第67話 シンプルに。そして、真っ直ぐに!!
「はぁ・・・はぁ・・・せ、先生早いですね。」
「暁月も十分早い。私はこれでも忍びだ。速度には自信がある。」
零士の家まで一気に走る。
タクシーを使用しようとも考えたけれど、
「私達なら走った方が早い。」
という先生の言葉で、零士の家までダッシュしてるのよ。
私の手荷物はというと・・・一旦、森林公園の中に隠してあるの。
正直、着替えとかも入れてあるから置いて行くのは嫌だったんだけど、背に腹は代えられない。
零士の為なら私の着替え程度・・・う〜ん、やっぱりあんまり・・・。
お願いだから見つからないでください。
でも、これが私がうだうだやってた罰だっていうなら、甘んじて受け・・・やっぱやだっ!!
まぁ、見つからないように先生が結界?を張ってくれたから大丈夫だとは思うんだけど。
いえ、大丈夫であって欲しい。
私達エクソシストも結界は技術としてはあるんだけど、どちらかというと、攻撃から身を守るというのに特化しているから、先生達忍者のような汎用性は無い。
ちょっと羨ましいかも。
それにしても、隠岐先生は本当に凄い。
肉体的なものでは無いにしろ、さっき私に斬られたダメージは絶対ある筈なのに、それでもこれほどの速度で移動できるだなんて。
私も全開で走っているけれど、隠岐先生について行くのがやっと。
本当に凄いわ。
「・・・暁月、まもなく着く。気力を整えろ。」
「ええ。分かってるわ!」
気力、ね。
私達で言う霊力の事よね?
移動中、先生が知っている範囲の計画を少しだけ聞いたんだけど、八田さんのサキュバスとしての能力でなんとかするらしい。
詳しくは、また後でだそうよ。
そこで、零士と接触して、なんとか連れ戻す。
ただ、呪いの元は千年妖樹。
何があるかわからないそうよ。
最悪、零士の心の中で千年妖樹と戦闘になる可能性だってあるらしい。
この国最悪の大妖の一つと数えられた千年妖樹に、私の力がどれだけ通じるかわからないけれど、それでも泣き言なんて言ってられないわ!
だって、零士を助けるためなんだもの。
私の気持ちや、美奈やみんなとの事なんて二の次よ!
今は、零士を助ける事だけ考えれば良い。
シンプルに。
そして、真っ直ぐに!!
「戻った!」
「ありがとうかすみちゃん!こっちも準備できてるよ!!」
隠岐先生が玄関ドアを開けて飛び込み、私もそれに続く。
すぐに桐谷さんから声がかかり、そのまま居間へ・・・
「っ!?零士!零士!!」
私は、布団の上で寝ている零士を見て脇目も振らずに駆け寄る。
「っ!!阿呆!まだ触んなや!!」
「お姉ちゃん待って!今は駄目!!」
「駄目よ暁月さん!止まって!!」
抱きしめようとしたらすぐに顔色が悪いまま零士の手を握る九重先輩と、零士の胸に手を当てている美奈、そして零士に両手を向けている結城先輩に止められた。
思わずカッとしかけるも、すぐに深呼吸して止める。
「・・・おっけ〜。冷静になれたね、やるじゃん。暁月っち、今は駄目だよ?せーじょの結界と雪羅っちのライフエナジーの受け渡し、それに美奈の回復魔法を阻害する可能性があるから。」
「そっか・・・あの、私が必要と聞きました。計画の詳細を教えて貰えますか?」
私は、桐谷さんを見る。
桐谷さんはいつものポワポワしたでは無く、真剣な表情で頷いたわ。
「うん。よく聞いてて?暁月ちゃんは、今回の肝だから。あのね?」
桐谷さんの説明。
それは本当にここにいる全員の力を必要とするものだったわ。
まず、八田さんが零士の夢、つまり深層心理の中への道を開く。
そして、その道を聖女さんの結界で固定し、ここにいる全員で突入する。
そこからは時間との勝負。
なにせ、これまで零士の回復や身体の固定、エネルギーの供給をしていた全員で突入するのだから、零士はほぼ無防備・・・どころか、一気に消耗が激しくなる。
だから、私がそこから魂への壁を壊して零士を連れ戻す!
零士の命が続く限り、もしくは、零士が零士でいる間に決着をつけなきゃいけないとの事、なのだけど・・・
「零士が零士でいる間ってのはどういう事です?」
「それは私が話すわ。はじめまして。以前、ミナとレイジと旅をしていたミルと言うの。今回の補助をするわ。よろしく。」
疑問に思った事を聞こうとしたら、一歩離れていた人・・・耳が長い・・・エルフ!?生エルフ!?
って、いけない!
「は、はじめまして。妹の美奈と零士がお世話になりました!」
大事な二人がお世話になったのだからお礼を言わなきゃね。
「あら?・・・フフ。ミナはまだしも、レイジまで?ウフフ・・・なるほどねぇ。まったくレイジったら、どこの世界でもホントに変わらないわね。で、さっきの答えなんだけど・・・」
頭を下げてお礼を言うと、最初ミルさんは目を丸くして、そして面白そうに笑った。
そして、零士の状態について話し始めた。
要するに、零士にはこれまで戦って来た相手全ての悪意が蓄積されていて、このままなら命が続く限り永遠に戦い続けるらしいんだけど、場合によっては零士の心は擦り潰され、心の無いただの戦闘マシーンになっちゃうかもしれないって事なのよ。
その場合、零士の理性の
そう、文字通り全てを。
零士は、それほどの力を持っているんだって。
人の軍隊や化学兵器も、
妖魔も、
祓魔師も、
能力者も、
忍者も、
一般人も、
全部が全部破壊対象で、総動員してもその全てを殺す力を持っている。
下手をしたら、神ですらも。
それが零士なんだってさ。
正直、想像も出来ない領域なんだけど、九重先輩も、八田さんも、隠岐先生も頷いているので、間違いないと思う。
そんな事させない。
させたくない。
零士は優しいから、そんな風になったら、後で絶望して自殺しちゃうだろうから。
絶対に助けて見せる!!
・・・それにしても、ミルさんってすっごい美人ね・・・胸は親近感を覚えるけれど。
まさか、零士のヤツ、こんな美人まで毒牙に・・・
「あ、お姉ちゃん違うからね?ミルさんにはちゃんとお相手がいるから。」
「あ、そうなの?なら良いわ。って、美奈あの・・・ごめん。」
ミルさんと零士を交互に訝しげに見ていたからか、美奈が補足してくれた。
思わず美奈と話したものの、ちょっとバツが悪いわね。
でも心配をかけてしまった事は間違いないから、謝らないとね。
「・・・良いよ。後でなんでそうしたのか教えてね?でも、今は、」
「ええ、今は。」
まずは零士の事、ね。
「・・・さて、時間は有限だ。早速始めよう。暁月ちゃん、これを。」
少し雰囲気が変わった桐谷さんがそう言ってチョーカーを手渡して来た。
「これは?」
「君の力を高めるものだ。きっと役に立つだろう。ピーキーだが、君なら使いこなせる筈だ。」
・・・なるほど。
力を込めると良く分かるわね。
たしかに、制御が難しいわ。
でも、
「・・・流石だね。天才と謳われるだけはある。」
チョーカーをつけた後に霊力を込めて起動すると、凄い力が暴れまわったけれど、なんとかその力を御すると関心したように桐谷さんがそう言った。
・・・それにしても、この人こっちが素かしら?
いつものポワポワした感じが無いけれど、なんだか、しっくり来るし。
ま、どうでも良いけど。
この人はこの人でしょ?
何も変わらないわ。
「極東の天才霊具師から直々にお褒めに預かり光栄よ。でも、それは後で受け取るわ。始めましょ?零士を助ける為に!!」
私の言葉に、全員が頷いた。
さぁ、零士。
今から助けに行くわ!!
あんたに惚れてる全員でね。
それに、まだ私、あんたに謝ってないんだから、絶対に無事でいなさいよ!
大嫌い、なんて嘘ついてごめんって。
ついでに私の本当の気持ちを叩きつけてやるからしっかりと受け取りなさい!!
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