19話 【ナイトパレード】8

「おお。カミナさん、いきなりド派手におっぱじめましたねぇ」


 そして再び大宮殿、バチバチと派手に火花を散らすカミナを遠巻きに眺め、アンゼリカは一層激化したた仮面魔法少女達の攻撃を食い止めるため指示を出す。


「アンジェー、あとどれぐらいかかるー? うちのタマちゃんに負担がかかってます! 思いやり運用をお願いしますっ!」

「アンゼリカさん、ごめん。ボクのプロミネンスレイはそんなに燃費良くないんだ、この後のことを考えればそろそろ節約させて欲しいかな」


 シャルロッテが次々と送りこまれてくる仮面魔法少女を撃退しつつ、タマキが天空城へプロミネンスレイを放って主砲を撃たれぬよう牽制する。

 その僅かな隙を衝いて、シャルロッテがアンゼリカに猛抗議を始めた。


「そんな大砲みたいな魔法、打ち放題じゃないことぐらい見ればわかりますって。そうですね、曲的にもそろそろのはずなんですけど……」


 アンゼリカは焦れる様にルシエラへと視線を向ける。

 歌い踊るルシエラの上、浮かんだプリズムストーンの原石は送られてくる魔力を取り込み、渦巻く魔力の中心で鈍く輝きはじめていた。


「皆さんありがとうですのーっ! 想いと力は受け取りましたわー! アルマテニアの未来は任せてくださいまし!」


 ルシエラが最高の笑顔で歌い終え、最後にそう挨拶してカメラに向かって手を振る。

 絶えず流れていた音楽が止み、渦巻く魔力を全て吸い上げた原石が極彩色の輝きを纏って空中に停止した。


「ん、終わったね」


 セリカを送り終えて戻ってきたミアがすかさずカメラを止め、それを見たアンゼリカが最終防衛ラインでほっと胸を撫でおろす。

 ルシエラは一度自らの頭上を見上げると、目を閉じてマイクを手にしたまま小さく息を吐いた。


「ええ、無事完成しましたわ」


 自分にかけていたアイドルとしての自己暗示を解き、凛とした表情で変身を解除する。

 その恰好は黒いドレスではなく、いつもの制服。これから派手に暴れるのだ、動きにくいドレスを着ている暇はない。


「じゃあルシエラ。これ……本当にプリズムストーンなわけ?」


 ルシエラの頭上に浮かぶ輝石を見上げたフローレンスが、思わず戦う手を止めて尋ねる。


「流石に歴代女王……アルマが長年蓄え続けた魔力には及びませんけれど、プリズムストーンの雛ぐらいにはなりましたわ」


 ルシエラはミアに自らのペンダントを手渡すと、新生プリズムストーンを自らの手に浮かべる。

 手の上で極彩色の輝石がキラキラと輝く度、莫大な魔力の奔流が渦を巻く。


「ペンダント……ルシエラさん、いいんだね」

「勿論ですの」


 受け取ったペンダントを見つめるミアに、ルシエラは迷いなく首肯する。

 ルシエラのペンダントはアルマ封印の鍵でもある。それを変身用ペンダントとしてミアに手渡す、それはつまりアルマを封印しないことを意味する。


 ──わたくしとクロエさんの距離は縮まった。愚かな女王であったダークプリンセスは、今こんなにも頼もしい皆と共に在る。だから、アルマさんだって変われるはずですの。


 アルマがあの頃の自分と同じ孤独の中に居るのなら、封じるのではなく助ける。それがルシエラの答え。

 シャルロッテが言っていたように過去の自分を赦すためではない。ただ、同じ孤独を知っている人間としてアルマを助けたい。それだけだ。


「ん、わかった。私もその方がいいと思う」


 その決意を察したミアが、ルシエラに頷く。

 これで準備は万全、今の手札でこれ以上の盤面は作れないはずだ。


「アンゼリカさん、このまま大宮殿を突撃させてくださいまし! セリカさんも主砲発射の準備を!」


 ルシエラが指示を出し、新生プリズムストーンの力を解放。

 極彩色の輝きを放つプリズムストーンが花火のように打ち上り、闇をかき消し夜空を照らす新たなる太陽となる。


「わかりました、ご武運を! こちらは死守してみせますよ、帰る家を守るのは嫁の務めなので!」


 眩い輝きに目を細めながら、アンゼリカが制御装置である半透明の本を滑らせ、大宮殿を次元の狭間へと突撃させる。


『や、やったるです!』


 それと同時、ホログラムモニターのセリカが叫び、大宮殿全体が青く発光。

 青い魔力が極彩色の魔力と混ざりながら大宮殿の頂きへと収束し、そのまま天空城へ目掛けて放たれる。

 次元の境で天空城が大きく傾き、次元の狭間に突入した大宮殿がそのまま体当たり。天空城を再度狭間の奥深くに押し込んだ。


 ──プリズムストーンの残存魔力は……まだ大丈夫そうですわね。


 突撃準備が整ったのを確認すると、ルシエラはプリズムストーンの残存魔力の一部を全員に分配。魔力回復させ、フローレンスに強引な魔力調律を施した。


「ちょっと、ルシエラさん! それは景気よくサービスし過ぎじゃありませんか!? ルシエラさんの方がメインなんですよ!」

「大丈夫ですわ。わたくしの魔力量自体はアルマさんよりも多いはずですの、なんとか五分には持ち込めますわ!」


 ルシエラは浮かんでいたプリズムストーンを手元に戻すと、ミアと共に突入すべく走り出す。


「五分って……それでも過剰放出ですよ! フローレンスさんにあそこまでやって!」

「え、ルシエラ! 私になんかしてるの!?」

「プリズムストーンの魔力でフローレンスさんの魔力を調律しましたわ! グリッターの安全版だと思ってくださいまし!」

「ああ、あれの原料プリズムストーンの破片だったもんね……って! 私、変身用のペンダント持ってないんだけど!」


 一瞬納得しかけて、再び慌てて叫ぶフローレンス。


「フローレンスさん、これ使って! ボクとミアちゃんの親友、アルカルナが使ってた奴!」


 そこにタマキがペンダントを投げ渡す。


「え、でも、それなら私じゃなくって、戦い慣れてるセラの方がいいんじゃ……」


 ペンダントを手にして狼狽えるフローレンス。

 その背中をセラが叩いた。


「いたっ!」

「正念場なんだ、覚悟決めろにゃ。変身しなくても戦える私より、お前が戦力になった方がいいに決まってるだろ」

「わ、わかったわ! アンタ達の親友のペンダント、借りるわね!」


 覚悟を決めて変身するフローレンスに、タマキとミアが揃って頷く。


「ささ、タマちゃん、そろそろ行かないとだよ。ダイジョブ?」

「勿論だよ、お姉ちゃん」


 タマキが頷いて飛翔し、シャルロッテが仮面魔法少女を退けながらそれをエスコートする。

 変身して銀色の翼を舞わせるフローレンスの姿を見届けながら、二人は魔法陣、そしてその行使者であろうアネットを撃破すべく天空城上層へと飛んでいく。


「さあ、ミアさん。わたくし達も参りましょう。魔力調律の準備は大丈夫ですかしら」


 大宮殿の端に辿り着いたルシエラは、一度足を止めてミアに言う。


「ん、私はプリズムストーンで調律じゃないんだ」

「ええ、ミアさんの魔力量はあの方式で行うには多過ぎますもの」

「そうだね。私もそっちの方がいい、かな」


 顔を赤らめるミアの腰に手を回して抱き上げると、ルシエラは大宮殿から大きく跳んで天空城入口へと向かう。

 入口に辿り着いたルシエラは、抱いたままミアに口づけて舌をからめる。

 ルシエラの首に手を回したミアがんっと可愛らしい嬌声をあげ、もっともっととねだるように体を密着させてくる。

 その求めに応じるように更に入念に魔力を調律。ミアが火照る体を持て余すように、くちづけをしたままペンダントに手を当て変身する。そこで二人はようやく唇を離した。


「参りましょう、ミアさん。皆さんの頑張りを無駄にはできませんわ」


 ルシエラが既にアルカステラとなっているミアを降ろし、


「ん、任せて。愛、一杯補給したから、ね」


 ミアは胸を押し付けあうように一度ルシエラへ抱きつくと、心気満ち足りた表情で前を向く。

 そして、二人は揃って天空城の城門をくぐった。

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