オーバードーズ
海辺の洞窟内を探索している九頭竜と有栖の二人。
彼らの足取りは重いものとなっていた。
「腐敗臭なんて慣れた物だと思っていたが、この空気を吸うと全く慣れていないと自覚させられるな。」
「そうですね。嫌でも吐きそうになります。」
洞窟内に漂う腐敗臭を少しでも軽減する為、マスクをして歩く二人。
だが、マスクをしたところで悪臭は軽減などされない。
その為、彼らの歩くペースはかなり遅かった。
そんな二人の前に目的のものが見え始めた。
「お、ようやく到着したか。」
「これが例の井戸ですか……。」
二人の瞳に写る一つの井戸。
それは最初から見てわかるように、大量の死体が敷き詰められていた。
「ほとんどが腐敗しきった死体ですね……。気持ち悪い。犯人の考えが分かりません。」
「それは俺にもさっぱりだ。まぁ、死体を集めていることには何らかの理由があると思うがな……。」
九頭竜は井戸から溢れ出ていた死体に触れる。
「よく触れられますね。私にはできません。」
「俺も触りたくて触っているわけじゃない。」
死体を隅々まで調べる。
井戸から溢れている死体は腐敗が完全に侵食しているわけではなく、まだ人間としての形状を保っていた。
そして、4つ目の死体を持ち上げた時だった。
「ん?何かあるぞ……。」
死体が着ていたシャツの胸ポケットから一枚の小さな紙を見つける。
「なんですか?それは。」
有栖が不思議そうな顔で紙を見つめる。
「名刺だな……。多分この死体の物だろう。持ち帰って身元を調べてみるか。」
「名刺ですか。しかし、今考えてみるとこの死体達、身元を確認する物が全く確認できませんね。」
「まぁ、奴等が意図的に回収しているんだろう。そうすると、この名刺は回収し忘れたものか?まあ、何にせよこれで進展するかもな。」
九頭竜は手にした名刺を小さな保存袋に入れ、立ち上がる。
「これ以上手掛かりになりそうなものはない。準備を始めるぞ。」
「そういえば言っていましたね。断罪者達を迎え打つ準備のためにここに来たと。」
有栖が思い出したかのように尋ねる。
「ああ。まぁ、迎え打つ準備って言ってもただの挑発行為みたいなものだがな。」
「挑発行為?」
九頭竜の言葉に余計訳がわからないと首を傾げる有栖。
「この井戸に詰められた死体全てを棄てるんだよ。」
「……はい?」
「奴らが何かの目的で大切にしている物をこちらが奪ってしまえば、確実に怒るだろ?そこで奴等をわざと釣り、戦力を集めた俺たちで迎え入れる。」
九頭竜は得意気に今回の作戦を語る。
「そんなにあの三人は馬鹿ではないと思うのですが……。」
「大丈夫だ。それにあちらにはボスもいる。」
「それに井戸の深さだってある程度ありますが、2人で運ぶということですか?私はこんな汚物触れたくないです。」
有栖は井戸から溢れ出た死体を蔑んだ目で見つめる。
「安心しろ。冥土がそういう性格なのは知っている。だからあらかじめ人手を用意しておいた。」
「そうですか。なら安心しました。……で、その人手とやらはいつ来るのですか?」
「そうだな……もうそろそろ来てもおかしくはないのだが…。」
腕時計を確認する九頭竜。
その時だった。
「人手を待つ心配はしなくて大丈夫ですよ。」
洞窟奥の暗闇から聞こえてくる声。
それと同時に溢れんばかりの殺気が2人を襲う。
「誰……?いや、聞いたことがある声。」
有栖の記憶に残っている声。
思い出すのは簡単だった。
「まさか……。」
目の前に現れたのはカフェの店主の黒子だった。
「何か怪しいと思い、冥土さんが私たちから解放されてからずっと後をつけていました。」
「立派なストーカーじゃない。」
「そう言われても仕方ありません。ですが、後をつけて正解でした。」
有栖は小さな溜息を吐く。
「冥土。これが例の組織の奴か?」
「そう。顔もずっと隠して何を考えているかわからない奴。」
「凄い言われようですね……。まぁいいですが。」
九頭竜と有栖の会話に苦笑いを浮かべる黒子。
そんな彼女の表情は2人には見ることはできない。
「黒子さん。あなたは一度私との戦闘で押されていたと思うのですが、大丈夫です?」
「大丈夫、とは?」
「簡単な話です。あなた1人じゃ私達には勝てませんよ。」
有栖は得意気な顔で断言する。
「そうですか。余計な心配ありがとうございます。」
有栖の言葉を聞いた黒子は深々と礼をする。
2人の会話を横で聞いている九頭竜も、正直負ける気はしていない。
そんな中、黒子は自身が持ち運んでいる小さなポーチから袋を取り出す。
「それは……。」
袋の中には白い粉末状の物が入っていた。
何か、嫌な予感がする。
九頭竜と有栖は戦闘体制に入り、黒子に襲いかかる。
「残念。間に合いました。」
黒子の言葉と共に2人の攻撃は防がれる。
彼女からすぐに離れる2人。
「まずいですね……。長々と話す前に仕留めればよかった。」
「黒子と言ったな。先ほどの粉末はなんだ?」
九頭竜の問いに黒子は下を俯いたまま答えない。
まるで、人形のようだった。
「おい、聞いて———————」
その瞬間
「——————っ!」
九頭竜の隣に立っていた有栖が吹き飛んだ。
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