第68話 落ちる

「行くよ〜!!」


 眼の前で、八田さんがサキュバス特有の羽と尻尾、それと角と・・・って、羽がなんか凄いわね?

 ゴージャスな感じ。

 これがサキュバスクイーンって事なのかしら・・・凄い力!!


「『夢の世界への切符ドリームジャック』」


 八田さんがそう言葉にした瞬間、八田さんから淡い桃色のオーラが放たれ零士に降り注ぐ。


「〜〜〜〜〜っむむむっ!!!レージ!いつもより抵抗強すぎっ!!これ、絶対中で暴れまわってるでしょっ!!でも!!」


 苦しそうな八田さんが額から汗を流しながらそう叫んだ瞬間、更に八田さんの力が増したわ!!

 な、なんて力なのっ!?


「いつでも夢に入れるようにこっそり作って置いたバックドアはそのまんまだね!!えーーーーーいっ!!」


 力を振り絞った八田さんの叫びに合わせ、零士の胸に底が見えない黒い孔が出来た。


「せーじょっ!!」

「わかってる!!はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ミルさんが凄い力でその孔を強引にこじ開けた。

 すごく清浄な力を感じて驚いちゃう。

 これが異世界の聖女なのね!

 う〜ん、戦ったら、ちょっと勝てないかも・・・ってそれより!!


「八田さん、どう!?」

「・・・ちょっときついけど、無理やり通る!!みんな!零士の事を思いながら夜夢ちゃんの力を受け入れてっ!!」


 ミルさんを除く全員が頷く。

 勿論、私も!!


「『繋がる世界ドリームリンク』!!!!」



 その瞬間、眼の前に光が溢れ、身体が落ちる感覚。


 落ちる。

 落ちる。

 落ちる。


 どこまでも深い穴の中へ。


 落ちていく。


 それはまるで眠る時のような・・・



  












「・・・ち、暁月っち!!起きて!!」


 八田さんの叫び声で目を覚ます。

 そこには、私を含めてみんなが目を閉じ倒れている。


 ミルさんはいない。

 おそらく、そのまま穴の維持をしているのでしょうね。


「ここは!?」

「レージの深層意識の中だよ!みんなも目を覚まして!!」


 八田さんの叫びに、九重先輩達も次々に目を覚ます。


「・・・真っ暗、ね。」

「これが・・・零士さんの・・・心の中・・・?」

「・・・立っているのか、寝そべっているのか、浮いているのか、沈んでいるのか・・・まったくわからない・・・これが深層心理の中・・・」


 結城先輩、美奈、先生がきょろきょろとしながら呟く。


「・・・それより零士やろ。夜夢、どっちや?」

「う〜ん・・・どっちだろ?」

「・・・冗談はいらへんのや。さっさとしなんし!!」

「冗談じゃないもん!!いつもと違うんだよ!!いつもはこんなに真っ暗じゃないし!!」


 ・・・いつもと違う?

 どういう事・・・?


「・・・夜夢ちゃん。ちなみに、いつもはどうやって夢の中で零ちゃんを探すんだい?」


 そんな時だった。

 桐谷さんが八田さんを見てそう呟く。


「ん?夢の中でもね?気配ってするんだよ?てゆ〜か、気配ってよりも存在感、かな?今は全然分かんないんだけど。だから困ってる。」

「・・・なるほど。今はまったくしていないのかな?」

「う〜ん・・・一応心の世界だから、無いわけじゃないんだけど、すっごく薄いっていうか・・・」


 いつもは存在感で探すのに、今はほとんど感じない。

 そんなのどうやって探せば・・・


「ふむ。なら、夜夢ちゃん。へ進もう。」


 へ?

 まったくしない方向?


「っ!!そうか!!《《存在感が無い》》って言うことは!!」

「あ・・・なるほど・・・流石は舞さんね。」


 そこで先生が目を見開いて叫び、結城さんも納得したように頷いた。

 どういう事?


 私だけじゃなくて、八田さんも、九重さんも、美奈も小首を傾げている。

 この人達とだと、私達が頭が悪いみたいに感じちゃうわね。


「そうだ。いつも感じる存在感が無く、いつもと違う風景、つまり、って事だ。すなわち、という事。」


 あ!?

 つまり!!


「・・・零士は、千年妖樹の【呪い】に隔離されているって事やな。」

「そうだ雪羅ちゃん。だから零ちゃんの深層心理にも関わらず、零ちゃんの存在感が薄い。つまり、気配をまったく感じない所に零ちゃんは居る。」


 そういう事よね!!

 しかし凄いわね桐谷さんって。


 こういう人が『天才』って言われるのね。

 まぁ、元から『極東の天才霊具師』って言われているんだけど。


「そうと決まれば・・・こっち!!」


 八田さんが少し目を閉じ、その後指を指して駆け出す。

 私達も駆け出す!!


 零士!

 もう少し! もう少しだから!!

 

 早く、零士のところに・・・
































「ガァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!」


 










「零・・・士・・・?」


 そこに居たのは、血まみれのまま凄まじく大きな竜を殴り飛ばす零士だった。

 







 私が、今まで見た事が無いような怖い顔と目で。

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