戦で時間稼ぎを頼めるか?」
「任せてください。なんなら私で始末します。」
彼の言葉に頷く有栖。
それと同時に彼女は腰に携えたダガーを引き抜き、黒子に向かって走り出す。
有栖の殺気を感じ取ったのか、黒子は向かってくる彼女に顔を向ける。
「———死んでください。」
「ははっ……ははは!」
有栖の手から振るわれる剣劇。
それを黒子は手荷物扇子で受け流す。
「ははは!!」
「……っ!?」
彼女の剣撃は受け流され、反撃として放たれる黒子の手。
その一撃を有栖は腕でガードし、大きく後ろへと下がる。
「銃弾を弾き返した時点で気付きましたが……”それ”、ただの扇子じゃありませんね。」
黒子が手に持つ扇子は、鉄のような材質で作られたことを感じさせる。
「そんな重たい扇子なんて手放してくださいよ。」
有栖の言葉を合図に、二度目の競り合いが行われる。
九頭竜はそんな二人の争いを眺めながら携帯電話を片手に通話を始める。
「———俺だ。早急にこちらに来てほしい。」
しかし、彼の携帯電話から想定外の声が聞こえてくる。
「なんでお前が……。」
九頭竜は電話越しの人物と少し会話を続ける。
「用済みだ。もういい。」
電話の向こう側から若い男の声が聞こえるが、九頭竜はそれを無視して通話を切り、溜息を吐いてから言葉を口にする。
「あの馬鹿補佐が。」
そして、舌打ちをして再びポケットに携帯電話を仕舞い込み未だ黒子に剣を振るう有栖に声をかける。
「冥土、予定変更だ。一度退散するぞ。」
「そう簡単に退散できるとは思いませんが。」
黒子と競り合う有栖は精一杯といった様子だった。
彼女の呼吸は荒くなりつつある。
対する黒子は未だに笑い声をあげながら、有栖の攻撃を受け流している。
「そうか。ならせめて弾丸を避けるぐらいはしてくれよ……!」
「了解しました。」
九頭竜は再度自身が持つ拳銃の引き金を引く。
瞬間の出来事だが、有栖は弾丸を避ける。
黒子の前に突如現れる弾丸。
弾丸は彼女の右脇腹に直撃する。
「ぐっ……!」
急激な痛みによって右脇腹を抑える。
有栖はその瞬間を見逃さなかった。
「少し眠っていなさい……!」
有栖は全神経を使って黒子の腹部に猛烈な蹴りを浴びせる。
大きな音と共に黒子の横隔膜が収縮される。
そして、強制的に呼吸が停止する。
「あっ…が……がが……。」
あまりの苦しさに黒子は地面に蹲る。
有栖は見下すように黒子に近づく。
「……所詮、ただのドーピング剤でしたか。」
彼女はそんな言葉と共にダガーの刃を黒子の首にめがけて振るう。
そして
「…………え?」
有栖の右腕が吹き飛ばされた。
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