20話 【女王の凱旋】8-ダークプリンセスはそれでも魔法少女に勝てない-

「フローレンスさん、気を付けてよ。天空城がまた変な形になってるから!」


 天空城の外縁、タマキが共に戦うフローレンスに注意を促す。

 少し離れて全体を確認してみれば、天空城の姿をしていたそれは再び白い塊に戻っており、その中でマジカルペット達が我が物顔で蠢いていた。


「何これ、マジカルペット……? どう考えてもいい方向への変化じゃないわよね」


 白い塊から生え出でる触手を躱しながら、フローレンスは天空城だったものから距離を取って驚きに目を丸くする。


「だろうね。ボクのお母さんがマジカルペットを天空城に注入してたから、その関係かな」


 タマキは触手を切り落としながらフローレンスの隣で滞空し、今も変化を続けている白い塊を注視する。

 白い塊は中で蠢く獣達に押されるように絶えずその形を変え、マジカルペットや獣の唸り声のような音を立ながら徐々に大宮殿へと近づいてた。

 その様子はさながら、雛が卵の殻を破ろうとしているようだった。


「な、中のルシエラ達はどうなってるのかしら!?」

「フローレンスさん、身構えて! 何か来るよ!」


 直後、白い塊の一部が吹き上がり、首から上だけマジカルペットの魔法少女、魔法害獣が大量に姿を現した。


『メポ、メポ、魔法少女発見』

『ヨコセ、ヨコセ、その魔力と体を』

『払え、払え、叶えた願いの対価を』


 魔法害獣達はタマキとフローレンスを見つけるなり、次元の狭間を飛び回って二人へと殺到する。


「うわぁ、また酷い絵面の連中が出てきたなぁ……!」


 その気持ち悪い容姿に若干引きつつも、タマキは真紅の剣で爆撃し、魔法害獣達を吹き飛ばす。

 だが、吹き飛ばした傍から次々と魔法害獣が押し寄せてくる。


「ちょっと、タマキ! 一度後退しなさい! 増援が来てるわよ!?」

「ホントだね、際限ないなぁ! 一匹見たらなんとやらだよ!」


 次元の狭間を白く染め上げる際限ない物量に、さしものタマキも冷や汗を流す。


『魔法少女は全員捕まえて取り込むケロ!』

『魔力タンクだ、魔力タンクは多い方がいいポヨォ! 神の力は絶対でなければならないィ!』


 迫る魔法害獣。


「ほ、人様の妹を魔力タンク呼ばわりとはいい度胸じゃの」


 それを阻止するようにナスターシャが魔法害獣の眉間に次々と光剣を突き刺し、


「同感ですっ。タマちゃんを襲う気持ち悪い害獣達は駆除しないとだねっ☆」


 ナスターシャの箒に相乗りしたシャルロッテが、特大の爆発を巻き起こして一網打尽にしていく。


「うむ、しいたけまなこ。お主のおかげで次元飛行のコツは掴んだ。後は好き勝手して貰って構わぬぞ」

「えー、別に散会する必要もないしねぇ、飛ぶのも面倒だから運転はお任せしますっ」

「ううむ、横着な奴じゃのう。しかし、今回は指導されている身である故に強くも言えぬ」


 守るようにフローレンス達の前に出るナスターシャは、箒から降りる気のないシャルロッテに口を尖らせるが、渋々それを了承する。


「お姉ちゃん達、助かったよ」

「任せてタマちゃん。お姉ちゃん、頑張るからね☆」

「あの様子では、大宮殿で防衛するよりも打って出た方がよいからの。フローレンス、お主も無理するでないぞ」

「わかってるわよ。何よ、こういうときばっかり頼りになる姉を演出してくれちゃって」

「ほ、妾は常に頼れる姉じゃが。それと、しいたけまなこ、箒の柄は狭い。後ろで暴れるでない」


 後ろでタマキに手を振るシャルロッテにしかめ面をしつつも、ナスターシャは箒を走らせて魔法害獣達を間引いていく。

 その前方、白い塊は超巨大なマジカルペット集合体へと姿を変え始めていた。


「げぇ!? あれは何よ、獣の世界樹? ファンシー生物のキメラ?」

「うーん、しいて言うなら歪なブロッコリーかなぁ!」


 言いながら、フローレンスが魔力弾で絨毯爆撃し、タマキが剣閃を飛ばして切り刻む。

 だが、マジカルペット集合体の動きは僅かに鈍っただけだった。


『願い、願いの対価を寄こせ! マジカルペットが叶えた願いの対価を寄こせぇぇ! 願いを叶えた俺達は誰よりも幸せになる権利があるぅ! 新たなる神に全てを捧げろォ!』


 アルマの体を完全に乗っ取ったマジカルペットの集合体は、更に体から無数の触手を生やして暴れ始め、大宮殿を取り込もうとその手を伸ばしていく。

 だが、伸びた触手はカミナの振るう大剣によって全て切り落とされた。


「あら、少し見ない間にアルマ様から獣に入れ替わっていたのね。うふふ、切り落とすのに遠慮しなくていいから助かるわ」

「カミナさん、少し触手の相手をしてて! ボクが本体に一発大きいの入れて動きを遅くするから!」


 カミナが触手を相手取る横、タマキがプロミネンスレイの構えを取る。


「待って、タマキ! ルシエラ達が戻ってきたわ!」


 しかし、魔力の羽を飛ばして魔法害獣を撃退しているフローレンスがそれを制止した。

 マジカルペットの集合体である超巨大マジカルペットの一部が吹き飛び、ルシエラ達が次元の狭間へと飛び出してくる。


「ルシエラさん、私はアルマさんとセシリアさんを安全な場所に連れて行きます」

「ええ、こちらは任せてくださいまし!」


 アンゼリカがアルマ達を連れて大宮殿に急行し、合流したルシエラとミアが白い塊と化した天空城へと向き直る。


「ルシエラ、借りていた剣は返すわ。決着は貴方がつけるんでしょう?」

「勿論ですの。自らの願いのために他者の願いを喰らう邪な獣は、わたくしが容赦なく消し飛ばしますわ」


 カミナが漆黒剣を投げ渡し、受け取ったルシエラがそのまま漆黒剣を構えて疾走する。


「容赦なくって……あれってアルマ様の体じゃない。そんな簡単にできるわけ!?」

「大丈夫。体だけ強くても、動かしているのは歪んだ想いだから。私達は負けないよ」


 フローレンスとタマキの前に立ち、凛とした表情でミアが言う。


「ミアちゃん、いつになくやる気だね」

「うん、ちょっと触発されてる。だから……二人ともペンダント貸して」

「ぺ、ペンダントって何するつもりよ……? アンタもう変身してるじゃない」


 ミアの言葉の意図がわからず、フローレンスは頭に疑問符を浮かべる。


「わかった、あれをするつもりだね。フローレンスさん、悪いけどミアちゃんにペンダント貸してあげてくれないかな」

「ま、まあ、アンタまでそう言うんなら大丈夫なんでしょうけど……」


 何が何やら訳がわからないと言った顔のまま、変身解除するフローレンス。


「さあ、受け取って、ミアちゃん!」


 続けてタマキも変身解除し、それに続いてフローレンスがペンダントを投げ、投げたペンダントがミアに吸い寄せらせていく。


「ん。ありがとう、後は任せて」


 二人を光の泡に包んで大宮殿へと送り届けると、ミアは自らも空中で変身を解除する。


「迷う心の宵闇に、きらり煌めく星一つ。心に宿ったほのかな光、照らして守る一番星……」


 次元の狭間に浮かんだまま、手にした三つのペンダントを胸元に当て、


「再変身」


 ミアは再び変身した。

 瞬間、ペンダントから流れる三色の魔力がミアの周囲で渦を巻き、金、銀、紅、三対六翼の魔法少女が顕現する。


「駆けろ日輪、真紅となって」


 アルカソルのペンダントが煌めき、ミアの放った真紅の閃光が迫る触手を蒸発させる。


「舞い飛べ月光、闇を払え」


 アルカルナのペンダントが煌めき、三色の魔翼が光の矢となって魔法害獣の群れを消し飛ばす。


「願いの煌めき、今満天に咲く」


 ルシエラのペンダントが煌めき、自らが光の矢となったミアが超巨大マジカルペットの腹部に大穴を穿つ。


「願いの言葉を紡いで守る魔法少女アルカステラ、流星の如く只今推参。ルシエラさん、今だよ」


 ミアはそのまま身を捻り、必殺の一撃を放つ体勢に入る。


「任せてくださいまし!」


 ルシエラは第三のプリズムストーンの残存魔力を漆黒剣に込める

 瞬間、ルシエラの漆黒剣の刀身がプリズムストーンと同じ眩い光へと変化した。


『GUGAAAAAA……。足りない、足りない、神になったはずなのに力がァ! よこせ、願いを、力をォ! マジカルペットのためにィ!!』


 大穴を穿たれたマジカルペットの集合体が、狂ったように触手を暴れさせる。


「笑止ですの! 他人の願いを踏みにじって手にした歪んだ願いなんて、叶う訳がないですわ!」


 ルシエラが眩く輝く剣を振り下ろし、


「人の心の願い星! 闇を切り裂く流れ星! 輝け想いの一等星! アルカステラ! 今、成敗っ!!」


 それと交差するように、ミアが三色の流星となって次元を駆ける。


『UWAAAAAAA! MEPOAAAAAAAAAAA!!』


 次元の狭間が眩い光に包まれ、マジカルペット達は一匹残らず粉々になって消し飛んだ。

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