響の森
川詩夕
女子児童三名行方不明
私が実際に通っていた、兵庫県のとある小学校のお話です。
全国区でも屈指の運動場の広さを持つ歴史のある小学校です。
一つの運動場で少年野球の試合が、同時に三試合もできてしまう程の広さがありました。
この立派な小学校の敷地内には「
今思えば、小さな森ではなく、大きな雑木林であったような気もします。
響の森の木々はどれも背が高く、葉がたくさん生い茂っていて、地上から空を見上げると木漏れ日が夜空に瞬く星の様に感じました。
そして、響の森の中には不思議な物がありました。
響の森の丁度中心地に当たる場所に、小学生の頭部くらいの大きさの石が四つお互いに向き合う形で正方形に並べられていました。
その石の下側は土に埋められて、石は押しても引いても動く事はありませんでした。
ある日、ロングタイムと呼ばれる三十分間の休み時間を利用して、響の森の中でかくれんぼをする事になりました。
私はその時、かくれる側で、連なる背の高い木々の裏側でかくれている時の事です。
「ま〜ぜ〜て〜♪」
ふと、どこからか声を掛けられて後ろを振り返ると、学校で一度も見た事のない同じ歳くらい女の子が立っていました。
私は少しの間きょとんとしていましたが、特に断る理由もなかったので女の子を手招きしました。
「今かくれんぼしてるの、一緒にかくれよう」
「うん、わかった」
交わしたのはその程度の会話だったと思います。
近くで女の子の顔をよくみると、くっきりとした
「ここ見つかるんじゃない?」
女の子は
「どこか良い場所知ってるの?」
「あそこ」
女の子はそう言って、しなやかな指先が指し示した場所は、正方形に石が四つ並べられた丁度真ん中の辺りでした。
「あそこ? かくれられないよ?」
「あの四つの石の真ん中に立つとね、ワープするんだよ」
「ワープ? ワープって?」
「行ってみる?」
私は何度か首を横に振りました。
「そっか……」
女の子は少し残念そうな感じで視線を足下へ向けていました。
私はワープの事が気に掛かりつつ鬼がこちらへやって来ないか、そわそわしながら木々の裏側から前方をチラチラと何度も覗いていました。
しばらくその場で、私は後ろに居る女の子をもぞもぞと押したり引いたりしました。
「あっちの方へ行ったみたい」
私が女の子の居た方へ振り向くと、女の子の立ち姿は見当たりませんでした。
「どこへ行っちゃったの?」
私の声だけがその場でぼんやりと漂っただけでした。
「もう帰るね」
特に後ろめたさも無く、私は自分のクラスへと引き上げました。
その後、私が小学五年生、六年生の二年間の間に、同じ小学校の女子児童が三人行方不明となる事案が発生しました。
私は、あの日の出来事を思い出しました。
響の森でかくれんぼをしている時、見知らぬ女の子から声を掛けられた事を。
響の森の中に、ワープができる場所があると教えられた事を。
もしもあの時、私が女の子の言う事を
響の森という名称の由来は、かつてこの小さな森の中で姿を消した三人の女子児童の悲痛な泣き声が響き渡ったからだと私は思います。
十数年たった今でも、未だに三人共が行方不明のままです。
寂しくて、遊び相手が欲しくて、今でも響の森で
だけど、響の森に三人の女子児童を埋めたのは私なんです。
三人共、私よりも顔が可愛いかったから許せませんでした。
響の森 川詩夕 @kawashiyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます