第70話 駄々こねたら引っ叩いてでも連れ帰してやるんだから!!!!!

「『まーちゃん。』」


 !?

 桐谷さんが昔零士に呼ばれていた名前で私を呼んだ。

 驚きのあまり、目を見開く。

 

「『まーちゃん、か。なんでこんな時に、昔の事思い出すのかね?走馬灯ってのか?なんつーか、昔まーちゃんと約束したっけな・・・ずっと一緒にいるって。あ〜あ。約束破っちまうなぁ・・・まぁ、でも良っか。なんだか、あいつに嫌われてたみてぇだし。面と向かって【だいっきらい】ってのはきつかったが・・・しゃーないか。俺、こんなだしな。いい加減だし、優しくねぇし、血まみれで、殺す事に慣れていて・・・自分で言っててクズだって思うわ。そりゃ嫌われるっての。』」


 ギリッと歯ぎしりの音が鳴る。

 それと、頬に熱いものが流れているのが分かる。


 そんなわけ!

 そんなわけないっ!!


 私は、あんたがっ!!!


「『ま、でもあいつはきっと超一流のエクソシストになって、イケメンの旦那を見つけて幸せに生きるだろ。俺みたいな汚点はいらねぇか。だけど、俺は応援してるぜ?あいつが嫌ってる事に・・・俺があいつを好きだってのの理由にはなんねぇし。』」

「っ!!」


 その言葉に目を見開く。


「『あ、そっか!これが好きってのか!!だってミルとかに感じるのとはちょっとちげぇし!!じゃ、じゃあ俺、雪羅も、夜夢も、舞さんも、琥珀さんも、かすみさんも、美奈の事も同じように好きだったって事か!?どんだけ節操無しなんだ俺!?』」


 そして、続く言葉に、九重先輩達も目を見開く。

 涙を流しながら。


「『はぁ〜・・・こんな土壇場になって気がつくとは・・・馬鹿か俺は。みんなに悪りぃ事したなぁ・・・・・・あ〜、いよいよ考えがまとまらなくなって来た、か。なんにせよ、みんなも幸せになってくれよ?俺みたいなクズなんて犬に噛まれたと思ってくれれば良いし、な。・・・はぁ、最後にみんなの顔、見た・・・か・・・た・・・・・・・・・』以・・・上、だ・・・」


 桐谷さんは、涙を流しながら、零士の思考だけは詰まらないように話しきり、顔を伏せてしまった。


 そして、それは九重さん達も同じだった。

 


 私だってそれは同じだ。















 でも。


 









 でもっ!!









 私は!









 やっぱり零士が好き!!

 だからっ!!!





「暁月っち!?」

「暁月、あんた・・・」

「お姉、ちゃん・・・?」

「・・・剣・・・?」


 泣き崩れている八田さん、九重先輩、美奈、そして、結城先輩が、一歩壁に近づいた私の右手を見る。


 私は、


「・・・聖剣の具現化。それもさっき私と戦った時よりも遥かに強い輝きと力。舞から与えられた霊具の事を考えても、それでも圧倒的な・・・」


 涙を流し、悔しそうにしていたかすみさんが目を見開いている。


「・・・暁月ちゃん。君は、どうするつもりかな?」


 涙を流したまま、こちらを真剣に見ている桐谷さん。


 答えは、決まっている。


「決まってます!私は、そこの壁を斬ってから、一人で完結しようとして、最後の最後に愛情を理解したあの鈍感馬鹿をこっちに引き戻します!!それで言ってやるんですっ!!『だいっきらいって言ったのは嘘よ!それと自分の想いに気がつくのが遅い!私はずっと前からあんたが好きだったのに!!あと、イケメンの旦那様なんていらない!私に必要なのはあんただけよ!きっと他のみんなもね!だからさっさと帰るわよって!!!!駄々こねたら引っ叩いてでも連れ帰してやるんだから!!!!!」


 あいつに私の気持ちをぶつけてやらなきゃ気がすまない!!


 あんたに必要なのはこんな闘争なんかじゃないんだから!!

 あんたに必要なのは私達からの愛情よ!!!


「暁・・・月・・・あんた・・・」


 驚いた顔で私を見上げる九重先輩。

 だから私は、微笑んで答える。


「九重先輩、私は真奈です。真奈って呼んでください。意地でも先輩と同じ立場になってやりますから!」

「・・・ほな、ウチも雪羅でええ。真奈・・・あの忌々しい壁切り裂いて、あんの阿呆をどやせるようにしたろうや。」

「・・・うん、夜夢ちゃんも夜夢で良いよ!マナっち、これからよろしくね〜!さっさとレージ連れて帰ろ〜っ!!」


 九重先輩・・・雪羅さんと夜夢さが泣き笑いをしてそう言った。


「私も琥珀で良いわ。結局、やっぱりあなたが一番心が強かったのね。絶望してしまった私達よりも。」

「うん・・・流石はお姉ちゃん。」

「・・・私もかすみで良い。お前を説得できて本当に良かったと今しみじみ思っているよ。」

「琥珀さん、美奈、かすみさんも、よろしくね?後は・・・」


 私は、桐谷さんを・・・いえ、舞さんを見た。


「うん。舞でいい。真奈ちゃん?お願いね?一緒に零ちゃんのために頑張ろう?私達があなたに力を流すから、真奈ちゃんは一気に爆発させてあの壁を切り裂いてね?」

「はい!舞さん達が一緒なら私も心強いです!!」


 いつもの雰囲気で涙を流しながらふんわり笑う舞さんに同じように微笑みかける。


「乙女の涙を流させた罪は重いわよ零士!覚悟していなさいっ!!」


 私は剣を構えて壁があるであろうところを睨み、


「そうだね〜!涙を流した分だけレージから子種を絞りとってやろ〜!」


 続く夜夢さんのそんな言葉に膝から崩れ落ちそうになる。


 こ、子種・・・

 し、絞り取るって・・・まさかそれって精◯!?


「・・・まぁ、夜夢の言う通りやな。あの阿呆に誰を悲しませたかわからせなアカンし。」

「・・・よし。ならば私が忍びの捕縛術で零士を縛ってやろう。」

「うんうん!零ちゃんの零ちゃんをいじめぬいてやろ〜ね〜!!」


 雪羅さんと、先生と、舞さんが頷いている。

 ちょ、ちょっと!?

 琥珀さん!美奈!!

 一緒に止め


「もう、いい加減私も抱かれて良いわよね?でも、最初が縛った零士くんってのは・・・なんか私、そっちに目覚めそうである意味怖いわね。」

「あわわわ・・・で、でも、あの零士さんを・・・ごくり」


 あ、あれ!?

 なんで二人共乗り気なの!?

 

 私がおかしいの!?


「ちょ!?そ、そういうのは全部終わってからにしましょ!!!てゆ〜か、私まだ告白してないんだから待ってよ!?」

「あ、そっか。」

「じゃ、はよ告白せなイカンな。」

「で、その後まず琥珀と美奈を抱いてもらおう。縛るのはその後で。」

「いきなりだけどいい機会ね。うふふ・・・早く零士くんを助けなきゃね。」

「あぅぅぅぅ・・・こ、怖いけど楽しみなような・・・むしろ待ちきれないような・・・お姉ちゃんより先で良いよね?先に気持ちを受け取って貰えたし?」

「よ〜し!零ちゃんを早く絞る為にみんなも頑張ろ〜〜〜っ!!!」


 ・・・あれ?

 本当に、私ここに仲間入りしちゃって良いのかしら?

 なんだか、みんな泣きながら笑いあっ


てるし?

 というか美奈?

 あなた姉よりも先に経験するつもり?

 お姉ちゃん許さないわよ?


「お姉ちゃん!早く壁壊そ!?」


 ・・・ま、いっか。


 可愛い妹の笑顔見れたしさ。



 さて、零士? 

 覚悟しなさいよ?


 今からあんたの可愛い可愛い幼なじみがそっちに行くから。

 言い訳は受け付けないわ。


 さっさと帰って私の気持ち、受け入れて貰うからそこで首洗って待ってなさい!!!


 って、あら?

 あいつなんかキョロキョロして首を抑えてるけど、意識ないのよね?


 あ、殴られてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る