2話 マジカルペットは害獣です2
「コヒュウ! ウーラララララララ! たぁのしそうにやってるじゃあぁあん? ミアちゃああん? ピョコミンを忘れて学生生活をエンジョイとは舐めた真似してるぺこぉん? 生き物忘れんじゃねぇペコォ!!」
「ひう……!」
ねっとりとした奇声を発しながらピョコミンがミアの腕を掴み、掴まれたミアがびくりと身を震わせる。
「ねえ、もしかしてピョコミンって、掃除後のモップみたいなあれ?」
「残念ながらあれですわ」
唖然としながら指さすフローレンスに、ルシエラが汚物を見るような目をして頷く。
「あのさぁ、ピョコミンが居ないことに気付こうよ。おかげでピョコミンは徒歩でここまで来たんだけどぉ? 忘れ物にも限度ってものがあるペコ! 綺麗好きなピョコミンがマジ臭いんですけど!」
「ごめん、ごめん、ね」
萎縮しきった態度で平謝りするミア。
「ごめんで済んだら警察は要らないんだけどぉ? 今ピョコミンガチギレしてるペコ。ミアちゃんには躾が必要ペコね、それじゃあっち行こうか」
「う、うぅ……」
結局、反論らしい反論もせずにミアはピョコミンに連れて行かれてしまう。
彼女が泣きそうな顔をしていたのはその乏しい表情からでも一目瞭然だった。
「ねえ、ルシエラ。初対面で失礼かもしれないけど、あれってどう見てもまともな関係じゃないわよね」
「そうですわね。ミアさんがああなってしまったのは、そう言う理由しかないだろうと薄々は思っておりましたけれど……」
ルシエラは眉間に指を当てて首を振った後、大きく息を吐いて立ち上がる。
「流石に目の前であんなものを見せられては捨て置けません。止めてきますわ」
「ねえ、ちょっとアンタ達! 私、事情はよく分からないけど昼休みは後少ししかないわよ!」
「先生には連れ添って保健室に行ったと伝えておいてくださいまし!」
「仕方ないわね……って! 私とアンタ達の校舎違うじゃない! 私、次はマジックアイテムの加工実習で技術棟まで移動しないといけないんだけど!」
叫ぶフローレンスを置き去りにし、ルシエラは早足でミアとピョコミンを追いかける。
白壁の校舎の角を曲がり、予鈴を鳴らす時計塔の下を潜り抜け、グラウンドで球技をしている生徒が落としたボールを拾って投げ返し、最後に校門の端の物陰でミアとピョコミンを見つけて立ち止まる。
「キャオラッ!」
ルシエラの到着早々、ピョコミンはミアに蹴りを入れた。
──んまっ!
ルシエラは咄嗟に飛び出しそうになるが、宙に浮いているピョコミンの蹴りは大して痛くないらしく、ミアは痛がる素振り所か小動すらしない。
今の所は安全だと判断し、ひとまず茂みへと身を隠して事の成り行きを見守ることにした。
「あのさぁ、ミアちゃんお前さぁ。一体全体どういうつもりペコ?」
「ごめんね。ピョコミンのことすっかり忘れてた」
「それもそうなんだけどさぁ。ピョコミン列車で言ったペコよねぇ? 大人しくしてろって!」
「っ!」
ピョコミンに怒鳴られてミアが身を縮こまらせる。
「なのにさぁ! ネガティブビーストぼこっちゃって何やってんペコォ!? 察しろよ! 頭使わないからホルスタインみたいに胸ばっか大きくなるんだよぉ!」
「皆困ってて捨て置けなかった、から……」
「っざけんなペゴルァ!!」
「ひっ!」
ピョコミンが再度激しい怒号を飛ばし、ミアが更に身を縮こまらせる。
「皆とか言う有象無象よりピョコミンの命令の方が大切なんだペコ! ピョコミンが大人しくしてろって言ったら大人しくしてるんだペコ! はー、それともお前は学校ではしゃいでお友達でも作ったつもりペコ? それじゃ、そんなお友達にも魔法少女であることを隠してるミアちゃんは卑劣な裏切り者ペコねぇ」
「っう……」
「薄汚い裏切り者は裏切り者らしく友情を裏切れペコ! 例え周囲の連中がユッケになろうがネギトロになろうがミアちゃんは正座して動かない! ほら返事!」
「で、でも……」
「あぁん、ピョコミンに口応えペコ? お前何様になったつもりペコ? 分かった、聞いてやるペコ。ミアちゃん、お前に何の価値があるのか言ってみるペコ」
ピョコミンの言葉に、元から浮かない表情のミアが更に表情を曇らせる。
「んっ……。私は無価値、です」
そうして、喉から絞り出すようなか細い声でそう答えた。
「そうペコ。アルカステラじゃないミアちゃんに価値なんてないペコ。そしてミアちゃんはピョコミン抜きじゃ変身できない。……つまりピョコミンが居ないお前は無価値なんだよぉ!」
それを聞いたピョコミンは満足そうに声を弾ませ、
「だから……」
「いい加減お黙りなさい、見苦しい」
何かを言おうとしたところで見るに見かねたルシエラが乱入し、魔法で強化した脚力でピョコミンを天高く蹴り飛ばした。
「ごぺええええええええええ!」
蒼穹へと勢いよく蹴りだされたピョコミンは、そのままキランと煌めいて青空の星となって飛び去った。
「あ……。ルシエラさん」
「大方こんなことだろうと思いましたの。話は聞かせていただきましたわ。何があったのか教えてくださいますわよね?」
呆然としているミアにルシエラは優しく微笑んで言う。
ミアは一瞬表情を緩めかけるが、
「ん……なんでもない、本当に何でもないから。私、ルシエラさんに隠し事している裏切り者、だから」
ルシエラから視線を逸らして寂しげにそう言った。
「あら、わたくしだって隠し事の一つや二つありますわよ。それこそミアさんが聞けば驚いてひっくり返るようなものだって」
ルシエラはそれを軽く笑い飛ばす。
「そう、なの?」
「ええ、そうですわ。友人だからって全てをつまびらかにする決まりなどありませんわ。秘密は秘密のままでも友人になれますわ」
ミアはルシエラの顔をじっと見つめていたが、
「本当?」
やがて恐る恐るそう尋ねた。
「ええ、勿論。ここでミアさんの話してくださることも秘密にすると約束いたします。これでわたくし達は共犯者ですわね」
そう言って微笑むルシエラに、ミアは自らの顔を埋めて泣きついた。
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