第2話 記者会見
「どうでした?」
「社としての対応で新しく決まったことはまだないよ。これから始まる向こうとの打ち合せの中で、指示や要望の中身が分かればそれに基づいて対応を決めるってさ」
そう言いながらソリッド・メディアを取り出してスコットに渡す。
「新しいワーク・アドレスだとさ。置換して、関係している各部署とこれまでの取引相手に変更通知を送ってくれるか?それと、このアドレスもアドレス・ボックスに入れて置いてくれ」
そう言って貰ったメディア・カードも全部スコットに渡した。
「分かりました。パスワードは?」
「決めてくれ。後で携帯に送ってな?」
「了解です。携帯端末のアドレスは?」
「このワーク・アドレスとはリンクさせてないが」
「社内や取引先で、先輩の携帯アドレスを知っている人は?」
「お前も含めて何人かいるけどね」
「なら携帯のアドレスも換えた方が良いですよ。同じものにしますか?」
「いや、新しいアドレスの最初と最後の二文字だけを換えて、リンクさせておいてくれ」
そう言うと携帯端末も取り出して手渡す。
「パスワードは同じで良いよ。この携帯のSWカテゴリーに、この携帯のアドレスを知っている人が入っているから、同じ文面でアドレス変更通知を送信してくれるか?」
「了解です」
「どのくらいでできる?」
「20分ですね」
「解った。頼む」
「仕事はどうなってる?」
・今日やるべきような事は、もうないですね。それよりもうニュース・メディア12社からこのデスクに通話がありましたよ」
「どうした?」
「取り敢えず全部広報に廻しましたけど」
「そうか、ありがとう。すまんな…それじゃこのデスクとの通話サブルーチンに、ニュース・メディアを名乗る通話は自動で広報につながるようなプロトコルを加えてくれるか?それとレコード・メッセージにもそう言う一文を頼むよ」
「お安い御用ですよ。それで今日はどうします?」
「そうだな、今日と明日いっぱいはここでやらなきゃならないことはないな」
「帰っても良いんじゃないんですか?休暇を取って」
3Dモニターから眼を離さず、パネルの上で指を走らせながら話している。私はその後ろでソファに腰を降ろす。
「昼飯を食うまでにチーフに連絡するよ。終わったら自分のデスクに戻ってくれ。ありがとう…昼まではここにいるから」
「分かりました。もう少しで終わりますから」
私は座ったまま伸びをしてさり気なく周りを見回した。こちらを気にしているような同僚はいないようだ…気を遣ってくれているな。
不意に私の携帯にコールが入る。
「どうぞ。まだ手を付けていませんから」
と、言って手渡してくれる。
「悪いな」
と、受け取って繋ぐ。
相手は先程のエリック・カンデルだった。
「突然すまない。今はどこにいる?」
「オフィスにいますよ」
「仕事中か?」
「いえ、スコットが手伝ってくれていたので、私のやる事は暫らくはありません」
「そうか、実はまた事態が急転してな。またもう少し付き合って欲しいんだが」
「良いですよ。どうしたんですか?」
「いきなりですまんが記者会見を開くから、出てくれ」
「はい!?」
これにはかなり驚かされた。
「メディアの取材攻勢がすごくてな…受け流し切れなくなって来た。社長も含めて取締役員のほぼ全員の耳に入っているし、大口投資家やウチのメインバンクからも問合せが入ってな。形だけでも公式発表をやって切り上げるよ」
「分かりました。いつですか?」
「午後イチでやろうと言ったんだが、昼飯前で押し切られてな。11時から始める。10時から何か軽くつまみながら打ち合わせしよう。さっき話した応接ラウンジで良いか?」
「良いですよ。分かりました」
「じゃ、その時にな」
「はい」
通話を終えて、また携帯をスコットに手渡す。
「どうしました?」
「会見を開くとさ」
「ええ!?」
「型通りの公式発表だって言ってたけど、荒れるかもな」
「いつです?」
「昼飯前だと」
「そりゃキツイすね」
「1人で?」
「まさか。最低でもチーフと、もう1人は付くだろ」
「それじゃ、その会見が終わったら直帰ですね?」
そう言って携帯を手渡す。
「そうするよ。終わったのか?」
「終わりました。パスワードは、僕からのメッセンジャーに入ってます」
「ありがとう、助かったよ。もう戻ってくれ…私も、あと少ししたらまた5階に上がるから」
「分かりました。ファイルは、見れば判るようになってますから」
「本当にありがとう。これからも宜しく頼むよ」
「こんなのお安い御用ですよ。またいつでも声を掛けて下さい」
いつもの笑顔を見せてスコットは立ち上がった。
「ああ、今度奢るよ」
私の最後の言葉に直接には応えず、左手でのサムズアップを笑顔でキメて自分のデスクに戻る。
私はデスクの傍には立ったが席には着かずにファイルやら資料やらをザッと見渡して確認した。相変わらずスコットはきれいに、判りやすく機能的にまとめてくれる。
デスクのライトを消してバッグを取ると、スコットには上に行くからと右手で合図してオフィスを出る。
リフトに乗って5階で降りる。応接ラウンジでは三つほどボックスシートが使われていたが、先刻エリック・カンデル等と話したシートは使われていなかったので、同じボックスの先刻と同じシートに座った。
バッグを開けてリストを出す。530人の女優やら様々な分野・方面での女性タレントやモデル、ヴォーカリストが載っている。
そうは言っても画像と名前と年齢の他には、データコードがプリントされているだけだ。
どうやら彼女達の詳細な個人データは、このデータコードでサイバースペースからダウンロードできるらしい。
プリント・リストの最後の行に、URLアドレス・コードがあったので、私は携帯端末を取り出してそのコードを打込んでブラウズさせ、彼女達全員の詳細な個人データをダウンロードした。ダウンロードには2分ほど掛かった。
2人、3人と読み進めていったが、ふと思い付いて私は、芸能的な学歴・経歴・経験・業績・スキルとは直接的に関係の無い個人データを分離するようセットアップして実行させた。
データの分離が終わるまでに1分ほど掛かった。改めて読み直そうとしたが、何人かの話声と靴音が聴こえて来たのでファイルを保存して閉じ、携帯端末をポケットに仕舞う。
ほぼ同時にエリック・カンデルが4人の男を連れて入ってくる。私は立ち上がって迎えた。
その中の1人を見た時、自分が緊張するのを感じた。
4人の中の2人とは、さっき会った。宣伝部のアグシン・メーディエフと広報部のマスード・カーンだ。
「おっ、度々すまないな」
「いえ、大丈夫です」
「ちょっと待ってくれ」
そう言ってエリック・カンデルは、アグシン・メーディエフとマスード・カーンを伴ってディスペンサーコーナーに入る。
残りの2人は、真っ直ぐこちらのボックスに入ってきた。
ハーマン・パーカー常務。42才。常務の中では最も若い。現在の営業本部長でもある。
私と握手を交わした時に、人懐こそうな笑顔を見せた。
「まずは、おめでとうと言わせて下さい。頑張って下さいね。初顔合わせなので、紹介しましょう。営業本部次長でファースト・ディレクターでもある、ミスター・ジェア・インザー」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
握手を交わして席に着く。
「もう挨拶は終わったようだな」
エリック・カンデルがあとの2人と共につまみを持って入ってくる。
つまみは中皿2枚に8種類のオードブル盛り合わせ・・メーディエフはコーヒーポッドと紙コップを・・・カーンはオレンジジュースとジンジャーエールのピッチャーを持っていた。
「まあ、慌ただしくて申し訳ないんだが、昼飯前には終わるからな」と、カンデル。
そう言いながら中皿をテーブルに置くと、メーディエフから紙コップを貰って配る。
少し疲れた様子で座るとオードブルを一つまみ口に放り込んだ。
「常務は知っているな?お前と役員会を直接につなぐパイプ役として、さっきの緊急役員会で選任された。ミスター・インザーは、その補佐を務められる」
「改めてよろしく頼む」
そう言いながらインザー氏も一緒にメディアカードをくれる。
「会見は11時から10階のホールで始めるが、長くても30分で必ず終える。出るのはお前と常務と私の3人だ。司会は私が務める。こちらから伝えるのは、事実と基本的な方針・姿勢だけで、お前の心情や考えている事などについては、質疑応答の時に簡潔に答えれば良い。大丈夫だとは思うが、あまりベラベラ喋るなよ。お前の中で、もう決めていることがあっても、答えたくなければ答えなくて良いからな」
そう言いながらニヤリと笑うと、またオードブルを一つまみ口に放り込んでコーヒーを飲み干す。
「気楽に構えていれば良いからな」
「分かりました」
続いて常務が口を開く。
「実際に大会が始まるまでには、色々な打ち合わせやら話し合いやら催しもあるでしょうが、誰からどのような話があったかについては、面倒だとは思いますが、フロア・ファーストチーフにも私にも、同じレポートを上げて下さい」
「了解しました」
「ところでアドルさん。どのタイプの艦を選びますか?」
と、常務が訊く。
「そうですね。軽巡宙艦を選ぼうと思っています」
「ほう、重巡宙艦と比べると火力がかなり劣りますが、差し支えなければ、理由を教えてもらえますか?」
「確かにそうですが、私は火力よりも機動力と操艦技術で戦いたいと思っていますので」
「戦場となる空間は、デプリが多いと聞いていますので、ゲリラ戦を展開するつもりですか?」
「結果的にはそうなると思います。重巡ではダッシュも小回りも利きませんからね」
「なるほど、分かりました。軽巡ならクルーは50人ちょっとですね。人選はあなたが?」
「はい、530 人ほどからなるクルー候補者リストを貰っていますので、その中から」
「そうですか、分かりました」
「さっきの話の中でも言ったが、社として行うお前に対してのケア・マネジメントの方針に変わりはないからな。会見で訊かれれば答えるが、こちらからベラベラ喋るつもりはない」
エリック・カンデルがまたつまみを口に入れてオレンジジュースを飲んでから、確認するように言う。
「分かりました」
少し改まった調子で常務が後を引き取って言う。
「会見では、先ず私から概要を説明します。その後捕捉があればファーストチーフからお願いします。その後質疑応答に入って、終了と言う流れですね」
「分かりました」
「それじゃあ、会見前の打ち合わせとしてはこれで良いですかね?」
と、エリック。
「そうですね。では10時50分にホール脇の控室で」と、ハーマン・パーカー。
彼が立ち上がったので、1秒遅れて全員が立ち上がる。
応接ラウンジからの出掛けにエリックから呼び止められた。
「会見までどうするんだ?ああ、オードブルか?ウチのチームの昼飯になるから心配ないよ」
「控室で一服していますよ。そんなに時間も無いですし」
「すぐに終るから気楽にしてろ」
「ありがとうございます」
「終わったらすぐに帰れ。明日は休んで良いから」
「分かりました」
「気楽にな」
左肩を軽く叩いて、左に行った。腕のクロノ・メーターを見ると、もう10:35 だ。何をする時間もない。10階に上がることにした。通常のリフトはマスコミの関係者なんかで一杯だろうから、役員専用のリフトに乗る。10階で降りると直ぐに控室に入る。ドリンクディスペンサーにコーヒーを出させると、奥の席に座る。灰皿を用意して最初の一本に火を点ける。コーヒーを飲みながら携帯端末を取り出し、先刻の話し合いの前に、クルー候補者たちの芸能的な学歴・経歴・経験・業績スキルとは直接的に関係の無い個人データを分離して保存したファイルを呼び出して開き、読み始めるがなかなかに興味深い経歴やスキルの持ち主がいるものだ。
煙草を揉み消し8人目の個人ファイルを読み始めて3分程したぐらいで、控室のドアがノックされた。
ファイルを閉じてクロノ・メーターを見ると、10:48 だ。
「どうぞ」と、応えて立ち上がる。
ドアを開いたのは30代後半のように見える男で、続いて20代前半のように見える女性も入って来た。
「アドル・エルクさんですか?」
「そうですが」
「初めまして。私はホール・ディレクターのアラミス・イェルチェン。こちらは、フロア・マネージャーのサリー・ランドです。今日は宜しくお願い致します。それでは10:55になりましたら、舞台上に用意しました席に着席してください。それと、今回はおめでとうございます。頑張って下さい。応援していますので」
「ありがとうございます」
「初めまして、サリー・ランドです。私も応援しています。頑張って下さい。後で、サインをお願いできますか?」
「ありがとうございます。良いですよ」
「!ありがとうございます!」
嬉しそうな表情を見せて、出て行った。
ほぼ入れ替わりでエリック・カンデルがドアを開ける。
「おう、いたか。準備は出来た。行くぞ」
「分かりました」
そう応えて、一緒に控室から出る。
廊下を少し歩いて、舞台の外(そで)に入る。舞台の後方左側には、会議室にあるようなテーブルにパイプ椅子が三つ用意されている。舞台の中央前面には、小振りな演台が据えられていた『発表会かよ』私は心中で独り言ちて、パイプ椅子に座る。
ホールの中は見えないが、大分騒めいているのは判る。
席に着いて2分ほどしてハーマン・パーカー常務が舞台外(そで)に入って来た。
私とエリック・カンデルは立ち上がったが、常務は座るように合図する。笑顔を見せて頷いたので、私も会釈して座り直す。
「宜しくお願いします。私は演台の方で」
エリック・カンデルはそう告げて一礼すると、舞台に出て演台の前に立った。数秒して、カーテンが左右に開き始める。
凄まじいストロボの閃光が連続して浴びせられ、エリック・カンデルは思わず藪睨みになったが、何とかにこやかな笑顔を作る。凄い。カメラの砲列が幾つあるのか分からない。60、いや80はある。ライヴカメラの数も凄い。40はある。
「こんにちは。本日はお忙しい中、弊社にようこそおいで頂きました。私は今回の会見で、司会を務めさせて頂きます、エリック・カンデルと申します。宜しくお願い致します。それでは、弊社常務取締役のハーマン・パーカー営業本部長より、概略を説明致します」
そう言ってエリック・カンデルは舞台の外に退がり、入れ替わりにハーマン・パーカー常務が演台の前に立つ。
「皆さん、こんにちは。ようこそおいで頂きました。ハーマン・パーカーです。今回は、弊社の営業社員がリアリティ・ライブショウ・『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』の出場者募集に応募し、当選致しました事を受けての、会見であります。それでは、本人を紹介する前に、私から概略を申し上げます。弊社営業第二課のルテナント・オフィサーであります、アドル・エルク氏が当選致しました。彼は現在38才で、弊社勤続17年になります、非常に有能・有力な戦力であります。それでは、ここでご紹介しましょう。アドル・エルク氏です」
そう言って彼は私を見、左手を上げて舞台に出るよう私を招いた。
私は立ち上がり、居住まいを正して舞台に出た。
先程よりも遙かに激しい閃光の奔流が湧き起こった。とても客席の方を見られない。何とか演台に辿り着くと、パーカー常務の左隣に立つ。常務も前方を見られないようだった。左手で眼を庇うようにして待っていると、30秒ほどで落ち着いてきたので腕を降ろして真っ直ぐ前を見た。
スチール・カメラマンとライヴ・カメラマンと記者の数が凄い。数えられない。エリック・カンデルが舞台の右端でハンド・マイクを持って立った。
「それでは、ここからは質疑応答の時間とさせて頂きます。質問のある方は、挙手をお願い致します。A7の方」
「セントラル・ニュース・ネットワークのルディ・ヴィーナーです。先ず、当選した事が判った時のお気持ちを教えて下さい」
「それはもう、驚きました。まさか、当選するとは思っていませんでしたから」
「どうして、この『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に、応募しようと思ったのですか?」
「私は、このようなバーチャル体感システムでのゲーム大会が好きでして、この3年間に開催された、主だった大会には応募していたんですね。勿論全部外れましたけど。その流れで、この大会にも注目していたのですが、ご存知のようにこの大会は参加費用がものすごく高額なものでしたから、諦めていました。ですがこのリアリティ・ライブショウの番組が、艦長としての出演者を20人限定で募集していると知りましたので、ダメ元で応募した次第でした」
「それは、当選すれば参加費用が免除されるから、と言う事ですよね?」
「まあ、そうです」
「はい! 次の方、どうぞ! B 12の方」
「グローバル・ニュース・ネットワークのスキート・オーティスです。選ばれる艦種は、何にするのですか?」
「軽巡宙艦にしようと考えています」
「その理由は?」
「ヒット・アンド・アウェイで戦っていこうと考えているからです。ゲーム・フィールドが、デブリや岩塊や障害物の多い空間として設定されているのも、理由の一つです。ヒット・アンド・アウェイで、ゲリラ戦を展開する事にもなるだろうかと思います」
「はい! 次の方、どうぞ! C 27の方」
「ホット・ニュース・ステーションのモリー・ヴァッシーです。応募されたことを、奥様には伝えていましたか?」
「いや、この3年間は色々な大会に応募していまして…2年目ぐらいの頃までは伝えた事もありましたが、今回の大会については伝えていませんでした」
「当選された事を奥様に伝えられた時、奥様は何と仰られましたか?」
「先ず、応募した事を伝えていませんでしたので、その事については言われましたね。あとは、身体には気を付けて無理にならない範囲でやって欲しい。と言うような感じでしたね」
「はい! 次の方、どうぞ! D 11の方」
「ハイパー・ニュース・サービスのニコール・ユンジンです。搭乗される艦のクルーとなるメンバーの選抜は、終わりましたか?」
「まだ、始めてもいません」
「運営サイドから、クルー候補者のリストは、送られましたか?」
「はい、それは届けられました」
「何人のリストでしたか?」
「530 人ほどのリストでした」
「はい! 次の方、どうぞ! E 23の方」
「データ・ストリーム・ネットのマイロ・オーサーです。パーカー常務にお訊きしますが今回、御社はアドル・エルク氏に対して、どのようにサポートされるのでしょうか?」
「はい…現状で取敢えずと言う事にはなりますが、番組の収録が祝・休日に行われる場合は時間外勤務手当と出張手当と日当が付与されます。平日に行われる場合にも出張手当と日当が付与されます。就業時間終了後にも収録が続くようであれば、時間外勤務手当が付与されます。無論交通費に於きましても、事後にはなりますが弊社が負担します」
「御社の商品をアドル・エルク氏が番組の中でPRする、と言うような事も考えておられるのでしょうか?」
「誓って申し上げますが、そのような下品な事は考えておりませんし、今後も考えるような事は無いでしょう」
「はい! 次の方、どうぞ! F 31の方」
「ニュース・データ・ストリームのトレイシー・エイムスです。クルー候補者となる女性芸能人リストが送られる前に、運営サイドに対して何か条件は出されましたか?」
「はい、二つだけ伝えました。35才以上の人はリストに含めないで欲しいと言う事と、クルーの人事と艦内配置については艦長と艦内司令部の専任事項として欲しいと伝えました」
「どうして、35才にラインを引かれたのですか?」
「私は同年代から年上の人に対して、命令じみた物言いをするのが苦手なので」
「女性は年下がお好み、と言う事ですか?」
「それは、ご想像にお任せします」
「はい! 次の方、どうぞ! G 43の方」
「ワールド・データ・ニュースのマシュー・キリアンです。現状で決まっている日程について、教えて頂けますでしょうか?」
「今月の30日に、土曜日ですが、私が運営本部に出向きまして、番組のプロデューサーやディレクターの方々との顔合わせと、最初の基本的な打ち合わせを行います。その後に撮影セットについてのレクチャーを受けて、セットの見学をさせて貰える事になっています」
「それまでに、クルーの選抜は終わらせるのでしょうか?」
「まあ、そう出来れば良いかなとは思っています」
「はい! 次の方、どうぞ! H 57の方」
「セントラル・ネット・ストリームのカミール・キートンです。参加されるに当たっての意気込みをお願いします」
「まあ初めて参加する大会ですので、思い切り楽しみたいと思っています」
「勝算については、どのように考えていますか?」
「そうですね。無理はしないで、熱くならないで、その日その日を生き延びられるように、頑張りたいと思います」
そこまで話したところで、ハーマン・パーカー常務が私とマイクの間に割って入った。
「はい、それではそろそろ質問も出尽くしたように見えますし、まだ始まったばかりでもありますので、今日の会見はこれで切り上げさせて頂きたいと思います。ゲーム大会が実際に開始されれば、また皆さんにお話できる事も判ってくるかとも思います。ですので、それまでは見守って頂ければ幸甚に思います。今日はお疲れ様でした。お気を付けて、お帰り下さい。昼食がまだでしたら、どうぞ、ラウンジにて召し上がって行って下さい。どうも、ありがとうございました」
そこまで言ってパーカー常務は私を誘って後ろに退がった。直ぐにカーテンが左右から閉まり、舞台と観客席とを隔てた。観客席からは会見の続行を求める声が暫く聴こえていたが、エリック・カンデルが宥めて誘う声が聴こえ始めると、それも治まっていった。
「常務、これで良かったんでしょうか?」
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