3話 ダークプリンセスは悪事ができない4
「この外道共! 畜生にも劣るその所業、断じて許されませんわ!」
ダークプリンセスへと変身して屋上へと乱入したルシエラは、セリカを捕まえていた魔法少女を一刀の名の下に斬り伏せ啖呵を切る。
「ペコォ! 天下のダークプリンセスがまさかこのゴミを助けに来たペコ? ハハハハッ! こいつは笑わせてくれるペコ! いつからそんなゴミ漁りを始めたんだペコ?」
それを見たピョコミンが拡声器を投げ捨てて嘲笑い、
「でも、感謝してやるぜぇ。お前が悪役になってくれるおかげで、魔法少女の勧誘が更に捗りに捗るからよォ!!」
ルシエラの周囲を魔法少女達が取り囲んだ。
「ご安心なさい。貴方の好きにはさせません。悪行の報い、この場でしかと受け取っていただきますわ!」
「ハハッ! どうやらお前は状況が見えてないようペコ! ここじゃセリカちゃんが巻き添えになるけど仕方ないペコねぇ!!」
ピョコミンの合図と共に魔法少女達が武器を構え、迷いなくセリカに向けて攻撃魔法を打ち出した。
「っ! そちらを狙いますのね!?」
ルシエラは咄嗟にセリカを抱きかかえ、黒いスカートの裾を舞い踊らせて漆黒の壁へと変化させる。
直後、爆炎、雷光、暴風、氷に土塊とめくるめく魔法攻撃がルシエラを襲い、漆黒の障壁がそれら全てを受け止めた。
「……なんとか防ぎ切りましたわね。攻撃に転じたいですわ。貴方、あれを受け止める魔法障壁は張れますの?」
セリカが無事であることを確認し、ルシエラはセリカの猿轡を外して尋ねる。
「む、無理に決まってるです! セリカはあんなのから身を守る魔法なんて使えねーですよ!」
セリカは涙目のまま大きく首を横に振った。
「オイイィ! こいつ等は一山いくらのザコじゃねぇんだぞ! なのにどうして無傷なんだペコぉ!? くそっ次撃つペコォ!」
無傷の二人を確認したピョコミンは口に放り込んだ飴玉をガリガリと噛み砕きながら攻撃の指示を出す。
その指示を受け、同じ魔法が再びセリカに向けて打ち出された。
「ギャアアアア!! 死ぬですうっ!?」
絶叫するセリカ。
「っ! あくまで狙いはセリカさんなのですわね!」
再び攻撃を防いだルシエラは魔法攻撃の隙を衝いて飛び退くと、セリカを抱えて間合いを取る。
「あったり前じゃああぁん!? お前はそうでもしなきゃ当たってくれないんだろぉぉん!? こちとらお前のヤバさは五年も前から知ってるんだペコぉ!!」
ピョコミンがそう叫ぶと同時、三度目の魔法攻撃が放たれる。
それもルシエラが漆黒の障壁を生成して防ぎ切った。
「くっそぉ! なんだその無敵バリア! しぶとさ無限大でゴキブリ級かよぉ! しょうがねぇペコ! ピョコミンはアルカステラを呼んでくるからお前達はアイツの相手してろペコ!」
ピョコミンは苛立ちながら屋上の配管を蹴りつけると、技術棟の中へと消えていく。
「っ! 待ちなさい、害獣!」
「待つわけないペコ。バーカ! お前の処刑は相応の舞台でド派手にやってやるから首でも洗って待ってろペコ!」
ルシエラは逃げるピョコミンを目で追うが、追い駆けるどころかセリカを守るのに手一杯で攻撃にも移れない。
セリカが今までの攻撃魔法を直に受けていたら千回は死んでいたことだろう。
そして魔法少女達はその攻撃を緩めるつもりは毛頭なく、今も矢継ぎ早に魔法を繰り出してきている。このままではじり貧。攻撃に転じる隙が無い以上逃げる他はない。
ルシエラは渋々離脱を決意する。
「口惜しいですけれど退く以外にありませんわね。飛びますわよ、ちゃんとつかまっていてくださいまし!」
「……あの、セリカめっちゃ厳重に縛られてるです」
「あら、そうでしたわ」
ルシエラはセリカを小脇に抱えて屋根から飛び降りる。
建物の壁面を蹴りつけ、そのまま駆けるように空を舞う。
眼下の生徒達がざわめく中、魔法少女達が一斉に飛翔し、逃げるルシエラを追いかける。
「ひっ!? あ、あいつ等追ってくるです! どうしてそこまで従順ですか!」
「あの方々は相当の手練れ。恐らく害獣が前もって準備していた者達で、心をへし折られて逆らえないようにされているのですわ」
レーザーのように放たれる光の魔法を躱しながらルシエラが言う。
「あ、あのウサ公。そこまで邪悪だったですか!?」
「勿論、貴方には優しかったですかしら?」
首を横に振るセリカを抱きかかえながら、ルシエラは身を捻って漆黒の剣を投げつける。
漆黒剣の直撃を受けた魔法少女は変身を解除され、全裸になって地上へと落ちていく。
「セリカさん、少し口を閉じていてくださいまし!」
言いながら、ルシエラは急旋回。
味方が撃破されて動揺した魔法少女三人を魔法で生成した闇の刃で粉砕し、次々と変身を解除させていく。
それに合わせてルシエラも急降下。四人の魔法少女が地面に叩きつけられる前に先回りし、魔法で落下の勢いを殺して安全に地面へと降ろす。
「お前、上!」
ルシエラが少女達の無事を安堵するよりも早く、セリカが叫ぶ。
真上から急襲する魔法少女が一人。手にした大槌に氷を纏わせてルシエラとセリカに迫る。
ルシエラはセリカを突き飛ばすようにして草むらに押し込むと、自らの腕で大槌を受け止めた。
「──っ鈍いですわ!」
刃のように研ぎ澄まされた氷がドレスを凍らせていく中、ルシエラは大槌を持つ魔法少女の手を掴み、自らの氷を逆流させるように魔法少女を氷漬けにしていく。
止めに元に戻った腕で氷付いた魔法少女に拳を入れ、少女が装備していた武器とペンダントを氷諸共に打ち砕いた。
「……これで追って来た魔法少女は全員ですわね」
凍り付いていた右腕を左腕で押さえつつルシエラが周囲を確認する。
「お、お前、無事ですか!?」
縛られたまま茂みから顔を出していたセリカが、ルシエラの様子を見て心配そうに尋ねる。
「かじかむ程度で命に別状はありませんわ。流石にこの大立ち回りは過酷でしたけれど……」
ルシエラは心配させぬよう笑ってみせると、セリカの縄を解いていく。
「あったり前じゃねーですか! 袋叩きに遭いつつ、セリカも敵も怪我しねーように立ち回って! 魔法少女はそんなに甘くねーですよ!」
「でも貴方に魔法が当たったら死んでしまうでしょう? 変身解除された魔法少女も同じことですわ」
「そ、そりゃ、そうですけど……。そうじゃなくて! お前がセリカや魔法少女を助ける理由なんてねーはずです!」
戒めを解かれたセリカがルシエラへと食って掛かる。
「あら、誰かを助ける為に使うのが変身用ペンダントの正しい使い道でしてよ? ……わたくしの場合は随分と遠回りをしてきましたけれど」
「お前……」
ルシエラの言葉にセリカが俯き、
「遠回りどころか……学校じゃ今も悪党扱いされてるですよ。誰も理解してくれないどころか目の敵にされてるです。しかも半分以上セリカのせいで」
拳を震わせながら申し訳なさそうにそう言った。
「その位慣れていますわ。さ、気を付けてお行きなさい」
ルシエラはちくりと痛んだ胸の内を笑顔で隠してセリカの背中を押す。
セリカはじっとルシエラの顔を見つめた後、深々とお辞儀をして駆け去っていった。
「……と、強がってみたものの、よかれと思ってした行動が誰にも理解されず、悪党扱いをされていくのは少々堪えますわね。昔は悪党呼ばわりされてもまるで気になりませんでしたのに」
そうしてセリカの姿が見えなくなった後、独りその場に残ったルシエラは木に寄りかかって夕焼け空を見上げるのだった。
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